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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○竜国 王都 シルル

 それは何の前触れもなくおこった。

 王都に住む文官のひとりが、朝に出仕しなかった。
 無断で休むとはと同僚の一人が訝しみ、部下を家に派遣した。

 すると文官はもとより、その家族が寝間着姿のまま、ベッドの上で息を引き取っていたのである。

 頓死とんしという言葉がある。
 原因不明の病死の場合、そう発表されることが多い。

 この文官とその家族は、たまたま同じ日に頓死したとして処理された。
 表向きは。

「……うーん、出てこないか。ありがとう、もういいわ」

 女王陛下の〈右足〉であるシルル・ヴェーラーは、報告に来た〈右手〉たちを労ってから、解散させた。

 シルルは〈左手〉から依頼されて、文官の頓死事件を調べていた。

 新種の毒が使われたことだけは分かったが、「誰が」、「何の目的で」という部分が皆目不明なのだ。

 微細な痕跡は、文官の死が発見されて、多くの人が出入りしたことで消え去っている。

 そこで、日中は聞き込み、夜は周辺の調査を行っていたが、犯人に繋がる情報は出てこない。
 いぜん、目的も何もかも不明のままだった。

「……これ以上は無理ね」

 調査を続けようにも、まずもって、手がかりがない。
 家人が全員死んでいるため、家を見張っても意味が無い。

 この状態で犯人を捜すことは、ほぼ不可能と結論づけた。

「いま〈影〉は貴重だし、こればかりに充てていられないのよね」

〈左手〉に伝えて、依頼を完了させるか、人員の補充をお願いしようとシルルは考えた。



 その翌日。
 とある竜国の商人が、家族もろとも頓死した。
 二度目の事件である。

 いまだ竜国民に知られていないが、そろそろ時間の問題かもしれない。
 商人ならば、知り合いや出入りの業者も多い。

 家族全員が原因不明で死んだとなれば、噂になる。
 すると、少し前に同じようにしてなくなった文官のことを思い出す人も出てくるはずだ。

 これは原因不明の頓死事件から、連続殺人事件へと発展していく。
 そう想像力を膨らませるだろう。

「……まいったわね。事件を終息させるのは難しそうだわ」
 シルルは引き続き、この件に首を突っ込まざるを得ないことを理解した。



「……どういうこと!?」
 シルルは頭を抱えた。

 あれから数日おきに、謎の頓死は発生している。
 すでに不審がる王都民が出始めている。

 死んだ者に共通点はない。
 王城で働く文官、竜国商会の商人、名の知れた芸術一家、衛兵隊長……。

 強引に共通点を上げれば、全員が王都在住で、家族ごと不審死を遂げていることだろうか。

 だが、それが分かったとして、何か変わるだろうか。
「……無様だわ」

 王都中を警戒することは不可能である。
 王都はあまりに広すぎる。

 それゆえ、ある程度重要な場所を選んで、人を張り付かせている。
 それでも被害は防げていない。

「これは人為的なものであるのは明らかなのよね。しかも使われているのは毒。……やはり、ハリムの仕業かしら」

 ハリムは商国五会頭のひとりで、裏で指名手配中である。
 影響力が大きいため、捕まえることはせず、見つけたら秘密裏に処理することになっている。

 ハリムを見かけた者が、天蓋山脈の中で毒死している。
 その毒を所持した者が、王都に潜伏している可能性が高い。

「何を狙っているのか、一切不明なのよね。これは人員を増強して、せめて大商人や貴族だけでも守らせた方がいいのかしら」

 シルルは頭の中で王都の地図を思い浮かべて、必要な〈影〉の人数に絶望する。
 最低でも今の数倍は必要だろう。

 まだ被害が報告されていないが、竜導教会や竜操者など、この国にはまだ失って困る人材は多い。

 いっそ本気で〈影〉を投入して、網を張り巡らせようかと考えた……そのとき。

 ――ドザッ

 シルルの前に死体が投げ込まれた。

「えっ!?」
 死体の数は三つ。みな首が変な方角に曲がっている。

「やあ、久し振り」
「え? ええっ? クリス……っと」

 女王陛下の〈影〉であるときは、知り合い同士でも互いに名前で呼び合わない。
 だれに聞かれるか分からないからだ。

 ふたつ名があればそれで呼ぶし、なければ、あんた、おまえなどで呼びかけるし、おじさん、おばさん、おねえさん、おにいさんなど、一般的な呼称をつかう。

 いくら驚いたとはいえ、本名を発しかけてしまったのは失策であった。

 シルルの前に現れたクリスタン・ローザライトは苦笑し、指を一本口元に立てた。


「ごめんなさい。ついビックリして」
「まあ、気持ちは分かるけどね。それでこれだけど、今回の実行犯……の一部かな。呪国人の暗殺者だ」

「あの頓死事件の?」
「そう。キミが表で探っている間に、裏に潜らせてもらった」

「表って……これでも人知れず動いたつもりなのだけど」
 シルルはクリスタンの言い方に眉根を寄せた。

 つまり、シルルたちの行動は筒抜けで、それをかいくぐるように動いていた集団があったようだ。

 クリスタンはそれを察知して倒した。そういうことだろう。

 だがここで、シルルは不思議に思った。
 クリスタンはシルルと同じ〈右足〉だ。

 戦闘能力は〈右手〉に劣るし、そもそも自分から戦うことはない。
 呪国人の暗殺者など、倒せるはずがないのだ。

「どういうこと? どうやって倒したのよ?」
 詰め寄ったシルルの剣幕に、クリスタンは困った笑みを浮かべた。

「そのことか。もちろん倒したのは俺じゃないさ。隣にいる……って、気付かない?」
「となり?」

 ここは暗がりとはいえ、クリスタンの隣に誰かいれば気付く……そうシルルが思ってよくみると。

「……!!」
 さすがに今度は声を出さなかったが、驚きは今までで一番だった。

「隣にいるのは、俺のお義父さんと言えばわかるかな」

「あなたのお義父さんって……えっ? ……し……し……死神!?」
 シルルの叫びは、闇の中に吸い込まれていった。

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