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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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 会議が終わってから数日後、僕はヨシュアさんから連絡をもらった。
 リンダじゃなくてヨシュアさんからなんて珍しいなと思いつつ、心当たりがひとつだけあった。

『支配種をなんとかしちゃおう会』の件だ。
 名称が少し違うが、そのときの気分で僕の頭の中で変わっていくみたいだ。

 それより、あの会議のこと。
 出席していたのは、竜国商会の総長。
 ヨシュアさんは竜国商会の幹部。

 さすがに総長がすべて独断で決めているとは思えないので、ヨシュアさんも会議の内容を知っているのだろう。

 事務所に来てほしいというので、すぐに向かった。
 事務所と言ってもヨシュアさんの家の敷地内にあるので、家に行くのと変わりない。

「やあ、レオンくん。よく来てくれたね」
「ご無沙汰しています。ヨシュアさん。今日はオフですか? 珍しいですね」

 事務所には誰もいなかった。人払いをしたのだろうか。
 これならば自宅でもよかったんじゃないかと思ったが、何か思惑があるのだろう。

「家人にも聞かせられない話でね」
 僕の心を読んだわけではないだろうが、そんなことを言った。
「なるほど。……それで、なんですか?」

「先日の対策会議のことなんだ」
「やっぱり、そのことですか」

「まあ聞いてくれ。その上でレオンくんの意見を聞きたい」

 会議が終わったあと、ルビン総長は、主立った幹部の者たちを集めて演説したらしい。

 ヨシュアさんもその演説を聴いたようだが、怒り心頭のルビン総長の話をすぐに信じたりせず、独自に調べたらしい。
 その辺はヨシュアさんらしいというか、冷静だ。

 僕はヨシュアさんからの話を一通り聞いて、納得した。

「……いくつか見解の相違がありますね」
「やはりそうかね。どうにも彼に都合のよい内容ばかりなんでね」

 ルビン総長の言い分としては、亡くなった議員や商人たちへの謝罪や賠償などを一方的に拒否され、総長を会議から追い出したことになっていた。
 悪いのはすべて操竜会。そういうことになっているらしい。

「おそらくルビン総長以外は、別の感想を抱くでしょうね」

「このままだと裁判にかけてすべてを詳らかにすると息巻いているんだけど、我々としては困っていてね。操竜会と表だって対立したくないっていうのが本音だ。それに裁判で何を言うつもりなのか、判断がつかなくてね」

 世間には会のことはまだ内緒になっている。
 それを含めて裁判で声高に主張すれば、非難されるのは商会の方だとヨシュアさんは考えているようだ。

「会議の中身は僕も話せないんですけど、騒動の大本は、ルビン総長の一方的な主張が原因だと思います」
「やっぱりか。困ったな~」

 どうやらヨシュアさんも独自情報で、ルビン総長の話は鵜呑みに出来ないと思ったらしい。

「僕としては、どうしてああいう人が上に立てるのかが不思議なんですけど」
「それはな、難しい問題があるんだよ」

 鳴り物入りで設置された竜国商会だが、王都にある商会が集まって結成されたため、余裕のある人がいなかったらしいのだ。

 王都で手広くやっている商人たちが集められ、そこで会議が開かれた。
 その会議の席上で総長が決まったらしい。

 だれもトップを受けたがらなかったらしい。
 理由は、「成功するか分からなかったから」だったりする。

 たしかにあのとき、内乱は起こるわ、魔国は侵攻するわ、大転移の噂は出るわで、商売を続けられるような環境にはなかった。

 そんな状態で商国商会に対抗する組織を作れと言われても、「本当に国がバックアップしてくれるの?」「二階に上がっても、はしごをはずされるんじゃないの?」と疑心暗鬼だったらしい。

