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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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 アンさんを連れて帰還すると、ちょうどソウラン操者が到着したという一報が入った。
 副操竜長のところにいて僕を呼んでいるというので向かった。

「やあ、頑張っているようだね」
 ソウラン操者は、僕の顔を見るなり労いの言葉をかけてくれる。

「お久しぶりです、ソウラン操者。もう、式典の方はいいんですか?」
「七大都市をすべて回ったからね。これで都市への義理は果たしたと見ているよ」

 竜国の七大都市は、月戦隊へ兵や物資などを多く供出することが決まった。
 これは竜国議会で決定されたことで、各町の領主は従わねばならない。

 そのかわりと、町の有力者を納得させるための式典の開催、王都から王族の参加を要請されている。

 ソウラン操者はそれに巻き込まれた形だ。
 王族はサーラーヌ王女が出席している。

 彼女の性格からすると、嬉々として参加したのではないかと思っている。

 町の人々を納得させるのは領主の役目とは言え、今回はイレギュラーなことでもあり、王都も操竜会も協力すべき案件だったのだと思う。

 各町へ駆り出されたソウラン操者は、気の毒なことだと思う。

「町の人々は概ね、好意的に見てくれていたよ。ちゃんとお忍びで回っていたからね」
「当たり前だ。我々もしっかりとその辺は調査している」

 副操竜長も国民の感情を常に把握していたいらしい。
 何しろ、各町に配備した竜操者を借り受けるわけだから、町の防備力が下がる。

 それを良しとしない者が声高にわめけば、思わぬ所から足を掬われかねない。
 やはり人の上に立つのは大変なんだなと思ってしまう。

「もちろん操竜会がやることですから、抜かりはないと思っています。ですが、念のためですね。そういえば、こっちの計画が早まっているようですね」

「ああ、レオン操者とアンネラ操者のおかげでな。その分、使える道を確保するのに難儀しているが」

「ははぁ……属性技ですね。あれを使ったあとは、地形が変わりますからね」
「そういうことだ。あの威力は一部の竜操者しか知らなかったからな」

「魔国がありましたので、過小評価してもらうよう、なるべく宣伝していませんでしたからね。俺も使うときは目立たないようにしたので、苦労しました」

 仮想敵国があった時代に竜操者をしていたソウラン操者の言葉だ。

 本来、自分たちの事を大きく、強く見せて、敵対しようという気をなくさせる方法もあったが、それでも国同士の衝突は起こる。

 いざ戦ってみたら味方はハリボテで、町が落とされましたでは困ってしまう。

 国と国の戦いは長期戦になるのが普通なので、一戦して蹴散らして、相手の戦力が予想以上だったと、その時点で引き際を考えさせる目的にシフトしていたらしい。

 属性技の場合、単純に示威行動をするには被害が大きすぎたのだろうけど。

「ソウラン操者には、明日から前線で戦ってもらう」
「分かりました。休んだ分を取り返すつもりで頑張らせてもらいます」

 僕がいま先頭を進んでいるので、そこをソウラン操者と交代。
 アンネラは左右の掃討担当だったので、僕と左右を分ける形になる。

 そんな感じで明日の振り分けをして、僕はソウラン操者から別れた。

 そのままアンさんの所へ、明日の予定が変わったことを知らせに行ったら、腕を掴まれた。

「レオンくん、お話があります」
「……はい」

「二人っきりで」
「はい!」

 あれ? これはと思ったら、いつになくアンさんは真面目な顔だった。

 といっても、二人きりになれる場所はあまりない。
 そのため一番小さい作戦会議室を借りることにした。

「一時間しか借りられませんでしたけど、ここならば大丈夫です」

「そうですか。……ではレオンくん。単刀直入に言いますけど、戦後のことをどう考えておりますか?」
「はい?」

 ちょっとよく分からない。
 これはあれか。
 僕と二人でパン屋をやる計画のことだろうか。

「新しい窯は必要だと思います。幸い、知り合いの職人がいますので、注文しておこうかと思っています」

「えっと……何の話でしょう?」
「パン屋の話ですけど?」

「…………」
「…………」

 僕とアンさんは見つめ合った。
 といっても、艶っぽいことはなにもない。

 どうやら僕らの間に、意見の相違があるようだ。

「このままですと、レオンくんは……いえ、レオンくんだけではないです。他の属性竜持ちの処遇も大変なことになるかもしれません」

「えっ? どうしてです?」
「時代が変わるからです。簡単にお話ししますわね」

 そう言って、語ってくれたのは、以下の内容だった。

 いま、女王陛下が属性竜の竜操者であることは非常に助かっている。
 支配種が倒され、その後、支配地域にいる月魔獣が徐々に倒されて減っていったとする。

 大転移も数年後には収まる。
 そうすると、長い安定の時期がくる。

 女王陛下はすでに四十代後半。
 十数年後には六十歳を迎えている。

 その頃僕の年齢はまだ三十歳そこそこ。
 必ずやってくる世代交代。

 女王陛下が亡くなってから、息子に王位を譲ることはない。
 これまでもそうだったが、支配の安定化のためには、現王が健在のうちに世代交代を済ませ、地盤を継承させる必要があった。

 そして僕ら属性竜持ちはビルドラード王子と親しくない。
 現女王にべったりである。

 女王陛下の引退とともに公職を辞することになるだろう。
 王子がやりにくいからだ。

 これはいつの世代もやっていたことである。

 だが、属性竜持ちが果たして簡単に引退できるのか。
 引退と言っても公職に就かなくなるだけで、存在は変わらない。

 周囲が放っておくかという問題もあるし、ビルドラード王が放っておくかも分からない。

 戦後、僕らの立場は微妙になるかもしれないというのだ。

「アンさん、考えすぎでは?」

「いえ、属性竜の強さが分かったいま、恐れは現実となったと思いました。思い返せば、祖父がこう言っておりました。『レオンくんをこちらに連れてきてはならない。おまえが竜国で骨を埋めるつもりでいろ』と。わたくしは、国家間の情勢に配慮しての発言かと思いましたが、シャラザードさんの力を見て、考えを変えました。これはわたくしの国に絶対に持ってきてはいけない力だと」

 シャラザードがもし技国に住みつくようになったら、竜国は穏やかではいられない。
 属性技一発で、王都が灰になる。

 いつでも国を滅ぼせるのである。
 それが他国に渡るならば、その前に……と考えてもおかしくない。

 シャラザードやターヴェリは、竜国にあって竜国のために戦う存在でなければならない。
 それが崩れると考えたとき、双方に悲劇が待っていると。

「ですから、レオンくんの戦後のビジョンを知りたいと思うのです」



(……パン屋です)

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