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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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○東の都 五会頭 フストラ

 カイルダ王国が天蓋山脈に存在していたことは、大陸中に知れ渡った。
 いまだかつて、天蓋山脈の中に国ができるほどの広い土地があることすら知らなかった人々は大いに驚いた。

「竜国は大したものだな」
「ああ、昔の史料からそんなものを発見してしまうなんて」

 人々はそう噂し合った。
 もともと商国がすべて秘密裏に事を進めていたこともあって、手柄はすべて竜国にもっていかれた形になっている。

 もっとも名声に関しては、商国は重視していない。
 商国が欲するのは実利であり、投資した金額の回収であるのだから。

 東の五会頭のひとり、フストラ・エイルーンは、竜国からもたらされた報告書を苦々しく見つめていた。
 商人としてはまだ若いフストラについて、これが初めての明確な敗北であった。

「発表されたものを見る限り、間違いはないようですね」

 かつて『魔探またん』のデュラル・ディーバが手記に記した事実。
 それをさらに上回り、詳細に説明している文章まであれば、竜国が実際に『楽園』へとたどり着いたことがわかる。

「向こうに行ったドナルマーはどうなったのでしょう」

 東の五会頭のひとり、『宝寿ほうじゅ』のドナルマー・テンナイは、『楽園』に至る「最後の洞窟」を見つけたと知らせてきてから音沙汰がない。

 中には致死性のガスが充満していて進むのに難儀しているとあった。
 洞窟の出入りは商国が押さえており、ガスくらいならば中和するか、掻き出すか、別ルートを探索すればいいとフストラは考えていた。

 つまり、洞窟を発見した時点で、楽園到達は時間の問題だったのだ。
「別ルートから先を越されるとは……」

 竜国も『楽園』を探しているという情報はあった。
 いまはもういないが、『豪商ごうしょう』のスルヌフが下手を打って、その情報が竜国に漏れたことがあった。

 それでも、最終的な結末は決まっているはずだった。
 竜国がどこをどうがんばったところで、たどり着けるわけがないはずだったのだ。

「計画の見直しどころか、中止になる勢いですね。どうしたものか……」
 フストラが頭を抱えた頃、ドナルマーが到着したとの知らせが届いた。

「すみませんが、すぐに彼を呼んで下さい」

 やってきたドナルマーは、憔悴しきっていた。
 もともと老齢であったドナルマーであったが、そのやつれっぷりは半端ない。
 相当無理を重ねたのが一目で分かった。

「すまんの、『麦野ばくや』の」
「いえ、お疲れのところ申し訳ありません。洞窟の状況はどうなっていますか?」

「洞窟は『鉱燐こうりん』に任せてきた。竜国の発表を聞いて、腰が抜けたわ」
『鉱燐』とは、東の五会頭のひとり、バッカール・トーリオである。

 バッカールはもともと、アラル山脈にある商国の隠し洞窟の維持管理をしていた。
 竜国の青竜使いソウラン・デポイによって洞窟自体を溶かされてしまったため、現在はドナルマーとともに天蓋山脈にいた。

 バッカールがいれば、多少の障害があっても洞窟探索は進むと思われていたのだが。

「竜国には先を越されましたが、洞窟ルートが開通すれば、後からでも挽回できます。あの国は四つの領に別れていますので、意思の統一を阻害させる作戦を考えましょう」

「無理だ」
「いえ、大丈夫です。いつも通りの方法がいいと思います。金と物資で搦め手を進めていけば」

「いや、そうではない。洞窟は開通せん。だから無理なのだ」
「どういうことです?」

「洞窟の先が……途中でガチガチに固められてしまっておった」
「……?」

 状況が飲み込めないフストラに、ドナルマーは「話して理解できるかどうか」と思いながら説明した。

 最後の洞窟は非常に長く、途中の上り下りだけでも通行するのにかなり苦労する。
 そして長い下りが続いたところに「ガス溜まり」を見つけたという。

 バッカールが言うには、低い場所にガスが溜まるのはよくあることで、壁にヒビが入ったりすると、そこからガスが漏れたり、水がしみ出したりするらしい。

 地底湖のようになっていないだけマシだとバッカールは言った。

 空気より重いそのガスは、人が吸い込むと意識を失い、その場で倒れ込めば、呼吸できずに死んでしまう。
 不燃性のガスであることと、充満している部分が思ったほど多くないことから、ガスを洞窟の脇道へ誘導するため大がかりな土木工事を行い、最終的に有毒ガスの誘導に成功したらしい。