 事実、ヨシュアさんも最後まで幹部就任を嫌がったらしい。
 商会みんなのために働くならば、まず自分の商売をなんとかしたい。そう思ったそうだ。

「そんなときに立候補したので、誰も何も言わなかったんですね」

「そうだな。いまは商国商会の影響力も排除されて、登り調子だろ? それは自分の手柄だって周りに吹聴しているんだが、我々はそれに頭を抱えていてね」

 少なくとも、竜国商会が成長したのはルビン総長のおかげではないと思う。
 それは置いておいて、ヨシュアさんがいま一番気になっていることを伝えた。

「これからは、竜国商会だけでなく、いろんな商会が王都で活動しやすくなると思いますよ。魔国がなくなって、そこにいた商人たちもいまじゃ竜国の国民ですからね」

「そうだったね。これまでが守られすぎたんだ。今でもかなり商売に有利だって自覚もある。ここで欲をかいて、他の不興をかう必要はないと思うんだよ」

「でしたら、それを竜国商会内部で広めたらいいと思いますよ」
 商人が特権階級意識を持ったままだと、先は暗いと思う。

「そうだな。……分かった。ありがとう。参考になったよ」
「いえ、あまりお役に立てませんで。会の中身は一応話せないことになっているので」

「うん、十分だよ。根回ししてみる。もしかすると総長を追い落とすことになるかもしれないけど、まずは竜国商会を健全化させる方向で説得してみようと思う」

「がんばってください」

「ああ。……ところで、支配種はどうなんだ? 倒せそうなのか?」
「それについてはなんとも。ただし、いろんな人の協力がなければ無理だと思います」

 支配種討伐に関しては、操竜会でもいろんな案が出た。
 一番簡単かつ、すぐに実行できるのは、属性竜のみでの特攻だ。

 だが、シャラザードの体験談からその作戦は早々に却下となった。
 支配種がいるのは、旧魔国の首都イヴリール。

 町の大きさは、竜国の王都とそれほど変わらない。
 そして支配種の周囲には、それを守る大型種などが多数いるらしい。
 町中に隠れていて見えないのがやっかいだ。

 シャラザードが単独で向かったとき、それらが迎撃で出てきたという。
 その相手をし始めたときに、支配種の攻撃を受けた。

 シャラザードは負傷。すぐに撤退している。
 遠くからでも狙いは正確。中型竜でも打ち落とされるほどの攻撃だったという。

 支配種を守護する月魔獣を倒さないことには、支配種に届かない。
 だが、属性竜だけではそれは難しい。

 ということで、護衛の竜を引き連れる案が採用された。
 ただし、一度にどれだけ倒せるのか、その作戦遂行能力から一気に向かうのは難しいという結論に達した。

 小型竜の場合、シャラザードの半分の速度しかでない。
 たとえば、五時間飛行して、五時間戦って、五時間かけて戻る。それだけで一苦労だ。

 一度の出撃で、ヘロヘロに疲れてしまう。
 ゆえに、なるべく近い場所に前線基地を作り、そこから往復するのが結局は最短であるとされた。

 休憩地点兼補給地点である。
 そこを竜操者に守らせるわけにはいかないので、基地建設やそれの維持に多数の兵が運用される。

 結局、それらの費用を商人たちに負担してもらおうというのが、一番現実的な案となったのである。

 その辺のことがあるから、本来ルビン総長には強く出られないのだが、今回はあまりに横暴すぎた。
 よって、協力してくれる商人を竜国商会に限らないという条件を女王陛下に認めてもらったというわけである。


 というわけで、ぜひともヨシュアさんにはルビン総長を説得するか、追い落としてもらいたいところである。

「それではまた、近いうちに寄ります」

「ああ、今日はありがとう。言いづらい話をさせて悪かったね」
「いいえ。これも竜国のためですから」

 そう言って僕は、ヨシュアさんの事務所をあとにした。
 たしかに家族にも、事務所の人にも聞かせられない話だった。

 もしかすると、竜国商会内で下克上が行われるかもしれない。

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