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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○竜国 ウルスの町 五会頭『飛蝗ひこう』ブライシオ

 東の五会頭に『飛蝗』と呼ばれる者がいる。
 だれが名付けたか分からないが、自分で名乗ったのではない……はずである。

 飛蝗とは、穀物を食い荒らすバッタやイナゴのこと。
 ただし、ただのバッタではない。

 あまりに過密な環境で世代を繰り返したことで、突然変異を起こし、より飛距離が伸び、より貪欲になり、より大食いになったもの。

 親から生まれた子ですら、ただのバッタが飛蝗へと変化することがある。
 それを相変異そうへんいといい、単独から群生へと変化した環境によって、人の手に負えない存在へと変化していく。

 そんな厄災のような名前を誰がすき好んで付けるものか。
 それが常識人の考えである。

 魔国がまだ健在だった頃、東の五会頭のひとり『飛蝗』のブライシオ・ホーディは、より多くの資金を魔国に投資していた。

『飛蝗』ブライシオの得意は変装。
 表と裏の顔を持つ商人である。

 善良で温和な商人という表の顔の他に、狡猾で野蛮な顔を併せ持っている。
 それはまるで、孤独と群生の両性質をもつバッタのように。

 ブライシオは、商売で儲けた金を投資に使っている。
 いくつかの商会員の顔を使い分け、対立する両陣営へ出入りすることもザラ。

 自らが投資した品物に対して仕手戦してせんを仕掛けたり、売れない商品を影ながら宣伝してさも売れるように見せかけたりする。

 表と裏をうまく使い分け、商売に生かしている。

 広い穀倉地帯を持つ魔国には、潜在的な商売の種が眠っているとブライシオは考えた。
 そこでブライシオは相場をみながら魔国への投資を増やし、そこそこの成果を上げた。

 それはまだ、竜国も魔国も大転移の予兆すら掴んでいなかった時代である。

 ブライシオは儲けた金をさらなる投資に回し、順調と思われた穀倉地帯の投資事業は雪だるまのように増えていった。

 笑いが止まらないとはこのことである。

 だが大転移がはじまり、月魔獣の支配種が首都を襲ったことで、その投資のほとんどが無駄になった。
 このときブライシオは、多くの店だけでなく、配下の商会員も多数失っている。

 本店を魔国首都においていたブライシオにとって、命があっただけマシとも考えられるが、本店にいた部下たちを失ったことは、半身をもがれたように辛い出来事であった。

 すでに多くの資金を集めていたブライシオは、魔国だけでなく、技国や竜国にも投資していた。
 ゆえに資金面での心配はほとんどないが、これから先をどうすべきか悩んでいた。
 このとき投資先として、竜国の魅力はほとんど無くなっていた。

 竜国商会の台頭と女王の政策によって、新規事業は難しく、途中参入においては、さらに困難を極めていた。

 必然、新たな投資の中心は技国となった。
 もちろん魔国もこれまで通りのつきあいをしていく予定であった。

 だがここで、ブライシオにとって二度目の予想外の出来事がおこる。
 魔国が西の都を占領したのである。

 アラル山脈に隠していた投資で集めた物資は灰となり、西の都の貸倉庫に保存しておいた美術品もまた、失うことになった。

 あの場にブライシオがいたならば、価値の高い美術品を多数持ち出せたであろう。
 だが、ブライシオはもともと東の都の五会頭。荷物を預ける以外に、西の都を利用することはなかった。

 そしてなぜか知らないが、ブライシオが預けていた倉庫が全壊していたのである。
 それはまるで、空から巨大な何かが落ちてきたかのような壊れようであった。

 結果、貴重な美術品のたぐいはすべて破壊されてしまっていた。
 それこそ、たったひとつで屋敷が買えるほどの品物も多数含まれていたのである。

 あまった金を持ち運びのしやすい美術品に変えたのが徒となった形だ。

 一時的に魔国と商国は敵対、ブライシオも資金の移動が難しくなってしまった。
 戦火を逃れた技国に投資したかったブライシオは、あらゆる手を尽くしたが、それは叶わなかった。金が引き出せないのである。

 金があるのに移動できない。機会損失も甚だしいとブライシオは臍をかんだ。

 そして無為に時間が流れ、ついに技国と竜国の軍事同盟締結によって、竜国の資金が技国にもなだれ込んできた。

 ブライシオは完全に出遅れてしまった。

 商国商会は技国でも押し出され、肩身の狭いことになる。
 投資先を魔国から技国と変えたものの、かなりの損を出してしまった。

 なにより、配下の商会の被害が酷い。
 ブライシオのあとを追う形で参入したため、その頃にはもう旨みなど残っていないのである。

 ブライシオは魔国へ投資先を戻し、その間に竜国の介入を何とかすることにした。
 この場合、ブライシオは裏の顔が利いてくる。

 すでにこの時、ブライシオは他の五会頭メンバーとほとんど交流を持っていない。
 五会頭は必要があれば集まるし、共闘するが、そうでない場合は好きに動くのが基本であった。

 竜国の資本が魔国に入りつつある昨今、その規模を拡大させないためにも、竜国と技国の仲を引き裂くような出来事が起こればいい。

 そう考えて実行に移したのが、軍事的協力の排除である。
 これこそ『飛蝗』の真骨頂。たっぷりと食い荒らしてやるとブライシオは誓った。

 竜国にいる駆動歩兵隊を技国に戻し、両国の関係を悪化させる。

 子飼いの商会員と呪国人を使い、月魔獣をけしかけた。
 その作戦は上手く行き、一定の効果を見せた。

 だが、時代はまたブライシオを裏切るように動く。

 新たな投資先としていた魔国が、こともあろうか竜国に降伏してしまった。
 気がつけば、魔国に投資した資金はほとんど回収されないことになったのである。

 しかもどうやら、駆動歩兵へ月魔獣をけしかけたことがバレたらしく、竜国と技国はブライシオの身柄確保に動いているらしい。

 すでに配下の商会員も逮捕され、資金も凍結されている。
 魔国にある本部は、竜国の支配下では役に立たない。

 ブライシオはやむなく地下に潜ることにした。
 秘かに作っていた別の商会のもとで機会を窺う。

 そう考えてブライシオはいま、ウルスの町にいる。
 捲土重来。竜国の栄華は長く続かない。

 仲間の五会頭が必ず何かしてくれる。
 そう思って堪え忍んでいると、だれも知らないはずの隠れ家に多くの兵の足音が聞こえてきた。

「周囲を囲め。だれ一人逃すな!」
「敵は呪国人を連れている可能性が高い。見つけ次第全員拘束しろ」

 明らかに自分を狙っている口ぶりに、ブライシオはどう脱出を図ろうかと思案する。
 包囲を破ったところで、町の外には逃げられない。

 ならば一度捕まり、世間を巻き込んで自由の身を得る方がいい。
 そう考えてブライシオは投降を決意した。


ざっと斜めに読み返していたら、『飛蝗』のブライシオさんの登場シーンを書き忘れていたようで、ちょっと焦りました。

というわけで、彼のシーンからスタートです。
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