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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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 不毛な会議が終わり、ようやく解放された。

『主よ、疲れておるようだな』
「まあね。なんて言うか、気疲れした感じ」

 お偉いさんたちが喧々囂々と言い合いをするあの光景を、今後も見続けなければいけないのは大変だ。
 理由をつけて参加拒否できないだろうか。

『では今日も月魔獣を狩りにいくぞ』
「今日は頼まれ事があるんだ」

『ふむ、頼まれ事とか、珍しいの』
「僕ら――属性竜にしか頼めないことなんで、だれかが引き受けなくっちゃならないんだ」

『楽園』に関する依頼である。
 このところアンネラが率先してこういった依頼を引き受けている。

 アンネラは何度も竜国とカイルダ王国を往復している。
 人や物を運んだり、重要な書類を届けたり頑張っているようだ。

『どこへいくのだ?』
「シャラザードは行ったことなかったっけ? シャナ地方だ」



 竜国ではあまりに有名なシャナ地方。

 王都の南にある広い一帯。
 なぜ有名なのかといえば、そこで飼われている牛、シャナ牛のせいである。

 もともとシャナ地方原産の牛で、ただの高級牛という認識だったが、竜が好んで食べるということで、その名が一気に広まった。

 シャナ牛とそれ以外の牛では、竜が食べる量が二倍とも三倍違うと言われる。
 竜が満足するかで違うらしい、というのが専門家の見解である。

 とにかくシャナ牛以外を与えた場合、竜は若干の不満をもらし、量で腹を満たそうとする。
 そのため、余計に餌代がかかるということで、竜国では竜にシャナ牛を与えるのが一般的になっている。

 実際、シャナ牛は人が食べても旨い。
 そのため高級品としてレストランなどで出てくるが、基本、シャナ牛は竜に優先権があるとして、竜国民は遠慮して、頻繁に食べることはしていない。

