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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 魔国が商国の軍門にくだったという噂が、ソールの町に流れていた。
 ただし、あまり要領を得ないものが多く、伝聞の伝聞のさらに伝聞といった有り様だった。

 ここは魔国に近い。
 しかも魔国は、最近首都を南に移転させている。

 どこよりも早く魔国の噂が入ってくることもある。
 だから、噂に信憑性はあるのだが、いかんせん情報が錯綜している。

「しかも、よりにもよって商国か」

 国としての武力を持たない商国は、呪国人をはじめとした傭兵で戦力を揃えている。
 平時は商人の護衛という仕事もあるため、それなりの数がいることは分かっている。

 それでも何の予兆もなく、魔国が軍門にくだろうだろうか。

「竜国との和平交渉はどうなったんだ?」

 あれだって話は進んでいたはずだ。
 いろいろ気になって、ここを飛び立つ気になれない。

 僕は父さんに噂の真偽を確認するため、実家に顔を出した。

「あら、珍しい」
 リンダがいた。

「なんでリンダがここに?」
 家で呑気にお茶を飲んでいる。

「商人仲間から聞き捨てならない話を聞いてね。ここまでやってきたの」
「それって、商国と魔国の話?」

「そんな感じね。もうこの町でも噂になったみたいね」

 リンダの場合、商人のネットワークによって、数日早く知ったらしい。
 それで慌てて魔国に一番近い大都市ということで、この町に来たのだそうな。

「僕もいま知ったばかりなんだけど。何が何だか。リンダはどこまで知っているの?」
「いまどうなっているかは知らないわよ。それでも、商国が前々から狙っていたのかなというあたりは話せるかな」

 そこで「ふふん」っと鼻を鳴らすあたり、リンダらしい。
 どうやら商人たちの方が、詳しい情報を知っているようだ。

「じゃあ、分かる範囲で教えてくれる?」
 事件のあらましをリンダから聞くことにした。

「そうね。最初はとても静かなものだったのよ」

 魔国が戦時活動をするときに、商人たちが物資を都合する。
 もちろんそれはあとで精算される。

 これから戦争に出るときに、物資が運び込まれるたびにいちいち現金取引など、していられない。
 額が大きくなると金銭の受け渡しは煩雑になるものだ。

 ゆえに先に物資を融通し、兵が出発したあとでゆっくりと精算をする関係が続いていた。

「月魔獣で被害を受けたときもそうね。魔国や商国の商人だって、先に支援物資を都合するのよ」

「それは分かる。何が一番大事かといえば、必要な物資を必要なときに用意できるかだしね」

「でもそのうち、精算はあとでまとめてとか、年末に一度にという形になったのね。つまりツケ払い。信用取引なわけ」
 そうなる流れは自然であり、なんらおかしいことはないとリンダは言った。

「でも今回……何かあったんでしょ?」

「ええ、魔国の首都が崩壊したことが原因ね。いつから……とは分からないけど、首都が壊滅したことで、商国が魔国制圧に狙いを定めたと思うの」

 いままで溜まっていたツケもある。
 それだけでなく、魔国は最近いろいろと派手に動いていた。物入りである。

 そのすべてを信用取引していた場合、年末に支払う金額はかなりのものとなったであろうことは、想像に難くない。

 リンダが言うには、一括では難しいので分割だろうと。

「そっか、それが首都壊滅で、支払いができなくなったか」

 首都には物も金も集まっている。
 現在、魔国が首都にしている場所は、もともと小さな町――地方都市であった。

 しかも反国王派が島流しされた場所と言われるほど、辺鄙な場所でもあった。
 そのせいで大転移による被害は少なかったが、経済活動の面でいえば、三流……いや、四流と言って差し支えない。

