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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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 夜になった。
 後ろ暗い活動をしていることが分かっているものの、証拠がないことで手が出せなかった商人たちのリストを俺は持っている。

 昼間一通り回ってみたけど、そのどれもが、よく繁盛していること。
 王都の一等地に店を出して、人も多く雇っている。
 他国の商人からすれば勝ち組の部類に入るのだろう。

 商いを大きくするために犠牲となった人も多い。
 結局、余所から食い込んで他を蹴散らすには、綺麗事ばかりでは駄目なのだろう。

「それでも竜国の法を破って知らん顔しているのはどうかと思うけど」

 一件目の店は不動産業を営んでいるが、資料によると業種をコロコロと変えている。
 というより、専業を変えているという感じか。

 王都にやってくる前は、宝飾品を多く扱っていた。クズの宝石を口八丁で高く売りつけていたらしい。小さな町や村を回って、破格の値段と偽って荒稼ぎしていたようだ。
 ただの詐欺である。

 王都の民はそんなものに騙されるはずもなく、すぐに地方の名産品を売る店に変えた。
 だがそれも偽物ばかり。本物を目にした人からすると、「何か違う」と思う品物である。

 本物の方が質が良く、多くの手が加えられている。
 それに遠くから運んでくる輸送の手間を考えれば、かなり高価なものとなる。

 この店で売っていたものは偽物ゆえに質が悪く、近くで作らせたものを売っているために、原価は相当抑えられている。

 バレないうちに荒稼ぎしては店の場所を変えて別の贋物を売りさばく。
 移動して店舗ばかりが増えていくことから、不動産業に鞍替えしたという感じだ。

 偽物を掴まされた客や業者たちがこぞって訴えでたが、そもそも商会を建てては潰している関係上、取り締まることができなかった。

 さすがにすべての商売を登録免許制にすると、一般の民が困るわけで、気軽に商売を始められなくなれば、事業の寡占化が広がってしまう。

 裾野を潰さないためにも、新規参入の窓口が広い方がいいが、こういった手合いを取り締まる方にも、力を入れた方がいいんじゃなかろうか。

 僕は闇に溶けたまま、店舗の中に入った。
 魔道の感知結界が仕掛けられているが、それは店舗の周辺のみで、中はなにもない。

「と思ったら、機械式の罠か。解除は数字の組み合わせね」
 技国式の罠である。難易度はそれほどでもないが、解除に手間取るようになっている。

 二階の事務所に向かい、関係書類をあさって悪事の証拠を掴むのがいつものやり方だが、今回は少し違う。

「――依頼通り、暴れますか」

 事務所に仕掛けられた機械式の罠をすべて破壊し、机や書棚を少し移動させておく。
 窓をあけて逃げたように思わせつつ、階下の罠も壊す。

 これで強盗でも入ったように見えるだろう。
 仕上げとして、外の感知結界をわざと作動させてから破壊する。

 今回は設置された魔方陣を見つけて、物理的に破壊した。
 修復できないので、再設置には結界が得意な魔道使いを雇わないと無理だろう。

 そして魔道結界を破壊したことで、侵入者が来たことがバレた。というより、バラした。
「さて、次の場所に向かうか」
 僕は闇に溶けた。



 二件目は両替商。といっても、裏で金貸し業をしている。
 不当な金利で貸しているわけではない。まっとうな裏の金貸しだ。

 まっとうと裏という言葉が同居できるのか謎だけど。

 そしてこの両替商の場合、ゴロツキのような連中とつながりがあり、嫌がらせを含めた妨害行為の疑いが濃厚らしい。

 ようは、貸した相手が金を返せなくなるようにさせる作戦というやつである。
 返済金の代わりに、土地その他の資産を奪うわけだ。

 老舗と言われていた商店などが急に傾くことが頻発したことで発覚したらしい。

 それらはほとんど同じ流れで没落しているが、両替商とゴロツキの関係はいまだ明らかになっていない。
 裏で繋がっているだけに、日の下に晒すのは難しいのだろう。〈影〉が本格的に探さない限り。

 というわけで、こちらは居場所の知れているゴロツキの場所も同時に荒らしておいた。
 一件目と同じく、証拠は残さないが、だれかが入ってきたことは確実に知れているので、何らかの動きがあるだろう。

 そして本日の最後、三件目だが、そこは酒場件賭博場だ。
 賭博は違法では無いが、中でイカサマをしているらしい。
 客引きも多く、無垢な町民を呼び込んでは食い物にしている感じだ。

 賭博で身を持ち崩したなど、恥ずかしくて言えない人たちが多い中、何人かが声をあげたことで詳細が知れるようになってきた。

 これもおきまりのパターンで、気分良く勝ったあとで大きく落とすやり方だ。
 そのさい、必ず胴元が勝てるようにイカサマを絡めているという。

 商国の資金集めの一環のようだが、酒場兼賭博場の数が多く、全体でかなりの荒稼ぎをしていると思われる。

 ここはさすがに人が常駐しているので、大きく暴れることはできない。
 いまだ酒場でくだを巻いている者、賭博場で奇声を発している者もいる。

 やっていることはただのイカサマなので、種があるわけだ。
 闇に潜ったまま、何度かやりとりを見ていたら、すぐに分かった。

 山に重ねられた札を取っていき、役を作って点数を競う賭博がある。
 細かいルールはさておいて、山から出した札のマークと自分の場にあるマークの組み合わせで点数が決まっていく。

 場に残せる木札は五枚と決まっているので、点数が高くなりそうな木札を残すか、低くても役が付きやすそうなものを残すが選択を迫られることになる。

 どうやらイカサマをしている者は、服の至る所に木札を隠しているらしい。
 役になりそうなとき、それをそっと持ち出し、山から引いた木札と交換している。

 なぜ客がイカサマを疑っていないかというと、役に必要なカードは多岐に亘るため、隠し持つ者はいないだろうという先入観と、山の木札を覚えておいて、途中のを抜き出そうとしても木札は重く、音がなるため不可能であると考えているようだ。

 そういった心理が働いて、イカサマを見抜けていない。

 真夜中の賭場は、混雑時とは違って、人の数も三分の一くらいになっているようだ。
 賭場の半分は灯りを消している。

 僕は暗がりにそっと現れ、タイミングを待つ。
 イカサマをしている男が普段使わない方の手を後ろに隠したとき、時がきたと判断した。

 魔道『闇刀』の応用で、男が山から木札を引いた瞬間、男の手を強く叩く。
「――痛ぇ!」

 手からこぼれ落ちたのは、山から引いた木札と、すり替えようと持ち替えた木札の二枚。

「……おい、それはなんだ」
「いや、間違えた」
 客のひとりが木札を拾い上げる。

「おまえ……ほかに木札を隠し持っているんじゃないだろうな」
「持ってねえよ!」

 どうだろう。『闇刀』で手だけを出して男の背中を軽く触れると、何枚かの固い感触があった。
 この男は背中に隠して、必要に応じて手を後ろに回して取り出していたらしい。

 木札を入れる口があるはずだと触ると、すぐに見つかった。

 ――カラン、カラン

 男が立ち上がった拍子に、数枚の木札が床に落ちた。
「やっぱりイカサマしてやがったか!」

「違う、俺んじゃない!」
「言い逃れするのか。この野郎!」

 喧嘩が始まった。
 その間に僕は闇に溶ける。

 この調子で、日が昇るまでの間にあと二件、賭博でのイカサマを暴いて、大騒動を起こさせることに成功した。

「今日はこんなもんでいいだろう」

 明日も頑張ろう。
 そう決意して、僕は商業区をあとにした。

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