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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 アンさんは、陰月の路を渡った竜国北部にある宿泊施設所属になっている。
 そこを長期の休憩もしくは、怪我人の収容場所として使っているらしい。

 通常は月魔獣がいそうな場所に『前線基地』を作り、そこを起点として周辺の月魔獣を殲滅。
 終わったら移動して新たに『前線基地』を作っていくらしい。

 ちなみにこの『前線基地』は、技国発祥である。
 もともとは移動できる駆動歩兵の設置場所として考え出されたもので、そこで休憩や修理などができるよう設備が整えられたようだ。

 これは稼働時間が短い駆動歩兵をうまく運用するために編み出されており、竜の運用にも使えるのではと、竜国が正式に導入を決めたものだったりする。

 技国も、月魔獣の生態は文字の上でしか知らず、実際に駆動歩兵の運用ができるのか未検証であった。
 そんな理由から、『前線基地』が有効性を確認する上でも、積極的に協力を申し出てきた。両国の思惑が合わさって、この『前線基地』が使われているのである。

『前線基地』はかなり強固であるものの、移動可能な部材で作られている。
 ゆえに現在、どこにあるのかは、宿泊施設で聞かないと分からなかったりする。

 シャラザードに乗って宿泊施設へ赴き、そこで第一駆動歩兵隊の居場所を聞き出した。

 一般にはこれらの情報は機密扱いだが、同じ竜操者どうしであれば問題ない。
 個々の用事を告げるわけにもいかず、さりとて操竜会に許可を求めに往復するのもおかしな話だからだ。

「……あそこがそうか」

 宿泊施設を飛び立って西へ二十キロメートル以上進んだ。
 視線の先に、砦らしきものが見えてきた。

 擁壁の立派さでいえば、宿泊施設を凌ぐのではと思わせる。『前線基地』というわけである。
 擁壁はいくつもの柱が合わさって出来ており、その柱ですら上中下に分解可能だったりする。

 バラして馬車で運ぶが、竜国には竜がいる。
 地竜が引っ張れば、何台もの馬車が必要な荷物も、たった一体で済んでしまう。

『前線基地』に降り立ち、駆動歩兵隊を探す。
 ここには一般の兵と民間人、そして駆動歩兵に竜操者が一緒くたに暮らしている。

「アンさん」
 人をかき分けて、アンさんがやってきた。シャラザードを見つけて、僕がきたと分かったのだろう。

「お久しぶりです、レオンくん。どうされました?」
 多少痩せただろうか。それでもアンさんが朗らかに笑う。

「任務の途中ではあるのですが、アンさんの顔が見たくなって、やってきてしまいました」
「……まあ」
 そっと頬を赤らめるアンさんに、周囲の人たちがギョッとした目を向けている。

「つもる話もしたいのですが、大事な内容を今から伝えねばなりません」
「!? そうなんですか? ではこちらへ。作戦会議室でしたら、他に聞かれることもありませんので」

 連れられて向かったのは、離れた小屋。
 周囲を兵が守っている。ちょっとものものしい建物だ。

 衛兵に会釈したアンさんが中に入ったので、僕も倣う。

「……ではレオンくん。何か変わったことがあったのですか?」
「ええ。あとで話が来るとは思いますが」

 そう前置きして僕は、これまでの経緯を語った。
 ハリムの事はここでは言わない。

 任務の途中でソールの町へ寄ったとき、月魔獣の襲撃を受けて壊滅した部隊が出たこと。

 その部隊名が分からず、アンさんではないのかと慌てて向かったことと、その場所でも襲撃を受けて、シャラザードが出張ったことなどを話した。

「そしてここからは確証がない話ですけど」
「はい。言ってください」

「月魔獣の襲撃のとき、宿泊施設の外にいた人間が逃げています。シャラザードも重要視していませんでしたし、たまたま近くに逃げてきた商人が月魔獣に驚いた可能性もあります」
「はい」

「ですが僕は、その逃げた人間が月魔獣をおびき寄せた可能性も考えているのです」

 話し終えるまで、アンさんは真面目な顔でじっと聞いていた。
 そしておもむろに話し出す。

「駆動歩兵隊が壊滅した話はわたくしも聞きました。つい昨日のことですけど」
「そうだったんですか」

「ですがその前から襲撃の噂はありました。レオンくんは月魔獣の異常行動と言っていますけれども、わたくしたち技国の人間は月魔獣にそれほど詳しくありません」
「そうですね」

「ですから、月魔獣の行動に注意するのは当然として、何かあっても取り立てて騒ぎ立てることはしていませんでした」
「そうだったのですか」

 アンさんが言うには、襲撃っぽい話は他の部隊でも聞いたことがあるらしい。
 今回、部隊が壊滅したことで話が広がったが、そうでなければ、何が正常で何が異常か判断できない。アンさんたちでは、対処しようがないようだ。

 ただ、アンさんの口から他にもあったと聞いて、僕は驚いた。
 これはやっぱり、誰かが狙って起こしているのでは?

 僕がそう言う前に、アンさんの口から思ってもみない一言が飛び出した。

「わたくしがこの任務を受ける際、おじいさまから言われた話があります」
 アンさんのお爺さんというと、兎の氏族のディオン氏族長だ。

「それはなんと?」
「竜国と技国が手を組んだとき、商国はその分断を狙ってくると。だから、両国の距離を離そうとする罠に注意しなさいと教えられました」

「商国が分断を狙ってくる……」

 たしかにあり得そうな話だった。
 ただでさえ竜国も技国も一筋縄ではいかないのだ。

 二国同時に相手をするよりも、二国を分断して一国ずつ相手をした方がよっぽどやりやすい。

 そしてもし狙ってくるのならば、他国に赴いている重要人物か。
 だからディオン氏族長はアンさんに忠告したのだな。

「ですから今のレオンくんの話を聞いて、わたくしは商国の陰謀を疑いました。もし離間工作を仕掛けてくるならば、直接狙うよりも、月魔獣を使った方がバレにくいですので」

 さすがは技国の氏族直系だけのことはある。
 言われてみれば、商国の関与の可能性はかなり高い。

 理由は竜国と技国の仲を引き裂くこと。

「もしそうだった場合、アンさんはどうしたらいいと思います?」

「……そうですわね。わたくしでしたら」

 そう続けるアンさんの顔を見て、少し逞しくなったなと僕は感じた。


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