 そして商人たちはこれまでの信用の証書を持っている。
 もちろん先代の魔国王時代からのものである。

 首都が健在であれば、可能な分を支払ったあと、残りは分割という手段も採れる。
 だが首都はすでになく、いまだ大転移の真っ最中である。

 魔国は逆さに振っても金はない。
 それどころか、市中に出回る金銭は減少しているはずである。

「商人たちは、期限の切れた分の支払いを求めてきたのね。それを魔国は拒否したの」
「まあ、当然だよね。支払えないんだし」

 債権を持っているのは魔国をはじめ、商国や竜国の商人たちである。
 彼らのうち、たとえば魔国の商人だけに支払いをすれば、受け取った者が武力によって襲われる可能性がある。

 債権者を平等に扱わないかぎり、その怨嗟は貸し手と借り手の両方に向けられる。
 そして一番手が出しやすいのは金を受け取った商人である。

 そのことを魔国の商人も分かっているから、自分たちだけ返してもらうという案を言い出せないでいる。

「次に出たのは債務不履行宣言ね。ただしこれをすると魔国の信用は地に落ちるわ」

 もし実現した場合、魔国は一切の借金を返さないことになる。
 どれだけ商会が潰れても、魔国だけは生き残る。

 ただし、それ以降、魔国が望む商品はなにひとつ入ってこないし、信用取引もできなくなる。
 なにしろ、国の方から信用をゼロにしてしまったのだ。

「これまでの借金はチャラにするね。だからもう一度お金を貸して」

 そう言ったところで、誰も進んで関わろうとしない。
 事実、魔国はそのような話を商会のトップたちに打診したところ、猛反発をくらっている。

 そこで敢えて実行する気概があるかといえば、いまの魔国王は、それほどの覇気は無い。
 他国との融和政策を第一に考える性格である。
 そのような急進的な路線へは変更できないらしい。

「ちょっと待って。……ということは、いま魔国は金銭的に破産している感じなの?」

「まったくもってその通りね。これをわたしの商会――ルッケナ商会にたとえれば、事業を拡大するのに莫大な借金をしたあとで、首都のお店のみならず、売り上げ上位五店舗が忽然と消えた状態が近いかしら」

 残りの店舗でいくら売り上げを伸ばそうにも、もとからある借金が足をひっぱり、さらに優良店舗が消えてしまったために、返済のアテもない。売り上げは以前の半分以下になって、利益に至ってはマイナスかもしれないという状況。

「それはまた……」
 それではもう、魔国は終わっているという状況だ。

「商国はそこをうまく付いてきたのね」

 ここからようやく商国の話になるようだ。

「魔国の主権を譲り渡してもらえば、借金を一本化させて、長期返済プランを認めると言い出したみたい」

 主権を譲り渡す――経済に詳しくない僕にために、リンダは分かりやすく説明してくれた。

 いま、いろんな商人が魔国そのものにお金を貸している。
 そして返ってくるアテがなくて商人たちは困っている。

 商国は、そういった商人にお金を渡し、魔国が信用取引した証書を買い上げると言っているのだ。

 これで魔国がしている借金は商国だけになる。
 そのかわり、商国は魔国が「ちゃんと借金を返せるような経済活動をするか」「借金を返すための政治的行動がとれるか」を見極めなければならない。

 ゆえに商国が派遣した者たちが意志決定機関として、魔国の政治や経済に関われるようにする。

 それを認めれば、当面の危機は回避できる。その話に乗るかと囁いたらしい。

「魔国は乗ったの?」

「結果的には、乗ったんでしょうね。どのくらいの人員が魔国に派遣されたのかとか、これから先、魔国はどんな舵取りをするのかは、まったく分かってないけど」

 リンダが言うには、今後竜国議会のようなものが魔国で開かれるらしい。
 国王は承認権を持っているが、基本政策の発案、実行などは新しく作る議会が握る。

 そして現在分かっている話では、その議会の半数以上の者は商国から派遣された者が占めるということだった。

「そりゃたしかに、商国の軍門にくだったと言うわけだ」
 最後の拒否権だけは持っているが、それ以外はすべて商国に握られてしまったと言っていい。


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