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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 演習に出発する前に、二回目の『顔合わせ会』が行われる。
 今回はリンダも出席するので、何も言ってこなかった。
 抽選に当たったようだ。

「というか、リンダ。……ロザーナ先輩とまだ学校内でやりあっているみたいなんだよなぁ」

 アークが仲良くなった王立学校の女生徒からの情報では、リンダとロザーナ先輩の対立は、かなりの耳目を集めているらしい。

 千五百人もいる生徒の中で、名前入りで噂が広がるって、すごいことだと思うんだけど。
 そんな中での顔合わせ会なので、正直気が進まない。

 と言っても、もう顔合わせ会の当日を迎えてしまったのだから、腹をくくるしかないのだが。

 今回の会場は広い庭である。
 ガーデンテラスが用意され、立食式の会だった。
 僕らは指定されたテーブル周辺から動けず、王立学校の生徒たちが巡回する形式になっている。

 ひとつの大きなテーブルに学院の一回生は五人、王立学校の生徒は三十人くらい。
 結構な人数だ。

「あら、だれかと思ったら、かの有名なロザーナ嬢ではございませんか」

「ほんと。謹慎はどうなさったのかしら」
「それより皆さま方。飛んでくるお皿やグラスに注意した方がよろしくて?」

「そうでした。あの方に近づくと、テーブルのものが次々と飛んで来るんですものね」
「それだけではございませんわ。止めに入った方を引っ掻いたり、噛み付いたりと……」

「まあ、どこの野獣でしょうか」
「それを浅ましいふるまいと思っておられないので、忠告しても無駄とか」

 僕がいるテーブルにロザーナ先輩たちが巡ってきたとき、そんな会話が始まった。
 何人かの王立学校の生徒がまたかとうんざりした顔をした。

 全部のテーブルでこんなことをやっているのだろうか。暇だな。
 さすがに度が過ぎると思ったので注意しようとしたら、ロザーナ先輩に目で制された。

 トラブルは起こしたくないらしい。
 ひとしきり話せば満足するだろうと黙っていたが、結局次のテーブルに移動するまで、それは変わらなかった。

「……何だったんだ」

 人の足を引っ張りに来ただけなのか? アピールもなにもあったものじゃない。
 本気でそれが目的ならば不毛過ぎる。

「ねえ、もう来たでしょ」
 テーブルに集団が二回入れ替わった後、リンダがやってきた。

「来たって、ロザーナ先輩?」
「そう」

 そういえば、リンダとロザーナ先輩は、毎日のようにやりあっているとか。

「まったく腹が立つったらないわよ」
 リンダが怒っている。

「なんで? ロザーナ先輩は、ずいぶん我慢していたようだけど?」
「そうよ。今回の抽選に当たったとき、教員から問題を起こさないようにって相当厳しく言われたみたいだし」

 なるほど。前科があるロザーナ先輩だけ、個別に釘を刺したわけか。

「だったらいいんじゃないか?」
 そこまでロザーナ先輩を目の敵にする必要はないと思うが。

「違うわよ。あのへんにいるご令嬢たちよ。品性が卑しいったらありゃしないわ!」

 リンダは、さきほどロザーナ先輩を悪しざまに言っていた人たちを指さした。
 どうやら、彼女らに怒っているらしい。

「リンダは喧嘩しているって聞いたけど」
「しているわよ。でも、過去にやらかしたことをいつまでもネチネチと言い続けて何になるの?」

 今回参加を許された、それはつまり謹慎が溶けたことを意味する。
 過去の話を蒸し返すのは分かるが、ああも執拗に言い続ける意味が分からない。
 だから僕もリンダの考えに賛成だ。

「今回の抽選に漏れた人の中に、去年の当事者の親類がいるのよ」
「ロザーナ先輩とやりあった相手側の親類ね」

 一大醜聞だったらしいし、恨み骨髄に徹するというやつだろう。
 抽選は絶対だから入れ替わりもできないから、取り巻きを使って嫌がらせを画策したわけか。

「馬鹿らしい話だな」
「コソコソと画策するくらいなら、正々堂々と文句を言いに行けばいいのよ」

 憤慨する姿は、昔よく遊んだ頃のリンダを思いおこさせた。
 そういえば、いつもこんな感じで直情的だったなと。

「だから僕とウマがあったのかな」
「なに?」

「いや、こっちの話」
「なによ、変なの」

 その後、他の人とも雑談をして過ごし、時間が来たのでリンダは離れていった。

 前半が終わり、ようやくフリータイムになった。
 ここからは目当てのテーブルに着いていいことになっている。

 リンダはもちろん、ロザーナ先輩も僕がいるテーブルにやってきた。
 先ほどのご令嬢たちも一緒に……。

 総勢五十人が同じテーブルについた。ギュウギュウだ。

 苦笑いするロザーナ先輩と、眉根を寄せて顔が怒っているリンダ。
 その中間に、すまし顔で割り込むご令嬢がたがいる。

「まあ臭い。何でしょう、この臭いは」
「ほんと。獣臭い。どこかに獣でも紛れ込んだのかしら」

 そう言いつつ、ロザーナ先輩の方を向いて鼻をつまむ。
 扇でパタパタと仰ぐ仕草をしながら素知らぬふうで話を続けようとしたとき、バンっとテーブルを叩く音がした。

「ちょっと、あなた達、いい加減にしなさいっ!」

 叩いたのはリンダだ。これ以上ないくらい怒っている。
 いま周囲のテーブルでは嬌声があがったりで目立ってないが、それもいつまで続くか分からない。

 できれば落ち着いて欲しい。そう思っていると、ご令嬢がたの間に困惑が広がった。

「あなたのことではないですよ」
「そうよ獣臭いのは……」

「だからそういう話じゃないの!」

「だ、だって……あなたも敵のはずでしょ?」
「そうよ。わたくしたちと手を組むことだってできるはずでは?」

 違う。彼女らは何も分かっていない。
 だが、このままだと、去年の十二月と同じことが起こってしまう。

 その雰囲気を感じたのか、ロザーナ先輩がソっと一歩下がった。
「ご不快にさせてしまったようなので、私はこれ……」

「そういえばここに来る前、先輩がたと一緒に竜舎の掃除をしていまして」
 ロザーナ先輩の言葉を遮り、僕は話したからだろうか。みなが口を閉じた。

「充分注意したつもりでしたが、臭いが服に移ったようですね。お名残り惜しいですが、僕は退席した方がよろしいようですね」

「いえっ……なにも」
「そんな、わたくしどもは」
「そういうつもりではなく……」

 慌てふためるご令嬢がたを残して退席しようとすると、動く影があった。

「すみません。俺もです」
「わ、わたしも……」

 同じテーブルにいた同級生たちが揃って席を立った。

「いいんだよ、残っても」
「いや、あの場にいたくないのは俺らも一緒だ」
「そうよ。あれはどうかと思うわ」

 なるほど、そういうことなら。

「僕のお気に入りの場所があるんだけど、どうかな?」
「いいね」
「行きましょう」

 僕らは早足でその場を去ることにした。

「わたしたちも行きましょう。ここにいる目的もなくなったし」
「……そうですわね」

 背後で、そんな声が聞こえた。
 もちろんだれが言い出したのかなど、振り返らなくても分かった。


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