『シャナ地方にいくとな。我の食事か』
「違うからっ!」

 僕が頼まれたのは、産まれたシャナ牛を『楽園』に連れて行ってほしいというものだった。繁殖させるらしい。

 楽園と竜国の気候はよく似ている。
 とくに王都に近いんじゃないかと思えるほどに。

 そして植生も、高地であることを除けば、王都周辺とかなり似ている。
 きいた話では、『楽園』の一部にシャナ牛が好む草が自生しているという。

 カイルダ王国は必要分以外の家畜を飼っていないので、竜国側がここでいっきに増やしてはどうかと提案したらしい。

 竜国の提案を受けて二つの領が名乗りをあげたので、試験的にもっとも高く売れるシャナ牛を飼ってみることに決まったのだ。

『まあ、我が飛び立ったあとで、少しくらいシャナ牛が行方不明になっても分からんよな』

「分かるよ! というか、食べちゃだめだって言っているじゃん!」
 相変わらずシャラザードはフリーダムだ。



 僕らが農場へいくと、すでに木の檻に入れられた仔牛が三十頭ばかりいた。
 今回運ぶやつだ。

「ではよろしくおねがいします」
 シャナ牛は竜国でも貴重なため、一、二ヶ月放牧してみて、良さそうならば順次増やしていくつもりのようだ。

「放牧が成功するといいですね。これで竜の食糧事情が改善されるといいですよね」

「まったくです。シャナ牛は人の口に中々入らないと、最近は卸す量も減ったとか、価格が高いとか突き上げも酷くて」

「どこの町でも食料品は値上がりしていますし、値段が上がると、どうしても生産者に文句をいいたくなるようです。でも、分かっている人たちは大勢します。生産者の苦労も」

 小麦の値段があがれば仕入れ商人へ、商人は生産者へと不満をぶつけてくる。
 生産者は不満のぶつけ先がないので、腹に溜め込むことになる。

「そう言ってもらえるとありがたいです」

『……で、どれを喰えばいいのだ?』
「違うだろ。話を聞いてなかったのかよ!」

『これだけいたら、二、三頭喰っても分からんぞ』
「分かるよ!」

 それでもシャラザードがぎゃーぎゃー煩かったので、結局一頭喰わすことになった。
 承認のサインをしたので、リンダのところへ請求がいくと思う。

 三十頭の仔牛を積み込んで、『楽園』を目指す。
 大型の獣を楽園に持ち込むのは、これがはじめてらしい。

 野生で繁殖されると困るので、滅多なものは持ち込めない。
 シャナ牛なら野生で増えても問題ない。増えないだろうけど。

 仔牛を届けて竜国に戻る頃には、旧魔国関連は片付いているだろう。
 ソウラン操者は、あと数日で決着がつくと言っていたので。

 魔国上層部の解体は急ピッチで進めるらしく、一ヶ月の猶予期間の間に竜国はいろいろ準備していたようだ。

 それとソウラン操者が潰した洞窟だが、ソウラン操者がもう一度『楽園』に行って、様子を見てきたらしい。

 洞窟の中は完全に冷えて固まっていて、カチカチになっていたようだ。

「あれでは絶対に登ってこられないね」
 とご満悦な様子だった。僕は思う。ソウラン操者って結構黒いところあるよなと。

 伝え聞いた話だと、洞窟の反対側から侵入を試みた人たちが大陸に戻ってきているようだ。諦めたのだろう。

 今後は魔国も竜国の一部になったので、移動の際は商国を経由する必要がなくなった。

 商国はいま、人材が不足しているが、僕らの知らないところで活動しているのかもしれない。
 とくに、『楽園』へ至る道が塞がれたことでより竜国を敵視するものと思われる。

 かかわらなくなると、精神的に楽だが、目を離すと何をしでかすか分からないところが怖い。


 移動を始めて二日目の午後、ようやく『楽園』に通じるトンネルにたどり着いた。
 南の海は相変わらず荒れていた。

「御苦労さまです」
 トンネルの中には、監視員が常駐している。
 万一、下から登ってくる人がいないかを見張っているのだ。

 トンネル内は人が住めるような環境でないので、かなり下の方に小屋を作り、そこに交代要員が詰めている。

 四交代制で一日中見張りが立っている感じだ。
 これらの準備をしたのがアンネラとターヴェリで、人の運び入れを含めて十日間くらいかかったらしい。

 ちょうど魔国へ降伏の猶予期間を与えている頃、アンネラたちはせっせと人や物を運び込んでいたのだ。

 トンネルを抜けて、カイルダ王国側へ入る。

 今回シャナ牛を放牧するのは、王国の中でも一番西にあるナルトニア領だ。
 王領から一番離れているせいか、もっとも牧歌的な領であり、土地もたくさん余っている。

 三方を山脈に囲まれていて、なだらかな斜面が多いため、耕作するよりも放牧を主眼に置いた方がいいのではというのが、竜国の考え方だった。

 ここにきて竜国の思惑がだんだん分かってきた。
 この国を早く豊かにして、競争力をつけさせようというのだ。

 今のところ、何をするにも竜国からの設備投資が必要になっていて、何かを始めようとしても時間もお金もかかる。
 準備には人が必要で、運ぶには僕らが必要なのだ。

 この運び入れようとするたびに属性竜を使う問題。
 これがネックになっている。

 なるべく国内でできるように、そういう流れを作りたいのだと思う。

 シャナ牛の仔牛を下ろし、先に来ていた牛飼いたちに後を託す。
 彼らもまた竜国から派遣された人たちだ。みんな若い。

「それではいい牛をたくさん育ててください」
「任せて下さい。ここを第二の産地にしてみせます」

 そのうち、「楽園牛」とか「カイルダ牛」という名前が定着するかもしれない。
 彼らに期待だ。

「よし、シャラザード。戻るぞ」
『あい分かった!』

 ここに来る前に一頭ぺろりと平らげているので、シャラザードは気分がいいらしい。

 途中で一泊して、明後日の夜には王都に戻れる。
 そうしたら、シルルお姉さんからの依頼だ……少し王都で暴れてみるか。

 僕とシャラザードは、空に舞い上がった。

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