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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○竜国 王都 クリスタン

 女王陛下の〈右足〉であるクリスタン・ローザイトは、とある家の屋根にいた。

 隣にいるのは『死神』のふたつ名を持つ、ハルイ・フェナード。
 つい先ほど、突然現れたのだ。

「四人だ。地下水道に集めておいた」

 唐突に事実だけ告げるのは、ハルイの特徴だ。
「どこです?」

「商業地区に、よく目立つ赤い看板の店がある。あの裏手を使った」
「分かりました。死体の回収を依頼しておきます」

「今日はもう一件回るから、追加分も同じ場所に置いておく」
「何人くらいですか?」

「状況次第だが、五、六人で済むはずだ」
 すぐに『死神』の気配はかき消えた。

「はいっ……って、もういないか。レオンと違って魔道を使っていないのに気配を追えない」

 ハルイの身体能力は歳を経てなお健在で、技はますます磨きがかかっている。

「これでまだ成長しているなら、あの人のピークはどこにあるんだろう。……おっと、こうしてはいられない。日が昇る前に済ませてしまおうか」

 王都の〈右足〉に頼んで、死体を処分してもらわねばならない。
 それと今日、仕事を始める前に言われた伝言もある。

 クリスタンは周辺の気配を探り、だれもいないことを確かめてから疾走した。



○王都 シルル

 花屋に併設した家にシルル・ヴェーラーは住んでいる。
 ここが彼女の実家である。

 今夜は眠ることなく、シルルは佇んでいた。
「……来た」

 ほどなくして扉が小さく叩かれる。
 シルルはそっと窓をあけると、そこから黒衣の男が入ってきた。

 夜間に男がやってきたといっても、別段色事に耽るわけではない。
 シルルもまた、女王陛下の〈右足〉なのである。

「また今日も来たね……それで入ってくるところを見られなかったでしょうね」
「大丈夫だ。絶対の自信がある」

「それならばいいけど……というか、毎日毎日、大丈夫なの?」
「ああ。『死神』の面目躍如ってところかな。ソールの町の大粛清を思い出すよ」

「こう立て続けに行方不明者が出たら、王都の住民の中にも、それを思い出す人もいるでしょうね」

 ソールの町の大粛清とは、当時ハルイがソールの町の〈右手〉だったときに起こった大量暗殺のことである。

 実際に死体が見つかった件数だけでなく、行方不明を合わせると、かなりの数の有力者が殺されている。
 表向きは行方不明だが、いまをもっても、だれひとりどこかで生きていたという報告はない。

 すべてハルイが秘密裏に処理しているのである。

「今回はそれ以上になったけど、『死神』いわく『殺らなきゃ殺られる』だそうだ」
「それほどなの?」

「おれも調べたけど、これは根が深いね。分かっていて積極的に手を貸している。これだけ行方不明者が出て、世間を騒がせているのに、思いとどまる気配がない」

「つまり……不退転の決意ってわけね」
「その通り。手駒の呪国人すべてを投入してきている。穏便には済ませられないね」

「……分かったわ。こちらも処理要員を派遣するわね」
「よろしく頼むよ。それと『死神』から女王陛下に伝言だ」

「なに?」
「王都襲撃は、囮の可能性がある……だと」

「えっ? どういうこと?」
「おれはその通り伝えたから。よろしく」

「ちょっ、ちょっと! それだけを馬鹿みたいに報告しにいったら、私が何を言われるか……って、逃げたな」

 クリスタンは開いた窓から身を躍らせて、夜の闇に消えていった。

 一方、取り残されたシルルは頭を抱えた。
 あの『死神』がわざわざ伝えたのならば、重要なことなのだろう。

 だがそれをそのまま女王陛下に伝えれば、言葉の意味を問われるに違いない。
 そしてシルルは、それに答えられない。

「あーっ、私が答えに窮する姿が目に浮かぶわ」

〈左手〉の厳しい視線に晒されることになるだろう。
 頭の痛い問題であった。

「そもそもなんで、自分から王宮に向かわないのかしら」
 シルルは考えたが、その理由は思い浮かばなかった。

「……というか、今の伝言。いつ届ければいいのかしら。明日? 明後日? まさか今日じゃないでしょうね」

 花屋を生業としているシルルは、朝が早い。
 このところ連日、シルルが寝ている所をクリスタンに起こされたので、今日は寝ずに待っていた。

 そろそろ寝ないと明日の仕事に差し障りが出る。
「いいわ。明日の夜、一番に伝えに行きましょう」

 いまだハルイとクリスタンの居場所は掴めていない。
 あのレベルの〈影〉に本気で隠れられると、シルルたちでは見つけることができなくなるのだ。

 明日、伝言を伝えに行けば、そのことも追求される可能性がある。

「やめやめ、もう寝ましょう」
 面倒なことをすべて投げだし、シルルは僅かな時間、睡眠を取るのであった。



 そして翌日の夜。
 案の定、ハルイからの伝言を伝えたシルルは女王陛下から詳細を求められ、答えに窮した。

 周囲に控えている〈左手〉からの冷たい視線も加わり、シルルは「おのれ~」とここにいないクリスタンに、罵詈雑言を心の中に吐き出した。


 これよりしばらく後、「一応の目処が立った」と、再びクリスタンがシルルの元を訪れることになる。

 そのときシルルが取った行動は、手持ちの暗器を思う存分クリスタンに投げつけるというものであった。

 今回の粛清は、三百人近い犠牲を出して終息した。
 そのうち呪国人の死者は、全体の三分の一。

 その他の犠牲者は、商人、従業員、使用人、用心棒……そして竜国の役人であった。
 犠牲者の半数以上の死は隠され、行方不明者として処理されている。

 首都に住む人々は、薄々何かあったのか理解し、そっとその口を閉ざすのであった。

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