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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 二回目の顔合わせ会が終わった。

 ロザーナ先輩は、あれほどの悪意を毎日受けているのかと思うと、背筋が寒くなる。
 それでも心は折れないのだ。

 リンダが注目するはずだ。本気でそう思った。

 あの後、会場を出て行った僕は同級生たちを屋上のテラスに招待した。

 時間までここで交友を深めようと考えたのだ。
 すると、僕がここにいることを察したのか、リンダとロザーナ先輩が追いついてきた。

 そこで僕らは時間まで楽しいおしゃべりに興じることができた。

 途中は最悪だったけど、最後は楽しく終えることができたと思う。
 そしてなぜか、リンダとロザーナ先輩が親しくなっていた。
 なぜだ?



 演習に出発する前日の夜。
 就寝しようとしていた僕は、寮の庭にかすかな気配を感じた。

「……ん? お姉さんじゃないな」
 気配の消し方が違う。

 着替えてそっと外に出ると、見知った姿があった。
 黒衣で身を包んだところは同じだが、顔を出している。

「ヒフさんでしたね。どういった要件でしょうか」

 女王陛下の〈左手〉が僕の所へやってくる意味を考えた。
 僕の排除だろうか。それとも警告?

 戦闘になったとしても負けるつもりはないが、簡単に無力化できる相手でもない。
 最悪手加減できずに殺してしまうことにもなる。

「ここに忍び込めるようになるまで、三日かかりました」
 どうにかして、魔道によって張られた防護結界をすり抜けたらしい。

 ヒフが移動したので、僕もついていく。
 寮の裏手の、木が密集した場所でヒフは立ち止まった。

「女王陛下から、直接お伝えするようにと言葉をいただいております」

「どういった内容でしょう」
 敵対するつもりはなさそうだ。

「我ら〈影〉とは別に、国の重鎮などで構成された女王陛下のためだけの一団があるのはご存知でしょうか」
「国の重鎮ですか? いえ、聞いたことないです」

「我らは『忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)』と呼んでおります」
 聞いたことがない話だ。小耳にも挟んだことがない。

「忠義の軍団ですか。それはどのような集団なんでしょう」
 ネーミングセンスはこの際、おいておこう。

「女王陛下を筆頭に〈影〉や議会、軍人、竜操者などの中から選ばれた者がそれに属しています」
「かなり大きな規模になりますね」

 そのわりには聞いたことがないのだけど。

「他国に知られるわけにも参りませんので」
 その言葉で分かった。

 竜国の軍事、政治体制は、基本的に月魔獣を敵として構成されている。
 現実的な脅威として一番大きいのだから、当たり前である。

 他国と戦争をすれば両国は疲弊し、力をなくせば月魔獣に食い荒らされることになる。
 すでに月魔獣との終わることのない戦争状態なので、他国とことを起こすメリットはほとんどないと言える。

 だが、いまヒフは他国に知られるわけにはいかないと言った。
 つまり、『忠義の軍団』の正体は、対国家戦を想定した集団ということになる。
 その考えは、うがちすぎだろうか。

「いま竜操者は我が国に二千名近くいるとされています」
「そうですね」

 竜紋が出るのは、だいたい一年で三十人前後だ。
 十代の半ばに竜を得たとして、死ぬまで竜操者として登録されるのだから、そのくらいの数になる。

 ちなみに引退した竜操者も数に入っているので、実数はもっと少ない。

「実際にはそれ以上の竜操者が我が国におります」
「!?」

 驚いた。マジで驚いた。
 竜迎えの儀を経て竜を得るわけだから、竜の数は秘匿できるわけがない。
 だが、ヒフはそれ以上いると言っている。

 どうやってか知らないが、女王陛下が竜操者を隠しているのだ。
 この国のどこかに。

「竜国の前身、旧王都より掘り起こされた史料がございまして、それを研究する学者たちもまた存在しております」
「……?」

「今回その事実をお伝えするようにと、女王陛下は判断されました」
 秘密を共有する仲間になれということだ。それ以外にない。

「分かりましたと、女王陛下にお伝えください。しかし、それほどの集団の話、本当に聞いたことがないのですが」

「すべては極秘ですので、親兄弟にも知らされません。それに本部は陰月の路にありますから」

 陰月の路、月魔獣がいつ落ちてくるかも分からない場所。
 そんなところに本部があるのか。どんな物好きでも、さすがに近寄らないだろう。

「なるほど。だったら、可能性があるのか」

 どうやって公称以外に竜操者を集めることができるのかとか謎は尽きないが、目の前のヒフが三日もかけて結界を抜け、こんな与太話を持ってきたとも思えない。

 全赦ぜんしゃを持つ僕ならば、直接女王陛下に聞くことだってできるのだから。

「詳しいお話は演習から帰られた後にでも。ただ今回魔国の襲撃で、もしかすると『忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)』が動く可能性がございます。そのために早急にその存在だけでもお伝えしておくようにとの仰せでした」

 話は済んだのか、ヒフの存在が薄くなった。
「それでは、これで」

 その言葉と同時に、ヒフはゆったりとした動作で僕のもとを離れていった。
 ヒフの気配が薄くなる。目で追うのが難しい。
 ほどなくして、完全に気配は消えた。

「出発の前にすごい話が出てきたな……あれ? でも僕が『忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)』に入ったら、また僕の野望から遠ざかるんじゃないか?」

 普段はパンを焼きつつ、ときどき女王陛下の暗殺者として過ごす僕の野望は、竜操者になったことで、軌道修正を余儀なくされた。

 そのうえさらに国の重鎮で構成されている『忠義の軍団』に加入することで、穏やかに暮らす夢は、一層遠のくのではなかろうか。

「明日出発だけど……いますぐパンを焼きてえ」

 僕の心の叫びがつい口を衝いて出た。

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