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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○竜国 王都 シルル

「きゃっ!」
「おっと、悪い」

 シルルの目の前に現れたのは、クリスタンだった。

「あなた……どうしてここに?」
「ずっと敵の動きを探っていたんだ。それより、どこへ向かうつもりだった?」

「そう! 他の〈右手〉と連絡が取れないの。緊急時には落ち合うよう決めておいたのだけど、だから王城に向かおうと思っていたところよ」

「〈右手〉すでに消されている可能性が高いな。ここ数日、夜に動いていた者たちは、軒並み目をつけられたはずだ」

「なんですって!?」
「声が大きい」

「……っと、ごめん」
 シルルは周囲の気配を探る。他に人の気配はなかった。

「竜国に伝わる昔話だ。聞き分けのない子を叱るとき、親はなんて言う?」
「何よ、急に昔話だなんて……」

「真面目な話なんだ。答えて」
「いいわよ。墓場から出てきた人ならざる死霊が悪い子を攫っていく……でいいのかしら」

「ああ、おれが知っているのと同じだ。元の話は、国を無くした黥人げいにんが人ならざる者になって悪い子を攫っていく話だったのは知っているか?」

「知っているわ。呪国人を不当に貶める話よね、それ」
「そう。だからこの話は改変された。今でも昔の古い話の方を語る人はいるけど、ごく少数だ」

「急いでいるのよ。だからなに?」

「この話には、元ネタがある。呪国人の隠れ里があってね、そこに攫われた子供たちが集められ、戦闘訓練を施されていた。もう何十年も昔の話だ」

「本当なの? それ」

「親父の代の出来事だ。そして今でも、何の変哲も無い寂れた山奥の村で、入れ墨の多い呪国人が多数住んでいたりする。彼らはいつしか自分たちの国を持つことを夢見てね」

「…………」

「というわけで、今回の襲撃。どうやらそんな連中が一枚噛んでいるらしい。呪国復活を夢見て、雌伏の時を何代にも亘って過ごしてきた本物の狂信者たちが動いている」

「まさか、あの火事もそうなの?」
「そう。そしてすでに王城を秘かに包囲している」

「えっ!?」

「城の中から気取られるほど、近くにいるわけじゃない。だが包囲は完成している」

「ちょっ、だったらなおさら城に戻らないと!」

「そう思ったから、おれがここにきたんだ。いま戻れば包囲している呪国人たちに見つかるぞ」

「じゃあ、どうすればいいの?」

「地下水路を通っていく。あそこの罠をかいくぐる方法はここ半月、『死神』から嫌と言うほど、教えられたからね」

「分かったわ。行きましょう」
「おっ、決断が早いね」

「急いでいるって言ったでしょ。それに伊達に王都の〈右足〉をやっていないわよ。あの火事は囮よね」

「正確には囮の囮だね。火事を見に行けば不審なことに気付く。そこで城が危ないと気付くわけだ。そして向かえば……」

「包囲している敵に察知される」
「ご明察」

「でも包囲が完成しているならば、なぜ呪国人は城に攻め入らないの?」
「張っているんだよ、外がやってくるのを」

 以前、魔国の魔道使いたちが王城に攻め入った。
 だが彼らは失敗している。

 それは中からの迎撃と、外からの援軍に挟まれたからだ。

 ならば先に外の援軍を排除してしまえばいい。
 そうすれば城の中はもう、袋の鼠。

 だからこそ包囲しつつも、意識は外へ向けている。
 そして城の中はいまだ、そのことに気付いていない。

「そうと決まればぐずぐずしていられないわよ。それで『死神』は?」
「一足先に……と言えば分かるかな」

「ええ、中は安全……ということね」
「そういうこと。じゃ、行こうか」

 二人は闇の中を移動した。



○ 月戦隊 グンダとシリーズ

 総勢三百五十騎の竜たちが、拠点を出発した。

「左翼離脱開始!」
「了解しました。左翼離脱開始します」

 百騎が離れていく。

「同じく、右翼離脱開始!」
「了解! 右翼離脱開始します」

 そして百騎が離れていく。

 中央に残ったのはこれで百五十騎。
 その中には、三体の属性竜もいる。

 この先、属性竜はなにがあっても、減速、迂回、後退はしない。
 ただ愚直に、支配種がいる場所を目指すのみである。

 そして左右に分かれた部隊は……。



「姉ちゃん、くっつき過ぎだって!」
「いいのよ。あんな離れていちゃ、会話もできないわ」

 グンダ操者とシリーズ操者は、本当の姉弟ではない。

 グンダ二十一歳、シリーズ二十二歳と、ふたりは竜操者としてまだまだ若い部類に入る。

 南方の小さな町に生まれたグンダとシリーズは幼なじみ。
 二人ともなぜか同じ年に竜紋が現れた。

 物心ついたときから一緒に育ってきたため、姉弟のような間柄だったふたりはともに喜んだ。

 一年後、竜の学院に進む。
 すると、今まで見えていなかったものが見えてくる。

「僕ら、いつも竜に守られていたんだね」
「そうみたいね。知らなかったわ」

 学院で竜の強さと優しさを知り、竜操者がいかに月魔獣から国民を守ってきたかを知った。

「僕らもあんな風になろう。人知れずでもいい、どんなときでも民を守れるような竜操者になろう」
「当たり前じゃない」

 姉弟が誓い合った翌年、二人はまるで双子のような、よく似た走竜を得た。

「これでお揃いだね」
「わたしたちはずっと一緒なんだから、当たり前でしょ」

 それから竜操者としてのキャリアを積んで、四年目のこと。
 月戦隊の募集が始まったのである。

 ふたりは示し合わせたように申し込み、選考でハネられた。
 若すぎたからである。

「僕らは国民を守るために竜操者になったんだ。歳が関係あるか!」
 そう言って選抜委員のところへ殴り込みをかけ、すったもんだの末、ここにいる。

「姉ちゃん、月魔獣が現れたよ」
「わたしたちの連携をみせてあげましょう」

 特技は、二体の竜による合わせ技。
 まるで阿吽の呼吸のように姉弟が指示を出し、双子のような竜たちは、それによく応える。

 支配種を巡る攻防は、ここから始まった。


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