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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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○商国 東の都 スルヌフ

 竜国が魔国に宣戦布告したという知らせは、商国にももたらされた。

 五会頭のひとり『麦野ばくや』のスルヌフ・エイドスは最初訝しみ、次に自らの額を叩いた。

「そうきたか!」
 スルヌフは一人だったため、その叫びを聞いた者はいない。

「こうしてはいられませんね」
 スルヌフは、久し振りに東の都から出ることになった。



○魔国 首都レイヴォスの町 魔国王バルトゥリオス

 先代魔国王ロイス・フロストには、ひとりの息子がいた。

 その者は長じるに従って、父親の薫陶をよく受け継ぎ、王としての矜持に目覚め、数多の部下を従えて、魔国の発展に貢献した。

 だが、生涯でただ一度だけ、息子は父の政策に異を唱えた。
 たったそれだけで、息子は魔国の中でも辺鄙な町に落ちることとなった。

 そこで修業し、支配者としての力を示せということである。
 だが周囲の者の目には、ただ追放と映った。

 ゆえに都落ちした息子に付き従う者の数は限られた。

 時が経ち、首都イヴリールが月魔獣の支配種によって壊滅する。
 たまたま戦に出ていた魔国王ロイスは、帰る場所を失うことになった。

 魔国の難事到来である。
 それでも父と息子の和解はなされず、互いがそれぞれの道を歩むものとして、協力し合うことがなかった。

 その後、戦場で魔国王が斃れると、息子が父の後を継ぎ、新魔国王として君臨することになった。
 魔国は息子に付き従った者たちを中心として、新たに生まれ変わることになった。

「一度追放されたのに、運の良いことを」

 重鎮の中にはそう言う者もいた。
 だが、後に明かされた文書の中には、息子に王位禅譲する旨の書類が調えられていたことが分かった。

 旧臣の中にもそれを肯定する者も多い。
 魔国王ロイスは国のため、急進的ラディカルな政策を執り、息子は逆の立場を貫くように取り決めがあったという。

 この先どうなるか分からない。ならばどちらか一人でも生き残ろう。
 いかな事態に陥ろうとも、魔国を消滅させてはならない、魔国民を流浪の民にしてはならないという、決意の表れでもあった。

 息子バルトゥ・フロストは、名をバルトゥリオスと改め、自身が都落ちしたレイヴォスの町を首都として、あらたなスタートを切ったのである。

 だが、問題は山積みであった。

 一番の問題は、レイヴォスが首都としての機能を備えていないことだろう。
 もともと首都イヴリールは巨大な城塞都市であった。

 イヴリールは月魔獣の侵攻を防ぐ城壁が構築してあったが、レイヴォスにはそれがない。

 城壁は低く、簡単に乗り越えられるほどしかない。
 また、人の出入りを遮断した場合、簡単に飢えてしまう。

 食料を保存するための施設など、大都市に必要な機能をまだ作成していないのだ。

「さてどうしたものか」
 バルトゥリオスの苦悩は深い。

 魔国王になってからというもの、災難続きである。
 父が戦死し、その葬儀も始まらぬうちに、竜国との和平交渉である。
 ほぼ竜国の意見を飲む形で進めるしかなかった。

 それだけでも頭が痛いのに、商人たちから借金の返済要請が相次いだのである。
 一番新しいものだと、父が戦争に向かうときに借り受けた物の支払いがある。

 旧首都イヴリール時代からあった借金が相当な金額になっている。
 将来においても、この町を発展させるために必要な資金を借りなければならない。

 魔国はいま借金で首が回らず、出て行く金ばかりが増えている状態であった。

「月魔獣対策費に村や町を離れた者たちの支援費……彼らからは税が取れんしな。いや、戦争に参加した兵の家族もか」

 兵役は義務としても、戦争にかり出された場合、その日数に応じて税が免除される。
 軍隊は金がかかるものだが、着替えや持ち物、飲食に至るすべてを国が面倒みるわけではない。

 用意できるものは用意させるし、なければ自腹で用意してもらうことが通例となっている。
 それらの出費分くらいは、翌年の税免除で我慢して貰う事が多い。

 なにはともあれ、今が一番、国庫に金がない時期なのである。
 そこへ降って湧いたかのような借金の取り立て。

 支払う金がないと突っぱねることはできるが、竜国に支払う戦時補償、いわゆる賠償金や、働いている者たちに支払う給与からはじまり、自給を増やすための開墾、無くなった兵の家族へ支払う一時金など、返すどころか借りたいくらいなのだ。

 それでも首都イヴリールが健在であったならば、なんとかなったかもしれない。
 あそこは魔国の首都として長年君臨しつづけており、蓄えはあった。
 支出を減らし、溜め込んだ財をすべて吐き出せば、当座はしのげたのではないかと思える。

 だが、それは叶わぬ夢。
 このままでは国の存続が危ういと判断し、新魔国王バルトゥリオスは商国の提案を受け入れた。

 借金を整理し、返済の猶予を与えるかわりに政治的な発言権を渡すこと。
 主権独立とは言い難くなるが、国が消えるよりかはマシと思い、苦渋の決断をした。

 今後は、政治的な運営は議会が行うことになり、たとえ魔国王といえども議会に提出しないかぎり、何も実行できなくなってしまった。

 その議会の第一回会議が今月二十日に開かれる。
 魔国が主権を譲り渡した屈辱的な日になるのだ。

「だが、まさか竜国が宣戦布告してきたとは……」

 そしてここへ来ての、大波乱である。
 議会は荒れに荒れることだろう。

 第一回会議の議題が、竜国の一地方とするか否かであるのだ。

 バルトゥリオス自身、王としての教育は受けてきた。
 だがこのような事態に遭遇するとは思ってもみなかったし、そもそも切り抜けられるたぐいのものなのかさえ、分からない。

 悩むバルトゥリオスをおいて、会議の日程は近づいてゆく。


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