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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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 竜導教会は王都に本部をおき、七大都市の各町に支部が存在する。
 教会は、ほとんどの町に存在するため、竜国民で竜導教会の神官を見たことがない人はいないと思う。

 竜導教会の教義は、竜を崇め、竜とともにある人々を守ることにある。

 月魔獣によって親を亡くした子供は率先して引き取り、次代を担う神官として教育を施している。

 そして竜導教会と竜操者は竜を通して交流があり、その過程で互いのことをよく知るようになる。

 リギス教会長が口にした聖地とは、竜の聖門がある場所のことだ。
 竜の谷にある『竜がこの世界に出てくる入り口』を指す。

「あそこは一般の人は立ち入り禁止だと思いますが」

 議員の一人がそんなことを言った。
 他の人たちも頷いている。

 僕自身、竜の聖門まで行ったのは一度きり。
 二度目はその手前までで引き返した。

「さようです。竜の聖門があるあの地は聖地として人々の目に触れることはありません。竜操者およびわたしども神官、そして王都の兵によって厳重に守られておりますゆえ」

 竜の聖地は王都の北にある。
 もともと竜国民はあの場所を神聖視しているため、近づく者はいない。

 僕ら竜操者もそうだ。
 そして守りは厳重。
 何かあってはいけないとばかり、かなりの兵が警備しているはずである。

 たしか、竜の聖地を専用に守る〈影〉がいたんじゃなかったかな。

 噂でしか聞いたことがないが、通常の〈影〉とは別に、独立して存在している一団がいるらしい。

「ではあそこで何か起こったのでしょうか」

 みなの疑問はもっともだ。
 竜の聖地は、本当に竜国にとって大事な場所なのだ。

「わたしどもは、あの地で祈りを捧げます。竜の聖門のある場所までは行きませんが、その入り口まででしたら、多くの神官が訪れ、祈りを捧げるのです」

 入り口とは、竜の谷の入り口だろう。
 竜迎えの儀ではその奥まで入っていくが、通常、神官はその手前までで引き返す。

「それは分かっているが、何かおかしいところがあったかな」

「はい。リドルフ副操竜長でしたらお分かりでしょうか、わたしどもはあの地のことはよく知っています。それこそ岩の出っ張り、地面のへこみ具合のひとつひとつまで」

「……というと」

「侵入者が出たように思います。教会に問い合わせも来ませんでしたので、まだ気づいた方がいらっしゃらないのかと思い、かの地を守る方々には知らせております」

 リギス教会長が言うには、壁面の一部が壊れていたらしい。

 もちろん風化や、大風で剥がれることもある。
 だが、教会長は長年の勘で、そのようなものではないと見抜いたらしい。

「ふむ、壁か」

 リドルフ副操竜長が悩む仕草をした。
〈影〉である僕は知っているが、あそこには非常に分かりづらい感知結界が敷かれている。

 僕は竜迎えの儀のときに気づいたが、通常、魔道使いであっても気づかないほど、自然に配置されていた。

 おそらく副操竜長はそのことを知っているのだろう。
 そして、壁の一部が剥がれていたということは、侵入者がいた場合、感知結界の存在に気づき、壁を伝って移動したとことになる。

「警備を厳重にするようお伝えしました。それでわたくしは満足ですし、聖地を守る方々は日々頑張っていただいております。みなさまには念のため、お伝えした次第です」

 リギス教会長が頭を下げたので、話はそこで終わった。

 これですべての意見が出尽くしたため、会議は終了した。

 みな部屋を出て行くなか、僕は最後の件について考えた。

(竜の聖門だけが竜をこの世界に呼び寄せることができる。もしこれがなくなれば、竜国は大きなアドバンテージを失う。同時に月魔獣に対抗することが不可能になる。それを望んでいるとは思えないけど……)

 竜国の守りは万全だと思いたい。
 さすがに聖地を荒らす者には、容赦しないだろう。

 だが、これまでのこともある。
 僕は一抹の不安が、どうしても拭えなかった。



 会議が終わった後、僕は久しぶりに〈影〉の姿になってシルルお姉さんと会った。

 密会場所は大きな川が流れる橋の下。
 ここは真っ暗なので、僕の姿が隠れるから良かったりする。

「久しぶりね。元気していた?」
「それなりですね。それよりいくつか確認したいことがあるんですけど」

「商国の動向かしら?」
「そうです。商会の動きとハリムですね。あとは、竜の聖門について」

 そこまで言ったとき、お姉さんが少し身じろぎした。
 真っ暗闇なので、そんな雰囲気が伝わってきただけだが。

「竜の聖門については知らないわ。何かあったの?」
「でしたら、知っていることだけまず教えてもらえますか?」

「なんかすごく気になるんですけど」
 お姉さんは少しだけ気分を害したようだ。

「そう言われても、僕も今日聞いたばかりなので、詳しいことは知らないです。お姉さんの話を聞いたあとで、ちゃんとこっちも話しますよ」

「……分かったわ。まず商国商会が揺れているわね。造反があっただけだと思ったら、日和見に走った商人が思いのほか多かった感じかしら。とりまとめをする五会頭の多くが不在ってことで、混乱に拍車がかかっているのよ」

「その混乱、収まりそうですか?」

「無理ね。これから燃え上がる感じ。いま多くのお仲間が注目しているわ。多方面から情報を集めている最中ね。もしかすると、いくつかに分裂するかもしれないの」

 この混乱、ミドレイが作った商国商人連盟が効いているのだろう。
 その辺は分かった。問題はハリムだ。

「ハリムの動向はどうなりました?」
「見つかっていないわ。王都にはいないと思う」

「そうなんですか?」
 前の予想と違うな。

「ハリムが頼りそうな商人は、こっちが目をつけているもの。彼らに動きはない。というより、連絡が取れなくて焦っている感じかしら。あれが演技としたら大したものだけど、それはないというのが見解ね。あと、地下組織はほとんど壊滅しているので、そっち関連も動きなし。もしハリムが王都に来ているのならば、単独行動になるのだけど、さすがにそれで人の目を欺くことは難しいでしょう。というわけで、王都にいないというのが結論よ」

「なるほどそうですか。分かりました。ありがとうございます」

「それでさっきの話だけど。竜の聖門がどうしたの?」

「今日の会議で竜導教会から話があったんですけど」
 僕は、竜の聖地に侵入者が出た話をした。

「……そうなの。それはおかしいわね」
「あそこにも〈影〉がついているんですよね」

「ええ。詳細は私も分からないくらい、あそこは秘匿されているのよ。その分優秀な者がいるって聞いているわ」

「ということは、もし侵入者がいた場合……」

「もの凄く優秀な者ってことになるわね」

 お姉さんの言葉に、僕の不安は増大した。

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