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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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○魔国首都 レイヴォスの町

 竜国から宣戦布告されて数日後。
 場所はレイヴォスの町にある商国会館。

 ここに西の五会頭のうち、三人が集まっていた。
 ひとりは多くの商会を抱え、数多くの支店を持っている『白夜びゃくや』イノセント・トラフ。

 イノセントの扱う商品は、広く浅くがモットーで、商品に合わせて商会を設立しているため、購入者はもとより、商人仲間ですら、そこがイノセントの店であることを知らない場合が多い。

 イノセントの店は日が沈まないと言われるほどで、広域商人の名を欲しいままにする隠れた大商人である。
 世界を知るならイノセントに聞けと言われるほど、彼が手を出していない地はないと言われている。

 もうひとりは『鉄耕てっこう』ニコライド・クリプト。
 ニコライドは、農業と工業に関して他の商人を寄せ付けないシェアを持っている。

 もともとは穀物を輸送する商いをしていたが、卸先で商売をはじめ、農具の開発や販売に手を出すとともに、漁業や林業にも関わっている。

 胃袋を満たすにはニコライドに頼めと言われるほど、その手腕は響き渡っている。
 そして『鉄耕』の名は伊達ではないとばかりに、魔国が戦争に突入したとき、多くの食糧と武器を供給している。

 最後のひとりは『連吟れんぎん』ゴードリック・ルブラン。
 ゴードリックは、芸術方面での活躍がめざましく、絵画や彫刻だけでなく、演劇や笑劇など、より芸術性の高いものから娯楽まで幅広く取り扱っている。

 まさにゴードリックは文化や芸術の伝道者であるといえる。
 近年は酒場や浴場などにもかかわり、風俗分野にも進出している。

 時代を知るならゴードリックに聞けと言われるほど、彼が貴族から民衆の心を掴んでいる。

 この三人が一室に集まって何をしているのかと言えば、揃って頭を抱えているのである。

 原因は竜国の宣戦布告。その開戦理由についてである。

「竜国にとって魔国は荷物にしかならないだろう。それでも開戦に踏み切ったのは、国を消滅させて我々の投資をなかったことにするつもりだと思うが、どうだね」
 イノセントが嘆息しつつ、現状を確認する。

「請求権を竜国に移すのは可能か?」
 ニコライドの問いかけにイノセントは顔を横に振る。

「もしそれが可能ならば、証書など際限なく作れてしまうからな。認めんだろう」
 金を貸した借りただけではない。

 国が滅んでも、前の国と交わした約束が有効ならば、雇用を含めて多くの契約が履行を余儀なくされる。
 それでは何も始められないし、始まらない。

「商売を引き継ぐときにはその負債を含めて引き受けなければならない。その辺を押して要求を通させるしかないかもしれん」
 ゴードリックの声に力はない。

 ここにいる三人はすでにかなりの資金を魔国に投下してしまっている。
 将来にわたって回収する予定もあったし、なにより国政を左右することで継続して富を生み出す予定であった。

「請求しないことには、首をくくるのは我らだしな。やるしかないか」

 結局のところ、いまの軍事力では竜国に対抗できない。
 開戦はできない相談であった。ならば、より条件の良い形で国を買い取ってもらうしかない。

「せっかく手に入ったものを」
 イノセントが吐き捨てるように言うが、戦争が終わったこのタイミングで再び仕掛けてくるとはだれも思わなかった。

 その後三人は、いかにして竜国から金を引き出すかの知恵を絞ることになったが、来客の到来で、一時中断された。

「魔国王でも来たのか?」
「いまは相手をしているヒマはないが」

「……いえ、東の五会頭『麦野ばくや』のフストラ様と名乗っております」

「『麦野』が来た?」
「あれは『楽園』にかかりきりだったはずだが」
「まあいい。お通ししろ」

 やってきたフストラ・エイルーンはかなり疲れた顔をしていた。

「お久しぶりです、お三方」
「急な来訪だな、『麦野』の。何か困ったことでもあったか?」

「困った事態になっているのはこちらかと思いましたが」
「たしかにな。だからそれを打開する方策をいま話し合っているのだ」

「もし竜国に借金を肩代わりさせようとしているのでしたら下策ですよ」
「なんだと!?」

「今回の宣戦布告。あの女狐にしては知恵が回りすぎます」
「どういうことだ、『麦野』の」

「今回の宣戦布告は実質商国に対するものです。それはいいでしょうか」
「もちろんだ」
「無論、分かっておる」

「魔国という大荷物を抱えてまで商国を潰そうとするのですよ。我々が竜国に借金を肩代わりさせたらどうなると思います?」

「突っぱねるだろうな。だが、商人たちすべてを敵にはまわせん」
「どこかで折り合いを付けねばならんだろう」
「落としどころとしては、半分だけ回収というのが我々の結論だが」

「ありえません。竜国はそれが狙いなのですから」
「? 意味が分からん。貸した金の請求は商人の権利であろう」

「宣戦布告の期限を翌月一日にしたのは、第一回の会議をさせるためですよ。そして会議のメンバーはすでに発表されています。実際に会議が施行されて実績も十分ですからね」
「?」

 イノセントをはじめ、フストラを除いた三人が首を傾げる。

「今回で、会議のメンバーは国政に参加したいわば為政者です。そして竜国の属国下になった上で請求したら、竜国の法によって捌かれます」
「ん? そうか。我らは魔国民と同じ扱いか」

「お分かりになったようですね。商国商人が魔国にお金を貸していたのならば、竜国に交渉という余地はまだあったでしょうか、今回は違います。魔国の国政に関与している時点で、魔国側の一員です。そして魔国が竜国に下った場合、その辺の請求関連はキッチリと潰してくるでしょう。あとで知らなかったと言い逃れできないように……」

「では、請求は難しいということか」
「私はあえてさせるのではないかと思っています。事前に取り決めた上で異を唱えさせる。するとその行為は魔国併呑の妨げになります。大手を振って取り締まれるでしょう。反国家的行為と言われるかもしれません」

「大袈裟な……」
「魔国が降伏し、無血で支配者が変わりました。過去は忘れて新しい竜国の民として未来に生きましょう……そんな感じでしょうか。ところが一度決まった協定にケチをつける者が現れた。その者は自身の利益を優先し、協定は無効だと訴える……などですかね」

 捕まえて調べてみれば、悪事がぞろぞろ出てきた。
 これは処刑せねばなるまい。そんな未来が見えるとフストラが言った。

「では権利を商会の者に移して代わりに請求させるしかないか」
「その手のものはすべて手を打たれていることでしょう。やってもいいですが、間違いなく連座で処罰されますよ。もとは私たちを排除するためなのですから、どう迂回しても意味は無いでしょう。なにしろここは竜国になるのですから」

「うーむ」
「どうしたものか」

 フストラの言うことも分かる。
 だからといって、「はいそうですか」で引き下がっては結果は同じである。

「ここは一戦交えるか?」
「どうやって?」
「傭兵を使って直接王都襲撃はどうだ?」
「受ける者はおらんわ。そもそも武力では太刀打ちできないからこそ、搦め手を使ってきたのであろう」

 フストラが来たことで会議は前進したが、その分、結論から遠ざかってしまった。

 その日、遅くまで会議室の灯が消えることはなかった。


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