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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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 僕はいま、王都のとある公園で空を眺めている。

 いまは激動の時代だなと思う。

 商人が魔国の政治に参加したと思ったら、竜国に降伏した。
 正直言って、この展開の速さにはついていけない。

 いつの間にか竜国は、魔国を自国領土として大陸最大の国家となってしまった。
 本当に何なんだろうと思う。

「随分と黄昏れていますね。もう枯れちゃったんですか?」
「いやいやいや、全然枯れてませんからっ!」

 結婚もまだなのに、いま枯れてどうする。

 公園のベンチに座って、ぼんやりと空を見上げていたらそう思われるかもしれないが。
「……って、ここを指定したのはシルルさんでしたよね?」

「そうだったわかしら?」
 相変わらず韜晦とうかいしたような物言いをするのは、王都で花屋を営むシルルさん。僕と同じ女王陛下の〈影〉だ。

 彼女は〈右手〉として僕との連絡役を務めている。
 そして夜にやってくるはずの彼女がなぜ昼間いるかというと……。

「操竜会の建物って、どうやっても入れないのよね」

「感知結界だけでなく、夜は機械式の罠も作動させていますし、そもそも猟犬を連れた警備員が巡回していますよ」

 というわけで、昔の学院寮のように気軽に出入りできないのだ。

「……平和ね」

 僕の隣に座って、空を眺めるシルルお姉さん。
 エプロン姿でなければ、デート中の若いカップルと間違えられるだろう。

 ただし小脇に抱えた花籠と長いエプロン姿では、どんなに綺麗な女性でも、サボり中の花屋の店員にしか見えない。

「それでそろそろ本題に入ってもらいたいんですけど」
 周囲に不審な気配はない。それに僕だってヒマじゃない。

「そうね。久し振りに会ったんだし、旧交を温めたいところだけど、しょうがないわよね」

「旧交って僕ら、仕事以外でつながりってありましたっけ?」
「なにそれヒドい!」

 シルルお姉さんは、ガーンとした表情を作るが、そろそろ僕も帰りたいのだけど。
 帰ろうかと腰を浮かすと、「待って、今から話すから」と慌てて引き留めにかかった。

「じゃ、話を聞きますから、早くしてください」
「余裕がないと、失敗するわよ」

「このあと用事があるんです。それで話はなんですか?」
 取り付く島がない言い方になってしまったが、僕は本当に忙しいのだ。

「しょうがないか。なら話すわね。先日、魔国を支配下に置いたのはいいわよね。その際、国政に関わった者たちの身柄を確保したのだけど、『鉄耕てっこう』のニコライド・ルブランだけは姿を消していたの」

「別にひとりくらい、どうでもいいんじゃ?」

「姿を消したのはハリムも一緒でしょ? それに『麦野ばくや』のフストラ・エイルーンもまた、魔国降伏前に首都を訪れているのよね。そのことから判断して、何か密命が出たのではないかと予想しているわけ」

 なるほど、五会頭全員が姿を消すと問題になるから、ひとりに託したわけか。

「他の五会頭はどうしたんです? たしか何人か国政に参加していましたよね」

「あとふたりね。『白夜びゃくや』のイノセント・トラフは残ったわ。関わった商人たちのとりまとめ役を買って出た感じかしら。仕事量が十倍に増えるんじゃないかと思うけど、踏みとどまるようね」

「その人、大変ですね」
 商人たちから突き上げをくらいつつ彼らをまとめ、竜国と対峙する道を選んだわけだ。
 正攻法でいくのが一番だと分かっていても、なかなか選べるものではない。

「それと『連吟れんぎん』のゴードリック・クリプトね。彼はいろいろ悟ってしまったと言われているわ」
「何ですか、それは」

「もともと芸術肌だったらしく、一線を退いて研究職に就くらしいのよ。魂の研究? をするんですって」
「……魂ですか。それはまた」

 何ともあやふやなものを研究するな。
 まあ、人の興味なんて千差万別だ。

「というわけで、姿を消したニコライドだけど、どこに行くと思う?」

 どこだろう?
 魔国の首都レイヴォスにいて姿を消したんだから、向かうとすれば天蓋山脈か、技国か竜国か。

「……竜国ですかね」
「どうしてそう思うの?」

「天蓋山脈は協力者がいないと隠れられませんし。技国に逃げても何も出来ない。もし密命を帯びているならば、竜国に潜伏した方がいいでしょう。幸い、大転移で人の流入が多すぎて、把握できていませんし」

「なるほど、レオンくんはよく考えているわね。いますぐ政治家になれそうです」
「なれませんよ。急に何を言い出すんですか」

 僕は辺境でパン屋を開くのだから。

「概ねその通りかな。理由もレオンくんが言ったもので合っています。どうやらニコライドは竜国――それも王都に逃げ込んだのではないかと言われているの。私たちもそのつもりで捜索中……そこでレオンくんに指令があります」

「まさか、ニコライドを探せとか?」
「いえいえ、そんなことは頼みませんよ」

「だったら、なんです?」
「少し暴れてもらいたいのです」

「はっ!?」
 いまなんて?

「商国商会を揺さぶるためにも、レオンくんには大いに暴れてもらいたいのです。そうすると敵は情報を交換するために集まります」

「そうでしょうね。商国の商会ばかり襲われたら、そりゃ仲間内で相談するでしょう」
「そんなとき一番頼りになるのは、五会頭です」

「それは間違いないですね。同格の商人が何人いてもまとまりませんが、もっと上の人がいれば、話は別でしょうから」

「つまり、動き出した人たちを追っていけば、自ずとニコライドのもとの案内してくれるというものです」

「僕は囮ですか?」
 しかも派手派手な。

「その通りです」
 シルルお姉さんはとてもいい笑顔で僕を見た。

 暴れていいのかな?
 もう――学院一回生の頃の僕じゃないんだけど。

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