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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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 竜国の王都は今日も賑やかだ。
 周辺の町から出稼ぎにくる人もいれば、竜国の北部から避難してきた人もいる。

 魔国から流れてきた商人もいれば、技国から技術交流でやってきた人もいる。
 いまこの町は、大陸でもっとも栄えている。

 僕は楽園に行って戻ってきた。
 僕は公園で人が歩く姿を眺めている。人待ちだ。

 少し遅れてエプロン姿の女性が現れた。
 王都で〈右手〉をしている、シルルお姉さんだ。

「おまたせ。ようやく店を抜け出せたわ」
「本業が盛況でなにより?」

「どうして疑問系なのよ」
 シルルお姉さんは僕を軽く睨むが、僕の目は道を行き交う人たちに注がれたままだ。

 こちらに注目している感じはない。
 周囲にも人の気配がない。

 すべて問題ないと判断して、僕はようやくシルルお姉さんに向き直った。

「魔国……いいえ、旧魔国領ね。その扱いが発表されたわ」
「そうなんだ」
 そういえばそろそろ結果が発表されると言っていたけど、まだ聞いてなかったな。

「大方の予想通りって感じで、目新しいものはなかったわね」
「というと、旧体制のもろもろはすべて無くなる感じ?」

「ええ。綺麗さっぱりと」
「そりゃ大変だ」

「新しく竜国領としてスタートする訳だし、その辺は当然だと思うけど。……あっ、そういえばひとつ追加があったわね。旧領の人たちには移住制限がかけられたわ。二年間ね」

 移住制限。
 つまり他の町に移れないわけだ。

「二年間ってどうなの? 長い? 短い?」
「短いかな。でも実質的に無制限に移住できるわけじゃないから、それでいいんじゃないのかしら」

 魔国が竜国の一部になったことで、問題がひとつ生じた。
 今までも、身体に竜紋が現れる可能性がある――竜紋限界りゅうもんげんかいの中に移住しようとする人が後を絶たなかった。

 竜を得るかどうかは博打的要素しかないが、そこに住んでいるだけで可能性がある。
 ならなと移住を希望する人が多かったわけだが、竜国は他国民の移住を厳しく制限していた。

 今回、同じ竜国民になったことでこれが取っ払われる。
 だが少し前まで魔国民は敵だったわけで、そんな住民が移住し、安易に竜を得ていいのだろうかという問題が取り沙汰された。

 竜国民ですら稀である竜を旧魔国民が所持し、反乱に使われたらと考えるわけだ。
 もっとも、竜紋限界の中に長期間住むことは、税金の面からもいろいろ難しいのだが。

 それでも魔国の有力者、金持ちなどは可能であろう。
 それを二年間、禁止したということらしい。

 二年の間に対策を練るのか、大転移で竜が減るので、それで補うのか。
 国の意図は分からないが、短い期間で移住を解禁するようだ。

「そういえば、既存の権利剥奪ですけど、商国商人の反対はなかったんですか?」

「それは聞いてないわ。あったとしても、敗戦国民の言葉じゃ、実効性を持たないから、聞く耳を持つ人はいないでしょうね」

 竜国は魔国がそれまで持ってきた権利や、約束してきた事柄をすべてご破算にした。

 金銭的な面で言えば、魔国が商人に借金した分などがそれにあたる。

 他には、国の中で働いていた者の存在がある。
 政治家、兵、文官、武官、研究機関員など、国から給金を貰って働いていた者たちは一旦、全員解雇されている。

 竜国が改めて雇うか決めるだけで、一度全員無職になっているのである。
 そのため、旧職場でどのような地位であったとしても、今はなんの権限を持っていない。

 国が無くなるとはこういうことなのだと今さらながらに思う。
 地方官吏もすべてリセットされている。

 安易に再雇用しない方針らしい。
 一度竜国から支配者――この場合は領主がやってきて、その上で判断することになるという。

「だからどさくさに紛れて横領していたりすると大変ね。現時点で貴族でも官吏でもないのだから、横領はないのか。ただの盗人になるから、かなり厳しく罪を問われることになるわ」

 あらゆるものを竜国色に染め上げて、馴染まないものを排除する意向のようだ。

「大転移でやることが多いのに、こんな面倒なことをさせやがってという思いも入ってそうですね」

 商国が政治に口さえ出さなければ、魔国はこれまで通りだったはずで、何がどう転ぶか、本当に先は分からない。

「というわけで、ここからが本題。悪さをしそうな……している商人たちのリストを渡すわね」
 今日シルルお姉さんと会ったのは、これが目的だったりする。

 公に罪を問うには証拠がない。けれど悪いことをやっていそうな、もしくはそういう訴えのある商人たちのリストをお願いしたのだ。

「じゃ、今夜から取りかかりますので」
「えっと、明確な証拠を握らせない商人たちなのだけど、レオンくん、大丈夫?」

「そういう方がやりやすいんですよ。だから任せて下さい」
「分かったわ。あなたがそういうのならば、任せるわね。私の方は他の人に繋ぎをつけておくから」

 商国商人たちは動く。
 その時は人海戦術で、『鉄耕』のニコライドを捜索するようだ。

「それでは僕は、日があるうちにリストにある建物を外から眺めてきますので」
「うん、それじゃお願いね。何かあったら花屋の方に伝えてくれればいいから」
「了解です」

 僕はシルルお姉さんと別れた。

 今回の依頼は面白い。
 とにかく暴れろというものだ。

 ただし、人的な被害は駄目だという。
 あくまで正体不明の者が暴れることで、困らせるようにさせなければならない。

「色々やってみたかったんだよな、実は」
 僕はお姉さんからもらった資料を片手に、雑踏の中に紛れた。

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