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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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「それにしても、なぜ悪事を働く商人たちを捕まえないんだろう」
 明確な証拠こそないものの、後ろ暗いことをやっている。

 被害者もいることだし、捕まえてもいいような気がする。
「いざ捕まえて、明確な証拠が出てこなかったら拙いから?」

 商国の商人側に正義があり、団結されると困ることになるから、手控えたのかもしれない。
 もしくは、このような事態にそなえて泳がせておいたとか。

「どちらにせよ、リストを貰ったんだから、手加減抜きで襲うけど」

 翌日の夜もリストにあった商会や商店に忍び込む。
 魔道結界があればそれを解除し、機械式の罠があれば壊していく。

 面白いことに、後ろ暗いことをしている自覚があるところは、どこも警戒が厳重になっている。

 そういう場所は、罠をすべて解除したうえで、机や書棚の位置をずらしたり、置物の位置を変えたりしておく。慌てる顔が目に浮かぶようだ。

 時間があればじっくりと資料を漁りたいが、今回はここの商人たちよりもっと大物狙い。なので、今回は諦めておく。

「泳がせていたというより、小物は自主的に大人しくなってくれたらそれでいいという考え方かもな」
 いちいち相手にしていないのかもしれない。

 ちなみに貰ったリストに載っている商会の数は、二十六。
 王都全体で二十六は多いのか少ないのか。

 もしかすると、これより大物はそのうち捕まえる予定があるので、今回の作戦には入れてないのかもしれない。

 二日目も明け方近くまで荒らし回った。
 回った箇所は全部で五つ。残りはまだ多い。

「明日もこの続きからだな。日中は休んでおこう」

 警戒度合いからすると、昨日の情報は回ってないように思える。
 明日はどうだろうか。



 というわけで翌日の夜。
 警戒のレベルは初日、二日目と大差ない。
 つまり、情報が回っていないのだ。

「わざとということはないよな」

 僕の正体を見極めるため、敢えて気付かない振りをしている可能性もある。
 ほとんどないと思うが。

 今日まわるのはひとつだけ。といっても大店おおだななので、王都内に複数の店舗を持っている。

 もともと焼き畑商売をしてきた商人らしく、商人仲間からも嫌われているらしい。
 そのため、情報をもらえていないのかもしれない。

 儲かりそうと思ったら、大量資本を投下して粗悪品を山ほど作り、先行者に嫌がらせをしてあくどく稼ぐ。
 ブームが去るとアッサリと手を引くらしいが、あとに残ったのは、散々たる屍の山のみ。

 しかも粗悪品を大量生産したことで人々の印象も最悪。
 業界が再び浮上することはないという迷惑さらしい。

 この商売は短期間で成長させて、短期間で売り抜かねばならないので、参入した直後に同業他社を排除しているようだ。

 顧客を食い物にするよりも同業者を蹴落とす方に力を注いでいることで、同業者の受けが悪い。

「さすがに一気に商売の寡占化を狙うだけのことはあるな」
 大小の店舗が、王都内だけでも二十以上ある。

 その中で、比較的重要そうな建物だけを狙って、侵入を繰り返した。

「あー、疲れた」
 自由に潜入して、自由に破壊できるから楽しいかもと思ったが、単純作業ばかりで飽きてきた。

「王城へ潜入したときの方が、難易度が高かったな」
 あのくらい精密な魔道を仕掛けられると、解除せずに進むのはかなり難儀する。

 そういった手応えがないため、どうしてもただの作業になってしまう。
「明日は違うといいな」

 そう思って今日の潜入を終わりにした。



 翌日の夜。
 とある商家に侵入しようとしたとき、違和感に気付いた。

(……誰かいる?)

