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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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○魔国 首都レイヴォスの町 その1

 その日、魔国の首都で、国政を司る第一回の会議が開かれた。

 その内容は外には漏れず、だれが何を発言したかは、議事録に残されているだけである。
 内容を知っているのは、そこに参加した者だけ。


 会議が開かれた三日後、魔国王の承認を得たいくつかの事柄が発表された。
 その中に、竜国に関する内容はなかった。

 宣戦布告され、その返答期日が迫っている中、会議の中で決着を見なかったのだろうと人々は噂し合った。真実は分からない。

 というのも、会議に参加した者たちの口は堅く、だれもがその内容を漏らさなかったからである。

 両国の開戦まであと七日。
 魔国民が祈るようにして残り日数をかぞえる中、国政を担う者たちはいまだ沈黙を保ったままである。



○カイルダ王国 王領 王城

 今年七十歳を迎えたカイルダ王国の王ファーンは、老齢な身体に鞭打つようにして国を切り盛りしていた。
 書類仕事が溜まり、肩や腰が悲鳴をあげていた。

 王位を息子に譲り、隠居する予定でいたところに、山脈の外から客人がやってきたのである。

 この難題を前に隠居など到底できないとファーンは決意し、外に息子を派遣しつつ、国の重鎮を集めて連日協議を続けてきた。

 ファーンの息子である王太子レヴレアルは四十歳。

 すでに十分な実績を積んでいたが、彼が王として山脈の外に出向くのは危険であった。
 事前に王位を譲らなかったのは英断といえよう。ゆえにいまだ彼は王太子のままである。

 レヴレアルは今までに二度、国に戻ってきている。
 そのどれも、違った竜に乗ってである。

 最初出て行った時は、黒い竜であった。
 帰ってきたときには、赤い竜に乗っていた。

 そして二度目に戻ってきたときには、青い竜に乗っていた。

 ファーンは、息子からもたらされる外の話を聞くにつれて、国の大きさ、強さに愕然となる思いを抱いた。


 ――もはや自分の時代ではない


 国の舵取りはすべて息子に任せた方がいいのではと考えるようになった。
 同時に、最終決定権を自分が持っているからこそ、息子が外の世界でやっていけていることも理解している。

 息子が戻ってきたときは必ず「話を一度持ち帰る」必要があるものばかり。
 その場で決断できないからこそ息子はこうして戻ってくる。

 それが分かっているから、安易に譲位できなくなっている。

 そしてファーンは思う。
 最初に山脈を越えてきたのが竜国で良かったと。

 竜国は各国の思惑を包み隠さずレヴレアルに告げている。レヴレアルはそれをファーンに話す。

 少なくとも今のところ、嘘や誤魔化しはないと思える。
 それは大国ゆえの矜持、もしくは大らかさなのかもしれない。

 レヴレアルが望めば望むだけ知識を与えてくれる。

 竜国とは良好な関係を築くことができている。
 これだけ国力に差があるものの、同盟という対等の立場でいてくれているのも助かっている。

 また、カイルダ王国が急激な変化を望んでいないことが分かると、食糧確保を前提とした領地開発を除けば、国の開放は極力避けてくれることも同意してもらえた。

 まずは物品の交流のみ。
 その後人的な交流を行いつつ時期が来たら自由に行き来できるようにと決まった。

 どのみち今は、竜国の特殊な竜以外に出入りできないため、それでいいと考えているのかもしれない。

 農地開発については、完全に竜国主導で行われ、ゆくゆくは大陸の食料庫となって欲しいと言われている。

 竜国が明確な要求をしてきたのはその一点のみである。
 それについてだけは、竜国が引かないことは分かっていたので、ファーンは了承している。

 たった一頭の竜ですら、この城など完膚なきまでに破壊することができる。
 相手の譲れないものを見抜き、そこを避けて交渉するのが生き残る道であるとファーンは考えている。

 今のところ、それはうまく行っている。
 すでに入植者が開墾をスタートさせたと報告がきている。

 これからこの国がどうなるのか未知数だが、外に道が開かれた以上、とともに生きていく以外に方法はない。
 ならば敵対よりも友好をもってあたるべきだ。

 国王ファーンは凝った肩を揉みながら一息ついた。書類仕事はまだ残っている。

 もうしばらくは息子を竜国に赴かせ、外の景色を見させたあと、この国を継がせるべきであろう。

 そのためには自分がまだまだ現役で頑張らねばならない。
 そう思うと、枯れたはずの力が蘇ってくる気がするファーンであった。



○魔国 首都レイヴォスの町 その2

 月が変わるまであと三日と迫ったその日、竜国軍が国境付近に軍を集結させた。

 街道を逃げ帰ってきた行商人からその話を聞いた魔国民たちは、家で閉じこもるか、脱出するために家財道具をまとめはじめた。

 噂は噂を呼び、パニックになる人々がレイヴォスの町にも出始めた頃。
 ようやく、魔国王より正式発表があった。


 ――本日をもって、魔国は竜国の要請を受け入れる決断をした


 つまり竜国の支配下に入るのを受け入れるということ。
 戦争は回避された。

 甚だ不本意だが、国民の安全を考慮して、その要求を飲むと発表は続けられていた。

 これでもう国という体裁は保てなくなるが、かつての呪国のように母国を失い、各地へ散るようなことには、ならないだろうと人々は噂し合った。

 為政者が代わり、国名が変わる。
 自分たちの生活は良くなるか悪くなるか分からないが、それは新しい支配者がくれば分かること。

 いまは戦乱が回避されたことを喜ぼう。そんな雰囲気が首都の町を支配した。
 事実、魔国王の発表がある前まではみなどこに逃げようか、それだけを心配していたのだ。

 レイヴォスの町が首都にならなければと、呪詛を吐く者もいたくらいである。

 戦争が回避され、楽観的な話が大多数を占める中、とある噂もまた、秘かに語られていた。それは……


 ――降伏に反対した者たちが出奔したらしい


 それにより大事な決定をするのに必要な票が足らなくなり、議決が遅れ、発表が遅れたのだと。
 その噂は人々の戦争回避の話に紛れ、のちに忘れ去られた。


 魔国王の発表があったこの日、同じ内容のものが竜国にも届けられた。
 竜国も即日受理した。


 この日をもって、魔国は消滅した。

 ここまでおつきあいいただきましてありがとうございます。
 というわけで、本日投稿分で『楽園編』が終了しました。

 連載開始前に全八章構成で考えていまして、いま七章まで終わっています。
 つまり次が最終章になります。

 魔国終了のお知らせとともに竜国の目は月魔獣支配種に向かうわけですが、まだ「火種」は残っているようです。

 次章は『月戦編』となります。
 ここまでプロット通りに来ているので、ラストもそうなるんじゃないかなと思います。

 本作品同様、「異世界ヒャッハー」も毎日投稿中です。
 まだの方はぜひぜひ一読していただけたらと思います。

 それでは引き続きよろしくお願いします。
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