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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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006

「こんにちは、お義父とうさん。……レオンはいますか?」
「おう、クリスタンか。あいつなら裏へ行ってみ。火の番をしているはずだ」

 ソールの町にあるパン屋、『ふっくらフェナード』にやってきたのは、クリスタン・ローザイト。
 パン屋の主人ハルイ・フェナードは、義理の息子の姿をみて、笑みを浮かべた。

 クリスタンは、ハルイの娘であるエイナと数年前に結婚している。

「火の番……ということは、もう報告書は書き上がったんですね」

 クリスタンが言うと、ハルイは腕を組んで頷いた。

「オレが仕込みに向かうときは、ウンウン唸ってたけどな。中途半端な仕事をするようには鍛えてねえから、大丈夫だろう」

「じゃ、行ってみます。……そうそう、小耳に挟んだんですけど、レオンが王都に行ったら、現役復帰するんですね」

「こんなロートルじゃしょうがねえと思うが、たっての頼みってことでな」
「ご謙遜を……この町に住む仲間なら、だれ一人だって忘れた者はいませんよ」

「現役復帰しても、お手柔らかにな」

「いえいえ、こちらこそ、よろしくご指導ください。すべては……」
「ああ、すべては」

「それじゃあ、僕は裏にまわります」

「おう。あとでこっちに顔を出せ。昨日の残りをくれてやる。家に戻るんだろ?」
「ははっ、ありがとうございます……妻の土産にしましょう」

 ソールの町のもと〈右手〉であるハルイと、隣の町で〈右足〉をしているクリスタンは、義理の親子となる前から旧知の仲である。

 勝手知ったる様子で、クリスタンは店の裏に向かった。

               ◯

「レオン、いるか?」
「あれ、義兄にいさん。ずいぶんと早いね」

 クリスタン義兄さんは、任務の時以外では、僕のことをレオンと呼び捨てにする。
 任務だと、義弟おとうとと呼ぶけど、それは周囲を警戒してのことだ。

「馬車が一台出るんでね。報告書があがっていたら、それに乗っていく」

「勤勉だね。夜は自分でも走るんでしょ」
「もちろんさ。少しでも早くお届けするのが、俺の使命だからね」

「報告書はもうできあがってる……はい、これ」

 結局、悩みに悩んで書き上げたものだ。
 肌身離さず持っていた筒を義兄さんに渡す。

「確認するよ」
「存分に」

 義兄さんは中身を確認して、「うん、まあいいんじゃない」と上から目線で評したあと、懐にしまった。
 中身は人に見られてもいいようになっている。

 人名や地名などは、あらかじめ決められた符丁ふちょうを使うようにできているし、言い回しも独特なものが使われている。

 こんなものを欲しがる連中もいないのだけどね。

「噂で聞いたけど、『死神』が復帰するらしいね」
 噂って……どこに流れている噂だよ。

「部署が違えば、情報は流れないはずだけど、よく知っているね」

「俺は〈右足〉だからね。渡りをつける必要上、その手の情報は自然と入ってくるものなのさ」

 時がくれば教えてくれるだろうが、事前に知っているとは思えないのだけど。

 もちろん、僕も父さんも誰かに話したりしない。
 ということは、女王陛下か?

「僕なんか、この町にいる同業者すら、紹介された人以外、だれも知らないんだけどね」
 一応、町の北部にいる〈右手〉はひとりだけと聞いている。
 中部と南部にひとりずついる。

「あー、それを教えるのも、ご法度だからねえ」

 女王陛下の〈影〉は、さまざまな部署に分かれていて、互いに面識はない。

 ひとつの部署が敵に見つかり、運悪く壊滅したとしても、他と一切の交流がなければ、生き残ることができるという考え方に基づいている。

 義兄さんも他の七大都市については、まったく知らないと言っていたし。

「その辺は気にしていないけどね」

 ヘルプで出ることもあるが、僕はひとりで動くのが好きだ。
 複数人で当たる任務は、今後もそんなにないと思う。

「じゃ、たしかにこれは頂いたよ。……そうそう、王都に行く途中に、僕の町に寄るだろ? 店の方に顔を出してね。妻には言っておくから」

「分かった。姉さんによろしくって伝えておいて」
「伝えておくよ。それじゃあまた会おう」

 クリスタン義兄さんは、手を振って去っていった。

「王都か……まえに行ったときは、観光するヒマすらなかったんだよな」

 三年前、僕が十四歳の誕生日を迎えた日。
 父さんに連れられ、女王陛下に代替わりの報告をしに行った。

 帰りに僕がひとつやらかしてしまったため、逃げるようにして、この町に戻ってきた苦い経験がある。

 二度目の王都は楽しみでもあるが、自分の使命を考えれば、気が重くもなる。

「……なるようになるか」

 いまは考えないことにした。
 自分のこれからのこと……竜操者については。

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