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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 月魔獣の襲撃から一夜明けて、状況が色々判明した。

 今回は四カ所からの同時襲来ということで、ある程度の被害を想定していた。
 だが、技国側が万全の準備をしていたこともあって、被害が少なくすんだ。

 大破や稼働不能になった駆動歩兵はそれなりに出たものの、死者は思いの他少なかった。
 それもこれも、すべての駆動歩兵が前に出て戦い、『前線基地』へ月魔獣を寄せ付けなかったからだろう。

「シャラザードさんが活躍してくれたから助かりましたわ」
 シャラザードは月魔獣の後方から襲いかかり、無双していた。

 というか、好き勝手暴れていた。
 集団行動ができないので、それで良かったのだと思う。

「しかし、予想以上の月魔獣が来ましたね」

 倒した数は四十体近い。
 四つの組が誘導してきたことを考えると、平均十体を引き連れてきた計算になる。
 どこにそんな……とも思うが、大転移で多数の月魔獣が降下しているからだろう。

「鋼殻の状態だと、近くに固まっているようですわね」
 アンさんの言葉に僕も頷く。
 僕がまだ学院の一年生の時もそうだった。あの時は二体出現したっけ。

 普段シャラザードと移動するときは、動いている月魔獣しか相手にしないため、忘れていたが、降下が集中した場所などでは、多くの月魔獣が落下したままの状態で時を待っている。

「四十体が一度に襲ってきたら全滅しそうですね」

 非戦闘員を抱えながら戦うのは大変そうだ。
 竜操者もそうだが、そういった人を守りつつの大規模戦闘は、あまり想定していない。

「準備さえ出来ていれば、そういった戦い方もできますわ」
 集団戦の訓練を常に積んでいるらしい。やはり駆動歩兵と竜操者は運用が根本から違うのだなと考えさせられる。

 前回、駆動歩兵隊が壊滅した理由も、準備不足があげられる。
 どうしても乗り込んでから戦うため、急な襲撃には対処しづらい。

 逆に準備さえできていれば、攻撃主体の戦い方で殲滅力を上げることも、防御主体の戦い方で時間を稼ぐこともできるという。



 捕まえた商人たちは、王都の操竜会に運ぶことになった。
 今回の件、やっていることは戦争と同じなので、厳しい取り調べの上、報復作戦が敢行されることだろう。

「名残惜しいですけど、僕はもう行かねばなりません」
「そうですか。でも事が終われば、毎日会えるようになりますもの。いまは我慢です」
「はい、そうですね」

 朗らかに笑って送り出してくれるアンさんに感謝だ。
 ここで互いに名残惜しそうな素振りを見せたら、しばしの別れとはいえ、耐えがたいものになってしまう。

 またすぐ再会できるのだからと、スパッと離れた方がいい。

 僕のこれからのことだが、シャラザードに乗って天蓋山脈に向かう。
 ハリムが消えたのはそこ以外にあり得ないため、もう少し広範囲に探してみたい。

 女王陛下の指令は順調に消化している。
 ここへ来る前に、ハリム商会へ圧力をかけるよう、〈影〉の仲間には依頼してある。
 竜国の横のつながりは相当なものだ。必ず商会運営に影響を及ぼしているはずだ。

「よし、シャラザード。行くぞ」

 おそらく、次に帰って来るときは、ハリムを処理した後になるだろう。
 国境線を越え、天蓋山脈が見えて来たところで、僕は振り返った。

 商国をなんとかしない限り、安心して魔国首都へ大攻勢をかけられない。
 支配種を倒すのが僕らの最終目標だ。

 その前になんとしても、ハリムを探し出して処理する。

 僕は沈むゆく夕日に誓った。



 ……訳だけど、あれからすでに十日も経ってしまった。
 手がかりはなし。

「協力してくれる人たちも、何の情報もないっていうのもな。本当にどこにいるのだろう」
 よその国、よその場所で発見したらすぐに連絡が来ることになっている。

 それでも何の情報も引っかかってこない。
 ある意味、完璧すぎる隠れ方だ。

 そしてこの十日間で、いくつか大きな変化が起こった。

 まず、楽園についてだ。
 竜国は正式に、『楽園』ことカイルダ王国と国交樹立を宣言した。

 カイルダ王国は、竜国よりも古い時代に興った国の末裔であり、竜国の旧王都より発掘された史料をもとに長年探し続けてきた国であることも発表された。

 これには竜国民のみならず、技国を初めとした多くの国民の度肝を抜くものだった。

 カイルダ王国で使用されている言語は、竜国の旧王都で発掘されているものと同一であり、現在において意思疎通が可能な者は、それを専門に修めた者のみとなることなど、竜国が発表した内容は、驚愕に値するものばかりであった。

 そして竜国が意図的に隠した事実。
 商国が先に情報を入手し、『楽園』に赴かんとしていたことは、何一つ触れられていない。

 現在、カイルダ王国の王太子夫妻が竜国に滞在し、大陸の共通語を学びつつ、親睦を深めるために、各都市を巡っているといった情報も発表された。

 現在竜国では、カイルダ王国フィーバーが巻き起こっており、カイルダ王国製の品物が運び込まれると、瞬く間に売れていくという有様だという。

 国民はカイルダ王国がどこにあるのか知りたがった。

 竜国は、そのことを惜しみなく発表した。
 カイルダ王国に向かうには、天蓋山脈の上を越えて向かう方法しかなく、中型竜ですら、その高度まで達することができない遙か天の高みにあると。

 現在、この大陸でカイルダ王国へたどり着けるのは、四色の竜のみであり、それすらも往復でかなりの日数がかかることも同時に発表された。

 天蓋山脈の中にある幻の王国の話は大陸中を駆け巡り、とある場所で大きな反応を引き起こした。
 それは発表された以下の一文からである。


 かつてその昔。
 天蓋山脈の中に安住の地を見つけた旧王族とそれに付き従った民は、過去と決別するため、その経路を封鎖し、何人たりとも出入り出来ないようにした。
 ゆえにその地は、他国と一切接触することなく、これまでずっと平穏のまどろみの中で過ごしてきたのである。


 上はカイルダ王国に関する説明の一文である。
 それはちょうど、『楽園』に通じる洞窟がいつのまにか溶岩のような激しい熱量をもった何かに溶かされ、洞窟の先がすべて喪失していることに気付いた直後のことであった。

 つまり竜国は、地上からの道を塞いだ上で、それをなかったことにした。
 上空の属性竜しか通れない高さの通路を使うしか、『楽園』に入れなくしたのだと。

 すべては商国を出し抜くため。
 そして利益を独占するために、裏で動いたことを意味する。

 あれだけ金と労力をかけ、多大な時間を消費して探しだした唯一の抜け道が塞がれてしまったばかりか、特別な竜操者だけしか通れない天空の道を作り出した竜国。

 これらの損失は計り知れない。
 そして長年の計画がすべてパーになったことを意味していた。

 商国五会頭の憎悪は、留まるところを知らない。

 にもかかわらず、竜国は更なる発表を行った。

そろそろ本章もまとめに入ります。
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