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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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 ビルドラード王子の性格を一言で表すならば「真面目」であろう。
 これに異を唱える者は皆無である。

 中には「生真面目」と表するかもしれないが、意味は同じ。
 口さかない者は「堅物」とか「融通が利かない」と表するかもしれない。

 それでも王子が真面目であることを否定することはない。
 そう、彼は真面目なのだ。

 月魔獣の支配地域内に橋頭堡きょうとうほ――つまり、点々と自分たちの陣地を作っていく今回のやり方は、最も少ない労力で最大の効果を上げられるよう考え出されたものだった。

 ただし、いきなり実戦投入では難があるため、実験と称して安全な場所に本番さながらの橋頭堡をひとつ作ってある。

 石壁と木杭を併用した頑丈な擁壁ようへきは、走竜の突進を何度かふせいだことで、合格をもらっている。

 この擁壁を設計したのは技国から来た技術者集団である。
 安全な場所で枠組みを作成し、分解した状態で現場まで運んですぐに組み立てる。
 それを実現させている。

 そしてビルドラード王子であるが……。

「私はこの作戦の総責任者であると聞いている」
 橋頭堡の実験場で、ただいま会議の真っ最中である。
 そして王子は、先ほどから理詰めでリドルフ副操竜長を困らせている。

「殿下の身にもしものことがありましたら大変です。ここは自重くださいませ」
 副操竜長は下手に出ているが、内心「いい加減、察しろ」と思っていることだろう。

 一体何を揉めているかといえば、王子が前線行きを希望して、副操竜長がそれに待ったをかけている状態だ。

 王子はお飾り。いわゆる作戦の箔付けだ。
 現場に出られると、護衛だ何だと人を割かねばならない。

 面倒なうえに、作戦行動に一切関与しない存在でもある。
 王都で結果だけ聞いてほしいというのが、現場にいる全員の願いだったりする。

 だが王子の性格は真面目……生真面目と言っていい。
 自分が総責任者であるから、危険な場所にでも行くし、何かあった場合の責任は自分が取ると言って憚らない。

 ――迷惑この上ない

 というのが正直なところである。

 いま僕らがいるこの橋頭堡は、そのうち放置される。

 材料はそのまま。もし、支配地域内で使われたものが破壊された場合、予備としてそのままの状態で持って行くことが決まっている。

 つまり、僕らが次の橋頭堡に移ったとき、王子についてこられると困るのだ。

「総責任者は責任を取るために存在する。ゆえに私はその責務から逃れることはしたくない」
 正論である。上に立つ者のかがみでもある。

 これが平時ならば、名君として後世に名を残したことだろう。
 はっちゃけお転婆のサーラーヌ王女とはえらい違いである。そう、えらい違う。

 ビルドラード王子がとてもよい性格をしている反面、サーラーヌ王女はとてもよい性格をしている。
 言葉は同じだが、受ける印象が真逆である。

「……どうしてこう、王族というのは両極端な人しか生まれないのだろう」

 僕は会議の場にもかかわらず、こっそりと息を吐くのである。
 何しろ誰にも注目されていない。



 このトップレベルが参加する会議だが、なぜか僕もメンバーに入っている。
 作戦の肝を担当する者が全体の流れを知らないのでは、作戦成功そのものに影響を及ぼすと、これもやはり王子の言葉だ。

 王子肝いりで、僕らの参加が決まった。
 といっても、ソウラン操者とアンネラはまだ別件でいないので、属性竜持ちは僕だけだったりする。

 そして僕はいま謹慎中。発言は許されていない。
 そのため会議も傍聴のみ。椅子が与えられてない。
 会議室の一番後ろで黙って聞いているだけなのだ。

 謹慎の理由はシャラザードの咆哮だ。
 僕がシャラザードを制御できていないことで、王都の民を徒に不安にさせた。
 また、竜を制御できていないことで、作戦行動そのものに影響を及ぼす。

 以上の理由を自覚させるために、謹慎とあいなった……らしい。

 ビルドラード王子は仕事ができ、人の数倍勤勉に働く。
 真面目で有能だが、影響力が大きすぎるわりに自重しない。
 そんな性格と行動力が、僕の謹慎にも表れていると思う。

「……さてどうしたものか」

 会議は副操竜長が言い負かされて終わった。
 作戦の最後まで、王子は前線にいることが決まった瞬間である。

          ○

 その日の夜、全身黒ずくめの男が月戦隊のいる砦の中を歩いていた。
 男は竜国の〈影〉が守る一帯に近づき、その警戒網に引っかかった。

〈影〉は侵入者を処理するために向かう。
 抵抗しなければ捕縛するが、少しでも抵抗のそぶりを見せれば、すぐに屍となるだろう。

 なにしろ、ここにいる〈影〉は王族を守るために訓練され、現場に投入されている最精鋭なのだから。

「――ぐっ!」
「ぐはっ!」
「うぐっ!!」

 瞬く間に三人の〈影〉が倒され、残りの二人も何が何だか分からないうちに昏倒させられた。



 翌朝。

「なんだこれはっ!?」
 目を覚ました王子の顔の横に短刀が一本、突き刺してあった。

 誰かが王子の寝所にやってきて刺したのは間違いない。
 だが、竜国の王族の枕元に立てる者など、本当にいるのだろうか。

 王子には護衛がいる。近衛兵だ。
 不寝番である。彼らはどうしたのか?

「……ぜ、全員、骨を折られて転がされていただと?」
 女王陛下を守る近衛兵の中から、比較的若い者が選ばれていた。

 だが昏倒させられ、縛り上げられた状態で発見された。
 頼みの綱の〈影〉も同じである。腕か足を砕かれて、そこらに放置されていたという。

「これは警告か……それとも偶然狙いが逸れたか」
 王子は命を狙われたものの、無事に朝を迎えられた。

 ただし護衛は使いものにならなくなった。
 一旦護衛を戻し、新しい護衛を連れてこなければならなくなる。だが……。

「その間、王子の身を守る者はいなくなりますな」

 副操竜長の言葉に、王子は頷かざるを得ない。
 そこらにいる者に護衛を任せるわけにはいかないのだ。しかも……。

「今回は良かったですが、今後も同じようなことが起こるかもしれませんぞ」

 それは王子にも分かった。侵入者に軽くあしらわれた護衛たちである。
 数を倍にしても不安が残る。結果……。


 王子は王宮に戻ることになった。

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