 短期間で急にガス量が増えなければ問題ないだろうということで、先に進んだが、そこで詰まってしまったという。

「溶けた岩の感触から、我らの隠し倉庫を狙ったアレと同一であろうとバッカールが言い出した」

「では岩を溶かす炎で洞窟が塞がれたと?」

「『魔探』の手記には、最後に長い上りの記述があるじゃろ。最後の上りは数時間かけねばならん。距離にしてわしは一キロメートル以上はあると考えておる。その先が地上とした場合、そこからすべて塞がれたのではなかろうか」
「なんと……」


 バッカールの見立てでも、洞窟は頑丈な造りになっているとのことだった。
 壁はすべて固い岩盤となっていて、長い年月で柔らかい部分が浸食されて洞窟ができたのではないかと。

 裏を返せば、いま残っている部分は掘り進めることができない硬い岩ばかりなのだ。
 それを少なくとも一キロメートルも掘り進めることは現実的ではない。

「壊すのは一瞬じゃがな。一応わしが陣頭指揮を執ったが、少しも崩せなかったわ」
 ドナルマーが憔悴していた理由はそれかとフストラは思い至った。

「他に楽園への道はありそうですか? もしくは新しく洞窟を造るとか」
 フストラの問いかけにドナルマーは首を横にふる。

「ないと思う。天蓋山脈はあり得ないほど山頂が高い。麓の方は、それに比例して太くなっておる。あれをくり抜くような技術はないな。あったとしても百年やそこいらは軽くかかる」

「そうでしょうね。それと手記によれば、『楽園』はかなり高地にあるようですし、『楽園』の外からでは、どのあたりから、どこに向かって掘り進めればいいのかすら分かりません」

「ここは損切そんきりした方がいいと考えるが、どうじゃ?」

 今までの投資額は莫大なものとなっている。
 ハッキリ言って、これが回収できないとなると、そこらの大商人が二十人、三十人単位で首をくくることになる。

「致し方ないですね」
 それを分かっていて、フストラは手を引く方を選んだ。

 属性竜のみしか通行できないなど、竜国が嘘の発表をしている可能性はあったが、わざわざ洞窟を潰したあたり、こちらの手を読んでいる。
 すぐに思いつけそうな案は、対策が採られている可能性が高い。

 下手に足掻くよりも、一旦すべてを忘れてしまった方がよさそうだ。
 フストラはそう判断した。

「わしもこれが回収できんとなると、厳しいな。資産のほとんどを突っ込んでしまったわ」

「他の商人は余所で借りてまで、のめり込んでいましたからね。魔国が手に入ったことですし、最低限の穴埋めができるかもしれませんが、かなり恨まれそうです」

「魔国と技国の戦争特需を見越して投資した『飛蝗ひこう』は死に体じゃった。起死回生を狙って、いま大口を突っ込んでおる」

「死に体といえば、『銀檻ぎんかん』もそうですよ。手持ちがなくなり、育てる資本が枯渇したようです。楽園を主体として活動していた東の五会頭は、軒並み崩れそうです」

「とすると、西か。だが西は魔国に占領されたときに散ったから、あまり会えんのじゃが」

「西の五会頭たちは一致団結して魔国に当たっていますよ。商国ファンドがいまだ存続できるのも、いいタイミングで魔国を手中に収めたからです」

「ならば、生きのこりに力を注いで雌伏しふくか。また芽が出る時を待つか」
「ええ……」

 フストラとドナルマーがそんな話をしていたころ、竜国は更なる発表を行った。

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