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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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 最後の橋頭堡は岩山の上にある避暑地。
 そこへ物資を運び込み、兵の到着を待ってから、進撃を開始する。

 ここからは竜操者たちだけが出発する。
 一般の兵や駆動歩兵は、この橋頭堡を守り抜く。

 僕らが戻ってくる場所を、彼らが安全な状態に保ってくれるのだ。

 決戦を明日に控えたその日、竜操者、駆動歩兵、一般の兵が集められた。

「明日の夜明けとともに我らは出発する。竜操者は思い残すことがないようにしとけ」

 リドルフ副操竜長の言葉に、竜操者全員が頷く。

 決戦の場に向かうのは、僕らも入れて、ちょうど三百五十騎。
 一度出発すれば、死ぬか、戦闘継続ができなくなって帰還するか、勝利するかしかない。

 今日は日が悪いと言って、戻ってくることはない。

 そして僕らが負ければ、この大陸は月魔獣の支配する地になる。

 楽園や、天蓋山脈を越えた先、火乃粉島ならば人が生存できるかもしれないが、それでも多くの人が死ぬ。
 だから負けられない。

「泣いても笑っても、明日、決着がつく。それがちょっと怖いな」
 僕らが人類の命運を握っている。

「そうですね。でも大丈夫ですよ、レオン先輩。絶対に勝ちます」
 アンネラは強気の発言を崩さない。

 こういうとき、楽観的な発言を聞くと、安心する。

 そういえば、アークはどうしただろ。
 しばらく会っていない。

 アークはヒューラーの町を月魔獣から守っている。
 おそらく今もずっと。

「……無事に戻ったら、アークに会いにいこう」
 また死ねない理由ができた。



「わたくしたちの役目は、ここに月魔獣を近づけさせないことです。みなさん、ともに頑張りましょう」
 アンさんが駆動歩兵の乗組員に向かって檄を飛ばしている。

 この橋頭堡は、出入り口が一カ所しかない。
 他は崖に囲まれていて、月魔獣といえども登ってくることは不可能。

 ゆえに駆動歩兵は、その入り口の前に立ち、ここを死守する。

 駆動歩兵は月魔獣相手に、十分すぎるほどの訓練を積んできた。
 ゆえに彼らの表情に不安はない。

 きっと守り通してくれるだろう。



「俺たちは空の敵を寄せ付けないことに全力を尽くすぞ」

 一般の兵たちは飛行種対策に駆り出される。

 大量の機材が運び込まれたのがその証しだ。
 使われるのは技国の機械式射出装置で、空からやってくる月魔獣を撃ち落とす為のものだという。

 射出装置には、矢の代わりに槍が使われる。
 槍の一本、一本が太くて重い。

 そして十分な在庫が積み上げられている。
 これならば、駆動歩兵を越えてきた月魔獣を打ち据えることだってできそうだ。

 僕らが帰還しなければ、アンさんをはじめとした、ここにいる人々も全滅する。
 みなそれが分かっていても、僕らには何も言わない。

 だから僕らは、後顧の憂いなく全力を尽くせる。

「よし、見張りを残して今日は解散だ。各自、よく休むように」

 こうして攻めと守りの心がひとつになって、僕らは最後の一日を過ごした。
 心はすでに明日に向いている。

 そのため王都でおきた変事について、僕らは最後まで何も知らなかった。



○竜国 王都

 陽が傾き、夜のとばりが降りる直前。
 人々が一日の終わりを意識しはじめ、そろそろ食事の準備でもと思い始めた頃、それは唐突にはじまった。

 ――ドーン

 轟音とともに民家のひとつが火を吹き上げ、それが瞬く間に他へ延焼した。

 そこは住宅の密集地。
 あまり裕福でない者たちが身を寄せ合って暮らしている場所である。

 間の悪いことに、折からの乾燥した風は、燃え上がる炎を余所へ、余所へと運んでいった。

「火事だ!」
「延焼するぞ」
「近くの者は逃げろ!」

 人々は燃えさかる炎から、われ先へと逃げ出した。

 黒煙をあげ、赤々と燃えるその火は、王都を襲った厄災のまだ前哨戦でしかなかった。



「どうしてだれも来ないのよ!」

 女王陛下の〈右足〉であるシルル・ヴェーラーは、自らが担当している〈右手〉を待っていたところ、だれひとりやってこなかった。

 しかも全員、行方が分からないのである。

「おかしいわね。いつもはすぐに連絡がつくのに」
 シルルは首を傾げた。

 火事の知らせは、シルルの元にも届いていた。
 最近、王都内に蠢く者たちが大人しくなっていた。ゆえに「まさか」の感が強い。

 先日ハルイからの忠告を女王陛下に伝えたところ、「なら、近いうちに何か王都で起きるかもしれないわね」という言葉をもらった。

 シルルもそう思っている。
 敵はまだ諦めていない。

「何を?」と聞かれると困ってしまうが、おそらく『竜国が存続している』のが気にくわないのだろう。

「攻めてくるなら、いくらでも守ってみせるわ」

 そう意気込んだものの、敵はもう何日も活動らしいことをしていなかった。

 拠点と思しき場所はすでになく、何かしたくても、手立てがないのかもしれないと思い始めていたところだった。

「この火事の混乱に乗じて、敵が行動を起こす気がするわ……でも、どうして〈右手〉と連絡が取れないのかしら。不測の事態が起きたら、かならず集まるように言ってあるのに」

 このままでは後手に回ってしまうかもしれない。
 そう思うものの、自分ひとりではどうしようもない。

 できる判断は、シルルが王城に向かうか、町中に留まるか、火事のある場所に急行するかである。

 ここで〈右手〉を探すのは論外。
 来られるのならば、もうとっくに集まっているはず。

 とすると、〈右手〉は何かに巻き込まれたか、現在戦っている最中か、敵に倒されたかとなる。

「戦闘専門の〈右手〉が王都内で倒されるとは思えないけど……まさか影狩り?」

 非公式ながら、竜国の〈影〉の存在は、すでに事実として語られている。
 ゆえに、〈影〉を倒す専門の集団がいつ出現しても、おかしくない。

 いつかくるかもしれないとシルルは考えていたが、それが今日なのかもしれない。

「影狩りが出たとしたら、敵は最高の手練れ……私は王城に向かった方がよさそうね」

 一人では何も出来ないが、数が集まれば何とかなる。
 そう思ったシルルが駆け出そうとした瞬間。

「きゃぁ!」

 目の前が陰った。

最終決戦です。
今回より、同時進行でいくつかのことが行われます。
それにそって、場面が変わる事があります。
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