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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 王都から一番近い陰月の路までは、馬車で三日と半分。
 演習に向かう場所は、それよりも少し遠くて、馬車で四日以上かけて進む場所だと通達があった。

 僕はいま、マーティ先輩の走竜に便乗させてもらっている。
 先輩が前に座り、僕がその後ろに乗っている。

「竜に乗ればその日のうちに着くわけか。これに慣れちゃうと、馬車の旅はできなくなりそうだ」
「そうだね。これでも地竜と一緒だから、だいぶ余力を残しているんだよね」
 前からマーティ先輩の声が聞こえた。

 単純に速度だけを考えると、地形の影響を受けない飛竜が一番早く、少し遅れて走竜となるらしい。
 地竜は大きくて頑丈なため、どうしても急ぐ移動には適さない。

 一瞬の瞬発力を発揮する場合は、走竜が抜きん出ている。短距離を走らせたら、どうしても安定飛行するまで時間のかかる飛竜は分が悪い。

「地竜の速さに合わせた方が、体力的には楽ができますね」
「そのかわり、走竜は二本足だから、減速時の安定感がね。地竜のように四足ならば気にしなくていいのだけど」
「なるほど」

 僕たちは二回生の操る竜に便乗させてもらっている。
 寮の同室でペアを組むのだが、奇数の場合があるので、あまった者は学院を卒業した竜操者が対応してくれる。

 僕はずっとマーティ先輩と組んでいるので、今回も同乗させてもらっている。
「ふと思ったのですが、走竜が本気で長距離を走ると、どんな感じになるんですか?」

 短距離なら何度か乗ったことがあるが、さすがに半日も騎乗したことはない。

「僕たちはこの演習に付いてこられるように、このところ遠出ばかりしていたんだ。全速力の竜に乗るのは、半分命がけかな。短距離ならば集中していればいいけど、何時間も集中力は続かないだろ? 長距離の場合は、龍の動きを身体で覚えこまないと、集中が切れたときに投げ出される危険があるからね」

 思ったより壮絶だった。

 マーティ先輩は走竜を操るが、その方法は穏やかだ。
 常歩なみあしの場合、音にすると、トーントーントーンと軽快な感じで進んでいく。

 これが地竜になるとドスドスドスと地響きをあげるので、いかに走竜が軽く走るが分かる。

 ただし、速度を上げるとだんだんと様子が変わってくる。
 トットットッと進んで、しまいにはトトトトという音に変化する。

 そうなると、乗っている方は、小刻みに身体が上下するのを延々と我慢しなくてはならない。

「胃がひっくり返るね」

 竜だって身体を揺らさないように走っている。
 だが、竜の身体は人にくらべて、明らかに大きい。

 小さな揺れでも、人にしたら身体の内容物をシェイクされるくらい揺れる。

「ゆっくりで良かったですね」
 さすがに僕も、行軍途中でリバースしたくない。

「ちなみに、楽と思われている飛竜だけど、あれはあれで大変らしいよ」

 上空は気流が乱れていることが多いらしく、不意に急降下することもあるという。
 もちろんそのまま地面へということはないが、身体を立て直すために激しく翼をはためかせ、そのたびに竜操者は必死にしがみつくのだとか。

「さすがにどの竜も、長距離移動は体力勝負ですね」

 よく言われることだが、人の限界で竜の行動範囲が決まるのだ。
 昼前に出発してから小休止を三度入れて、その日の夜に野営場所に到着した。

 テントを張るのは一回生も二回生も変わらない。
 長距離移動のあと、わざと自炊のための施設をつくり、休憩所を作らされる。

「これも訓練の一環か」

 分かっていたが、身体がだるい。眠い。パンを焼きたい。
 これは同じ姿勢をずっと保っていたことによる疲労だ。

 眠い目をこすりながら、僕たちは寝床をつくり、食事を作った。
 食事をしていると、教官がやってきた。

「ここは陰月の路から少し外れたところにある。月魔獣が直接このキャンプを襲うことはないだろうが、注意を怠るわけにはいかない。順番を決めて歩哨を立てるように」

 なかなかに厳しいお達しだ。
 六十人弱の集団で歩哨を八人出すことになった。

「公平にくじで決めようか。一回生と二回生で四人ずつ。それでどうだろうか」

 二回生のひとりがそう提案した。
 指名しても不満が出るし、仕方がないかもしれない。

 だれもが自分が当たらないようにと祈る中、くじが引かれた。



「……で、こうなるわけね」
 僕は二回生の先輩と一緒に歩哨に立つことになった。

「よろしくね」
 僕と一緒に歩哨に立つのは、イリス・ソーディ先輩だ。

 首に赤いマフラーを巻いている。
 寒がりというわけではなく、首元に竜紋が現れたらしい。

「僕は周辺を見回ってきます」
「レオンくんは真面目だね」

「何かあったら、命にかかわりますから」
「たしかにそうだ。ボクは行かなくてよいのかな?」

「野営地を見張らなきゃいけませんしね、何かあったら笛で知らせてください」
「分かった。レオンくんもね。それと、充分気をつけるように」

「慣れてますので」
 それだけ言って僕は野営地をあとにした。

 実際、最初に歩哨に立てたのは良かったのかもしれない。
 この野営地で数日間滞在してから、ちゃんとした宿泊施設に泊まる。

 それを何回か繰り返して演習が終わるのだが、この演習で何度か月魔獣と戦うことになる。
 僕自身いまだ月魔獣を見たことはない。

 月魔獣の脅威は、話にしか聞いたことがないのだ。
 実際どのくらい強いのかすら、よく分かっていない。

「陰月の路から外れた都市に住むと、そんなもんだよな」

 僕だけが特殊ではなく、ソールの町で月魔獣を見たことがある同年代はいないのではなかろうか。

 闇に溶けたまま、周辺の地形を把握する。
 魔国からの襲撃が考えられるが、この地で野営することは知らないはず。
 なので、今日はあまり心配していない。

「問題は、野営ではなくて、拠点にいるときかな」

 義兄さんたちが向かった先には、町の跡地がある。
 大転移の時に滅びた町だ。

 近くに月魔獣が落下する可能性があるため、再度そこへ町を建設する計画はなかった。
 いまでは、竜操者の滞在用地として活用している。

 規模は最小限だが、壁を作り、かなり手を入れたらしい。
 早く見てみたいものだ。

「……よし、こんなもんでいいかな」
 周辺の探索は終了した。

 驚いたのは、本職の竜操者たちがちゃんと僕たちの野営地を囲うようにして配置されていることだった。
 これなら、よほど運が悪い場合をのぞいて、僕らが寝入っても問題ないだろう。

 と思っていたら、背筋の闇が動いた。

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