 かすかに気配がする。
 闇に溶けたままそっと移動する。

 気配は家の中心地から動いていない。
(他の家人の気配はないし、避難させて僕を待ち伏せている感じかな)

 ここ数日暴れたことで、警戒したのだろうか。
 相手としては不気味だろう。何をしているのか訝しんでいるに違いない。

「まあ、目的はないんだけどね」
 ターゲットが彼らじゃない以上、囮以外の使い道は考えていない。

 そういうわけでこれは無駄な警戒なのだが、ようやく反応があったので、少し嬉しくなった。
 顔を見にいこう。

 気配は家主の仕事部屋から漏れている。
 闇に溶けたまま部屋に入ると、わずかな薄明かりのもと、椅子に座った人影があった。

 罠はない。機械式と魔道結界を探したが、あるようには見えない。
 それでも僕は慎重に部屋の隅まで進み、ゆっくりと姿を現した。

「……来たか」

 驚いた。
 気配は絶っていたのに、現れただけで気付かれた。
 相手は四十代か五十代くらいの男。声もそのくらいだ。

「驚いているか? 来るかもしれんと待っていたのだから、そのくらい分かる」
 男は低い声で話す。僕を待っていたようだ。

 椅子から立ち上がる気配がないのは、戦闘目的ではないからか?
 この家には他に人がいなかった。罠のたぐいも、ここに来るまでひとつも見当たらなかった。

 こうして僕を待ち構えていたことから、本当に対話するためにきたのかもしれない。

「用件は?」
 よそ行きの声を出す。

「ほう、若いな。その身なりからすると、竜国の〈影〉か」
「用件は?」

「答えぬか。まあそれはいい。私のことを気にならないのかね」
 答える気がないようなので、部屋から出ようと扉まで歩いていく。
 すると相手は、少し慌てたように制した。

「せっかく会えたんだ、話だけでも聞いてくれないかね」
「…………」
 用件を話さないならば、もうここには用はないんだけど。

 てっきり暗殺者がいるんだと思って戦闘態勢で来たのに、とんだ誤算だ。

「今回、複数の商会が狙われたことは私の耳にも入っている。ただし話を聞いてみると、とても奇妙でね。嫌がらせのような破壊が行われたと思えば、中は無事。何かの警告かと、裏では大変な騒ぎになってね」

 自慢の結界が破られて、次々と侵入されたのだ。商人たちはさぞ困ったのだろう。
 同じような結界を張ったところで無駄。

 大事なものはなにひとつ自宅や店に置いておけない。
 かといってどこにどうやって隠せばいいのか。

 侵入者が本気ならば、どこに隠したって同じではないか。
 そんなところか。

「私も話を聞いてまず警告を疑った。やり過ぎるなよと、竜国がわざわざ警告しにきたのかとね。ただ、竜国はそれほど親切だろうかと思って、考えなおしてみたのさ」

 いろいろ考えてたどり着いた答えは、「商国商人の中でも、やり過ぎ感のある商会を裏から追い出す作戦」なのではないかと。

 暗殺すれば騒ぎになる。
 表だって追い出せば、何があったのかと詮索される。

 ただし、商人たちが自主的に逃げ出せば、ライバルとの争いに負けたのだと人々は考える。

 いつでも自由に潜入できるとなれば怖くて商売などしていられない。いっそ王都から撤退しよう。
 それを狙ったのだと考えたようだ。

 うん、的外れだ。だけど、黙っておこう。
 この人、偉そうな地位にいる感じだし、喋らせてみたい。

「すべての商人に脅しをかけてまわっては、人がいくらいても足らない。だから目立った商人だけを対象にしたと考えたのだ。どうだ、合っているかね?」
「…………」
 間違っているのだけど、それは置いておこう。

「ふむ、黙りか。ならば勝手に話させてもらおう。私は商国商会の目的には賛同していない立場にいる。五会頭の目的を知る立場にいながら、彼ら側に立っていない。そのため、わざわざこの部屋を借りたのだ」

 この人、ここの商人じゃないらしい。
 しかもひと声で家人を追い払える権限を持っている。

「五会頭の目的とその違いの詳細を」
 一人で納得しているようだけど、このひと、五会頭に近い人っぽい。

「五会頭の目的か。キミがどこまで知っているか分からないが、話そう。五会頭は商人たちによる世界を作りたがっている。政治は経済の流れに任せた方がいいと真剣にね。そうだね、分かりやすく言うと……」

「僕が詳細を」と言ったことで、この人はかなり詳しく説明してくれた。


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