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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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『ぬぉおおおおお……』
 シャラザードの雄叫びで、その日最後の月魔獣が倒れた。

 僕とシャラザードは連日、陰月の路で月魔獣狩りをしている。
 ノルマはないが、時間があるときは月魔獣狩りをしてくれと、操竜会からも言われている。

 とくに最近は、お偉いさんと顔を合わせる機会も多いので、できるだけ参加するようにしている。

 月魔獣さえ狩っていればシャラザードもご機嫌なので、悪いことではないと思う。

「王都にですか?」
「はい。すぐ王都にある操竜会本部に向かうようにとのことです」
「なんだろ……あー、会議か」

 忘れていた訳ではないが、そろそろ会議の日程だ。
 会議の前に僕を呼ぶということは、操竜会で何か僕に話があるのだろう。

「分かりました。明日の朝、向かいます」
「お願いします」

 陰月の路に詰めていると世間の動きや他国の情報に疎くなる。
 巡回の移動で他からやってくる竜操者が情報を運んでくれるくらいしか、情報を集められない。

 ただし、月魔獣関係の話には詳しくなれる。
 どうやら最近は支配種の影響が強まって、月魔獣の活動領域が増えていると聞いた。

 それにより、多くの竜操者が活動範囲の縮小を迫られたらしい。
 小型竜だけの編隊で月魔獣の支配地域にいくと、結構な確率で月魔獣に囲まれる。

 シャラザードのように一瞬で七、八体を倒せるならば別だが、ほとんどの場合、脱出路を確保して逃げ出す頃には、味方は半分に減っている。

 月魔獣はそこかしこにいるので、狩りに事欠かない。
 あまり危険な場所へは向かわないようにと、通達が出ているくらいだ。

 そして戦える竜操者が減ると、しわ寄せが他の竜操者にのしかかってくる。
 各町にいる竜操者の数が減り、非戦闘系の竜操者が減っていく。

 すると伝達のやりとりが減って、議員や領主の移動も、減ってしまうことになる。



 翌朝陰月の路を出発し、その日の夜には王都に着いた。
 次の日に操竜会の本部室へ顔を出すと、気難しい顔をした人々が僕を待っていた。

 僕の知らない間に、王都では面倒なことが持ち上がっていたらしい。

「会の出席メンバーを覚えているね」
「はい」

「あの中の何人かが亡くなった」
「はい?」

「そのことについて、次の会議で話し合いがもたれる。竜操者側の意見をそろえておきたくてね」
「……はあ」

 一体、何があったんだ?

 内容が気になったが、この場に相談できる相手――ソウラン操者はいなかった。
 女王陛下から依頼を受けて、楽園に行っているらしい。

 会議には間に合うそうだが、いま国内にはいないので連絡が取れないようだ。

 さて、僕はあの会議の名前を『月魔獣の支配者をなんとかする会』と勝手に呼んでいる。
 誰かに言うわけでもないので、好きに呼んでもいいだろうと思っている。

 この「なんとかする会」には、操竜会のリドルフ・ヴェッツァー副操竜長をはじめ、竜国商会のルビン・ログレム総長、竜導教会のリギス・ノーザント会長などが出席している。

 一体誰が亡くなったのだろうか。



 ことの起こりはこうだ。

 この会に出席するようなお偉いさんたちは、竜国議会でも顔を合わせるらしい。
 確かに国政に関わるような人たちばかりだ。当然のことだろう。

 先日、商会のルビン総長が、リドルフ副操竜長にこんな話をした。

「支配種の噂はよく聞くが、実際に見てみないことにはその脅威レベルは分からない」

 僕からすれば「バカじゃないの?」という話なのだが、多額の出資をする以上、相手のことを知りたいと思うのは当然のことなのかもしれない。

 かといって、支配種の前に連れて行って「どうです? 強そうでしょう?」とやるわけにはいかない。

 ルビン総長だってその辺のところはよく分かっている。
 だが、魔が差したというのだろうか。

「遠くから見たらどうですかな」

 とまあ、危機意識の足らない議員さんたちが近くにいて、煽ったようである。

「ついでに我々も一度拝見してみたいものですな」
 と言い出したところで、後に引けなくなったのだろう。

 結局、希望者を集めて、遠くから眺めてみようと言うことになったらしい。

 これまで支配種の動向を探れなかったのは、近づくと迎撃されたからである。
 ならばその外からなら大丈夫とばかりに、あれよあれよという間に話が決まってしまった。

 僕がシャラザードと月魔獣狩りをしている間に何をやっていたのだか。

 十キロメール以内に近づくとやばいらしいということで、倍の二十キロメートルの距離から見学することになった。

 使用するのは飛竜のみ。それも高い位置から俯瞰する程度に留めるという約束のもと、支配種ツアーが実行されたらしい。

 議員としては、支配種をこの目で見てきましたというのは、今後にとってアピールになるのだろう。
 だからと言って、そんな危険を冒してまで見に行くことはないんじゃないかと思える。

 案の定、出て行った飛竜編隊は未帰還。おそらくは全滅。
 全員の安否は、絶望視されてしまった。

 というわけで亡くなったのは、竜国の議員さんたちだった。
 それと商会からも数名、大商人と呼ばれる人たちが死んでいる。

「なんでまた」
「安全である二十キロメートルの距離には、死体はなかった」

「……もっと中に入っていったんですね」
「そうだろうな。残念なことに、商会の者も議員も、人に命令するのに慣れている」
「あー……」

 最悪だ。
 嫌がる竜操者に無理矢理言うことを聞かせたのだろう。

「それで困ったことに、次の会で竜操者の責任の追求を求めるらしい」
「なんでまた」

「支配種の怖さを知っているのが、竜操者しかいないからだろうな」
「つまり、もし議員たちがもっと中へ行けと行っても断らなかったのが悪いと?」

「最終的に竜を向かわせなければ死なずに済んだのにということだな」

「僕はそれほど詳しくないですが、竜操者と議員の場合、言い争ったらどっちが言うことを聞く立場になりますか?」

「竜操者は竜を得ているものの、扱いは軍属。兵と変わらない。一方議員たちは貴族であり、国政に携わっていることから、権力を持っている。軍属が議員に逆らうことはできんな」

「それでしたら、竜操者に責任を問うのは間違っているのでは?」
「それを言ったところで意味はないのだろう」

 なんて面倒なことに。

 竜国だって一枚岩じゃないのは分かっているけど、こんなときに仲間割れか。
 これは商国を笑えないな。

 いや最初から仲が悪かったっけ。
 次の会議を思い出し、僕は嘆息した。


 あー、会議に出たくない。

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