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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 駆動歩兵隊が一カ所に集まり、連日荒れ地で訓練をしている。
 軽く見る程度だが、キビキビとした動きがよくわかる。

 集団戦闘に特化しているというのは本当のことなのだろう。
 対人のみならず、対月魔獣戦でも成果を出しているとも聞いている。

 あれで運用の短さが解消されたら、大陸は技国が占領できるかもしれないな。
 そう思うが、整備の大変さと運用時間の短さは、あと百年経っても克服できないというのが、竜国の見解だ。

 二百年後は分からないが、そのときにはもう、別の技術で、まったく新しいものが登場しているのではなかろうか。

 運用時間が短いため、訓練は午前中に行っている。
 限界まで使用すると、月魔獣が出たときに困るからだ。

 午後は整備と兵たちだけの訓練。
 こちらも少し覗いたが、なかなかハードなことをやっていた。

 さて僕の仕事だが、ここ数日は付近の林を見回り、怪しい人物を探していた。
 すべての林を見て回り、順調に敵の姿を発見している。

 アンさんの話から予想はできていたので驚きはないが、まさかこれだけ多くの連中が入る込んでいるとは思わなかった。

「四つの林に分散して、合計で二十人か。本当に大所帯だな」

 駆動歩兵隊の邪魔をしていたのは、四つの隊商だった。
 かならず呪国人がひとりだけ交じり、その者が最後の仕上げをする事になっていた。

 流れはこうだ。
 商人に扮した――といっても彼らは本当の商人らしいが、彼らが陰月の路を移動し、月魔獣を見つける。

 実際、何度か巡回中の竜操者とも出会っているらしいが、全員が真っ当の商人であったために、不信感をもたれることはなかったらしい。

 その商人たちが月魔獣を見つけると、呪国人の出番である。

 タイミングを見計らって、みなが寝静まったときだ。一番防衛が疎かになる時間帯に、月魔獣をけしかけていた。

 襲撃があった頃にはもう、くだんの商人たちは遠く離れているので、関連性を疑われることはない。
 組んで活動していたことさえバレなければいいので、商人もやりやすかっただろう。

「しかもちゃんと村々を回って商売しているんだから、疑えという方が無理だよな」

 村にやってくる商人たちは歓迎される。
 とくに陰月の路に近いあたりは尚更である。

 アンさんの発案で、駆動歩兵隊が一カ所に集まった。
 彼らもなし崩し的にこの地へ誘導されることになった。

 ひとつの集団として活動するのは憚れたのか、いまは互いに離れて知らんぷりをしている。

「裏で連絡を取り合っているみたいだけど」

 数日間の潜入で、ここまで分かった。
 これはかなりの成果だと思う。

 何人か捕まえて、あとは処理すればことは収まるが、それだけだとよろしくない。
 次の邪魔者が現れるかもしれないからだ。

 そこでわざと計画を実行させてから潰すことにする。
 アンさんにはすでにそのことを伝えてある。

「中は慌ただしく動き出しているし、そろそろだろうな」
 今回は、一度の襲撃で大量の被害を出すことも可能だ。

 敵のやる気が違う。なにしろ、四組がそれぞれバラバラに月魔獣を見つけてきたのだ。
 四方向から同時に襲撃させる。さぞかし今頃は、高笑いしている頃だろう。

 だから僕は闇に溶ける。



 ――ガタッ

「……ん? いまの車輪か?」
「おい、急いでここを離れなくっちゃならないんだぞ」

 その夜、逃亡するために商人たちは林を出た。
 これより後、夜が明ける直前の闇が深い頃に、月魔獣の襲撃があるはずだ。

 その頃には商人たちはみな、次の村の近くにいる。
 朝日とともに村に入り、その村で商売をして出て行く。

 あとは月魔獣をおびき寄せた呪国人を回収すればおしまいだ。

 だが、林を出てすぐにトラブルだ。

「どうだ?」
「暗くてよく見えないが、車軸だな。外れたらしい?」
「外れた? どういうことだ」

「固定していた留め金が無くなっている。移動中に落としていたようだな。しばらく留め金なしでいたらしい」

「それでここへ来て故障か。治すのにどのくらいかかりそうだ?」

「金具がないと厳しいな。完全に固定しないと段差を越えるたびに車軸が外れそうだ」
「それは難儀な……」

 顔は見えないが、商人たちは困り果てていることだろう。
 もちろん僕が事前に細工しておいたのだ。

 目的は彼らの足止め。
 呪国人が林を出ていったので、そろそろ動きがあるだろうと思っていたら、その通りになった。

 逃がさないためにも、彼らの足は潰しておきたかった。

「どうするよ。荷馬車を残して去るとヤバいよな」
「あとで取りにくるのはちょっとな。今回は大きな被害が出るはずだから、しばらくは寄りつかない方がいい」

「馬車を押して行けるか?」
「何倍も時間がかかるぞ。それほど遠くまで行かないうちに襲撃が始まっちまう」

「しょうがねえ、馬に詰めるだけ荷物を積んで、おれたちは歩くか」
「分かった荷物を選別しよう……うわっ!?」

「どうした?」
「馬が泡を吹きやがった」

「毒草を喰ったか? 林にいくつか生えていたが」
「かもしれねえ。しくじった」

「半日も休ませれば回復するだろうが、今すぐは無理だぞ」
「くっそ、どうすれば」

 そんな声を聞きながら、僕は別の隊商の元へ向かった。同じ事をして、見届けるためだ。

 ちなみに林に多く自生していた毒草の存在は、僕も気になった。
 せっかくなので、馬の足止め用に、少し食べさせておいた。

 こうして四つの隊商すべての動きを封じた僕は、『前線基地』に向けて光の合図を送った。

 今頃は、アンさんが集まった駆動歩兵隊員すべてに、真実を話している頃だろう。

 自分たちが狙われた。
 その事実は、彼らを怒らせるに足る出来事だと思う。彼らは復讐者となったのだ。

 ゆえに、商国の企みに気付かない振りを続けている。
『前線基地』はいまだ、静まり返っている。



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