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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○竜国 王都 シルル

 シルルは闇の中で声を上げて、慌てて口を塞いだ。
 本日二度目の失態である。

 同時に、三人の呪国人について理解した。
 彼らを倒したのはクリスタンではない。その隣にいる黒衣の男――『死神』が倒したのだと。

 かつて女王陛下の〈左手〉筆頭として、敵対する者を震え上がらせた存在。
 ソールの町に移ってからもその影響力は健在で、悪名高い『ソールの大粛清』を行った人物として、王都の〈影〉の間では畏怖の存在となっている。

(この人がクリスタンの義父で、レオンくんのお父さんなのよね。あの規格外レオンくんに負けず劣らず危険で容赦がないとは聞いているけど……)

 地面に転がる呪国人たちを見て、シルルはそっと息を吐いた。
(事実だわ)

「そっちは何がおこったか把握していないようだな」
「そちらはもう、把握されているのですか?」

 シルルにとって意外だったのは、ソールの町で活動している『死神』が王都に来ていたことである。

 引退していて、最近復帰したという話は聞いていた。
 だが地方都市の話であり、自分たちに関わってくるとは考えていなかった。

 それが王都にいて、しかも事情を把握しているらしい。

(そんなの詳しいって、どういうことよ)
 シルルはクリスタンを睨む。

「月戦隊が発表されてから今日まで、そろそろ敵が仕掛けてくると思って、こっそり準備していたんだ」

『死神』が来たなんて話は〈左手〉の誰からも聞いていない。
 クリスタンもそうだが、女王陛下の前に顔を出せば、その通り名故に〈左手〉の間にも話が広まる。

 シルルの祖父は王城で〈左手〉をしている。
 任務に必要な情報ならば、教えてくれるはずだ。

「いつからこっちへ?」
「出兵式の直後あたりかな。こっそりと王都入りしたので、日中はほとんど活動していないのだけどね」

「…………」
 活動は夜のみと言っている。
 夜に活動している〈影〉はそのことを知らない。つまり、感づかれずに活動していたわけだ。

 最近はとくに神経を張り詰めて警戒していたにもかかわらず、不審な報告はあがっていない。
 あらためて、死神の能力の凄さを思い知るシルルであった。

 同時にクリスタンもまた、『死神』や『闇渡り』を担当できるだけの腕を持っていると思い至る。

「要人暗殺は囮だ。狙いは別にあるぞ」
「そうなんですか? 殺したい相手を次々に狙っているんじゃないですか?」

「違うな。狙いやすくてそこそこ重要そうな連中を殺し、不安を煽っているだけだ。敵の狙いは、〈影〉を夜の要人警護に割かせることにある。とくに使える人材を王都中に散らせることで、後の作戦が成功しやすいように誘導するわけだ」

「とすると目的は他にあるんですか?」
 一応、警護の予定を立てるとき、そういう案も出た。

 だが、ただでさえ難しい要人暗殺を囮にするなど正気の沙汰ではないと、それ以降検討されなかった。

「王宮襲撃だろう。すでに新しい時代が動いているが、竜国の上層部を一掃してしまえば、立ち直るのに時間がかかる。国民の注目も、頼みの綱の竜操者もみな支配種討伐に向かってしまっている。この人手不足の時ならば可能性はある。そう考えたんだろう」

 その上、だめ押しとばかりに夜の警備が散れば、その分確率はあがる。

「ただし、それはこっちも同じ。敵がこの時期に攻めてこないのはおかしいと考えたわけ。だから事前にやってきたのさ」
 クリスタンの言葉にシルルも納得する。

 敵が好機と考えたならば、味方だって「敵が好機と考えたはず」と判断できる。

「それで誰にも告げずに王都入りしたわけですね」
「そういうことだ。昼間は衛兵がよく守っている。夜は〈影〉の領分だが、数が足らないな」

「仰るとおりです。人の流入が増えて、夜の監視が追いついていません。安易に人数を増やせるものでもないので、正直困っていました」

「それで状況は理解しただろ。こっちはこっちで動くから、その三人は処分してくれ。それと、俺たちはずっと王都ここにいるとは限らない。連絡をつけたければ、何か目印を決めてくれ」

「目印ですか……そうですね。でしたら、私の店の軒先に黄色い布を垂らします。それでどうですか?」

「分かった。見たら会いに行けばいいのだな」
「はい。よろしくお願いします」

 シルルが頭を下げたときにはもう、二人の気配は消えていた。

「死神か……話すだけで緊張しちゃうわ」
 若い世代にはピンとこないが、シルルの祖父など名を聞いただけでガタガタと震え出す。
 どれほど恐れられているのかと思うような恐がり方だ。

 それを知っているシルルは、よく知った人物の父、また義父であっても、緊張するのであった。



 シルルはこの日以降も、夜に蠢く者たちを探すため、〈右手〉を投入して、要人を陰ながら見守ったり、不審な者がいないか調査させたりした。

 これまでと変わったことは、ときおり町に放った〈右手〉が、呪国人の死体を持って帰ってくることである。

 彼らの知らないところで闇の者同士の戦闘が行われ、呪国人が敗北しているのだとシルルは説明した。

〈右手〉の面々は、発見できない自分たちにプライドを傷つけられつつも、王都で何かが起こっていると薄々理解し始めた。

 そして、ある日を境に、王都内で頓死する者の数がまったく出なくなった。

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