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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 静けさの中に、男の息づかいと足音が聞こえる。
 後ろから巨大な影が迫っているが、男との距離が縮まることはない。

 男が一定の速さで走り続けることで、巨大な影との距離を調整しているかのようだ。
 いや、事実調整しているのであろう。
 男は時々振り返り、足を速めたり、落としたりしている。

 かなり遠くからやってきたらしく、男の額には玉のような汗が浮かんでいる。

 しばらくして、男の視界の先に、小さな灯りが見えた。
 まだ距離はあるが、この闇夜の中でその灯りはよく光って見えた。

 もう少しだ。もう少しであそこへたどり着く。
 男は、口の端に笑みを浮かべる。

 男の仲間が見つけたのは、降下したまま活動していない鋼殻だった。
 大地に転がっている鋼殻は、人が近づくと月魔獣となる。

 男はわざと近づき、月魔獣をここまで誘導してきた。
 あと少しで月魔獣が、目標をあの灯りに定める。

 月魔獣がしっかりと着いてきているのを確認したとき、男は転んだ。

「うがっ!?」

 闇夜とはいえ、これほど簡単にすっ転ぶほど、男は粗忽者ではない。
「痛ゥ」

 理由は分からないが、足の甲に何かが当たったようだ。
 この激痛は、骨まで折れたのかもしれない。

 男は立ち上がるも、激痛に顔をしかめた。
 大地が小さく揺れ、月魔獣が近づいてくるのが見えた。
「こうしてはいられない。逃げねば……」

 男は痛めた足を引きずって走り出す。
 十歩走ってヤバいと感じた。痛みは思った以上に酷かった。
 甲の骨が何本か折れているの確実だ。

 さらに十歩走ったとき、思ったほど速度が出ていないことに気付いた。
 無意識のうちに足を庇っているようだ。このままでは追いつかれる。

「あと少し……」

 灯りはまだ遠い。あれは人が集まる場所のあかりだ。
 あと二キロもしくは一キロメートル先だったら、月魔獣の注意を引けただろう。

 だがこのままでは、自分が犠牲になっただけで終わってしまう。

「くそぉ!」
 男は叫んだ。

          ○

 月魔獣を誘導してきたのは四人の呪国人だった。
 目的地はいずれも『前線基地』だ。

「月のない闇夜を利用するかと思ったけど、当たったな」

 天頂に月がなければ、月魔獣の降下はおこらない。
 そんな日の夜は、警戒も薄れる。

 鋼殻状態で地上に留まっている月魔獣ならば、探せばそれなりに見つかる。
 敵はおそらくそれを利用するのではないかと思ったが、その通りになった。

 僕はシャラザードの背に乗り、移動する者を見つけては、機動力を奪っていった。
 みな呪国人というのには驚いたが、こういった特殊な作戦に使われるのは、後腐れのない呪国人が適任なのだろう。

 闇の中に潜って近づき、礫を投擲することで四人全員を対処できた。
 あとは月魔獣だ。

『前線基地』に知らせを送ると、すぐに応えがあった。
 これで駆動歩兵隊が出発する。

「よしシャラザード。僕らも行くぞ」
『心得た!』

 僕らも後方から月魔獣を狩るのだ。
 今は四方向から月魔獣が迫っているため、何もしないと、駆動歩兵の被害が拡大してしまう。

 シャラザードは嬉々として、月魔獣に襲いかかった。
「これじゃ、どっちが悪者か分からないな」

 咆哮をあげながら、次々と月魔獣を破壊していくシャラザードは、闇夜の中の悪鬼そもものである。

 駆動歩兵がよく敵と間違えて攻撃しないものだと感心する。

 しばらくして、月魔獣は壊滅した。半分はシャラザードが倒したのではなかろうか。
 シャラザードが出張ったおかげで、被害はかなり少なくなった。

『前線基地』に戻るとアンさんが出迎えてくれて、再会を喜び合う。

「それで、月魔獣を誘導してきた者は捕まえました?」
「もちろんですわ」

 これはアンさんたち技国の人が捕まえることに意味がある。

 僕が足先を砕いておいたので、簡単に駆動歩兵が捕まえたようだ。
 現在黙秘を続けているが、状況は明白。

 ちなみに僕が処理しなかったのは、ちゃんと証人として話せる状態で確保したかったからだ。
 そして……。

「レオンくん。竜操者の方が戻られたようですわ」
 呪国人とともに行動していた商人たちを捕まえたのだろう。

 こちらも足を奪ったあとは、他の竜操者に任せることにした。
 歩いて脱出しようとしても、周辺の巡回に慣れた竜操者からは逃げおおせることは不可能だ。

 見事、全員捕縛に成功していた。
「これから尋問ですね」

「はい。真相究明のためにも尋問しなければなりませんが、それよりも襲撃を未然に防げて良かったです」

「そうですね。これで彼らの証言が得られれば、商国は窮地に立たされることになりますし、同じ手は使えなくなりましたので、駆動歩兵隊を襲うのは難しくなったことでしょう」

 たったこれだけで多くの危機が救われた。
 アンさんの命もそうだ。
 それに技国と竜国の同盟にヒビが入らなくて、本当に良かった。

 状況を知らせるため、竜操者が一騎、王都に向けて出発した。
 あとは操竜会や竜国の政治家たちがなんとかしてくれることだろう。

 女王陛下ならば、技国に最大限配慮しつつ、商国の利益をぶんどったり、様々な制限をかけたりするに違いない。

 黒幕までたどり着けるか分からないが、商人たちが素直に喋ってくれるのではないかと思っている。

 なにはともあれ、問題がひとつ片付いたのを素直に喜びたい。
 何しろ、ここのところ色々あり過ぎたのだ。

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