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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 僕ら学院生は、指示通り一箇所に固まって野営地を設置した。

 現役の竜操者たちは、そこから離れたところに野営地を設置している。
 僕らの野営地を囲むようになっているのは、大人の配慮だろう。

 これなら安心だなと思った途端に、背後で闇が動いた。

「……ッ!」
 僕は、月魔獣と目が合ってしまった。

 月魔獣の出現には三つのパターンがある。

 一番多いのが、二つの月が交差したときに鋼殻こうかくの状態で落下してくるケースで、岩などと一緒にやってくる。

 岩は地上に落ちて砕けるが、月魔獣は違う。
 身体を丸くして落下し、しばらくしてから地上で起き上がる。

 このタイプの月魔獣は総じて防御力が高く、厄介な相手である。

 他のケースとしては、飛行能力を備えているものがいる。
 落下してくるのは同じだが、途中で変形して空を飛ぶので、地上まで落下することはない。
 この月魔獣は行動範囲が広く、発見が遅れると被害が増える傾向がある。

 そして三つ目。
 鋼殻の状態で地上に落下して、そのままのもの。
 ずっとそこに佇むのだ。

 数日から数ヶ月、鋼殻の状態で過ごし、ある日突然月魔獣になる。

 月魔獣は動き出すと十日から二十日で動きが止まる。
 食事を一切しないので、月晶石つきしょうせきという体内のエネルギーを使い切ると死ぬ。

 死んだ月魔獣は本当に岩のようになり、身体の中もそれに準じる。
 月魔獣の寿命は短い。

 そこで寿命が尽きるまで逃げればいいと思えるかもしれない。

 だが、十日も二十日もあれば、なんでもできる。
 近くに町があれば壊滅的な被害が予想される。

 ゆえに見つけ次第倒すことが求められている。



「……これ、時間差の出現タイプだよな」

 目の前に月魔獣がいる。
 だが、天頂に月はない。

 にもかかわらず、僕と野営地の間に月魔獣が存在しているのだ。
 かなり前に落下して、ずっとそこにいたのだろう。

 月魔獣がいる場所をみる。
 大地が大きくえぐれている。

 落下した衝撃で地中に潜るようにしてめり込んだようだ。
 完全に埋没していて、定期巡回でも気付かなかったのだろう。

 僕は笛を吹こうと、腰に手を伸ばした。
 今回の演習に際して、全員が持たされたものだ。

「……いや、まてよ。これはいい機会かもしれない」

 周囲にはだれもいない。月魔獣に気づいた様子もない。
 今回僕は、魔国の襲撃を予想していくつか対策を立てたが、その中で不確定な要素として月魔獣の存在があった。

 月魔獣の出現と同時に襲撃があった場合、竜操者は当然月魔獣にかかりきりになる。
 狙われているのが一回生の場合、竜操者の援護なく戦わなければならない。

 もしくは、襲撃者たちが月魔獣をこちらまで誘導してきた場合も考えられる。

 今まで話にしか聞いたことがなかった月魔獣の強さが分からないことで、対策に自信が持てなかったのだ。

「ここで一戦しておくのは、有効かもしれないな」

 僕はすぐに決断した。戦ってみよう。
 どうせ向こうもやる気だ。

「まずは、よく観察しよう」

 月魔獣は二足歩行し、後ろ足は太く短い。尻尾はない。
 胴体には岩のようなものがゴツゴツと付いている。これはよく見られる特徴だ。
 背中と頭に突起がある。

「亀型かな」

 月魔獣は、大雑把だがいくつかの型に分けられる。
 竜型、蛇型、亀型、馬型などである。他にももっとある。

 亀型は防御に優れている反面、速度はそれほどでもない。
 地竜の突進を止めると言われている。

 もちろん人が相手できるレベルでは決してない。

「まずは、これでどうかな」
 僕は闇に溶けた。
 すると、僕の居場所を見失ったらしく、周囲に視線を送っている。

 魔道は有効なわけね。
 だったら……やりようはあるかもしれない。

 夜は僕の独壇場である。
 どこへでも出現でき、どのような攻撃も思いのままとなる。

 月魔獣の関節を狙って『闇刀やみがたな』を使う。
 だが、どの可動部を狙おうと、僕の剣が通ることがなかった。

 僕が剣を突き刺した程度では、硬い表皮は貫けないことが分かった。

「剣での攻撃は無意味だな」

 人の力が通用しないのはしょうがない。だからこそ竜操者がいるのだから。
 竜の爪はこれを易々と切り裂くのだから凄い。

 剣での攻撃を諦めて、今度は足止めを考えてみる。

 月魔獣の足元に闇を発生させた。

 月魔獣が沈む。驚いたのか、闇の中から足を出そうとするが、それは叶わない。
 この『闇落とし』は一度入ったら自力では脱出できない。

「これも駄目か」

 両足が闇に溶けるように沈んだが、それだけだ。
 身体全体を闇に沈める前に沈下ちんかが止まった。

 いままでも『闇落とし』の魔道には限界があった。
 今後の精進しだいだが、いまの実力では月魔獣の身体を完全に落とすのは難しい。

「……さて、残りの手はあまり残ってないな。倒せないまでも、足止めくらいはできるかと思ったんだが」

 奇襲や暗殺ではなく、こうして相対するような相手では、僕の打てる手が限られてくる。

 月魔獣のことだ、すぐに『闇落とし』から脱出してくる。
 残された時間は少ない。

 いま僕にできる最大の攻撃魔道を叩き込んでみよう。

「最近使えるようになった魔道だけど、これが効かなきゃ、お手上げだ」

 威力はいま僕が使える中で最大。
 ただし、直線上にしか進まないため、実戦ではどれだけ使えるか未知数の魔道。

『闇落とし』で沈んだ状態から抜け出そうとあがいている月魔獣に、僕は『闇鉤爪やみかぎづめ』を放った。

 漆黒の一本爪が月魔獣を襲う。
 僕と影がつながっている状態ならば、そのまま届く。

 影を伝って月魔獣に届いたその攻撃は……。

「これでもだめか」

 月魔獣の体表で弾かれた。
 防御に特化しているので、威力が足らなかったようだ。
 これにはちょっと落ち込んだ。

「真正面からの攻撃は専門外だからかな。それともこれが特別硬いとか」

 初めての月魔獣戦だが、どうやら僕には倒すことができないらしい。

 僕が見ている前で、月魔獣は『闇落とし』のくさびから抜け出してしまった。
 時間切れである。

「父さんなら倒すのは無理でも、足止めはキッチリできただろう。いや、倒すだろうな」

 そう思うと、なんだか腹立たしくなってくる。

 熟練度の差といえばそれまでだが、月魔獣相手にも苦戦すらしなさそうだ。
 余裕で倒す姿が思い浮かぶ。

「今日のところは、ここまでかな」
 月魔獣が『闇落とし』から脱出したところで僕は笛を吹いた。

 笛の音が闇夜を切り裂き、あたりに一面に響き渡った。

「……やれやれ、魔国の魔道使いたちは、魔道だけでこれを倒すんだろ。そんなのがやってくるなんて、強敵かもしれないじゃないか」

 遠くの方で騒がしい音が聞こえてきた。
 あとは彼らに任せるか。どうやって倒すのか、見せてもらおう。

 怒り心頭の月魔獣を眺めつつ、僕はそんなことを思った。


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