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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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「襲撃だぁーっ!」
「月魔獣が出たぞぉ!」

 叫び声を聞いて、一瞬まさかと思った。
 ここは数ある宿泊施設の中でも、かなり陰月の路から離れている。

 だけど、やっぱりとも思った。
 月魔獣の異常行動は続いているのだ。

「シャラザード!」
 いまは皆、夕食を食べ終えてくつろいでいるか、竜の世話をしている時間帯。
『前線基地』が壊滅した真夜中の襲撃じゃない。迎撃は間に合うはずだ。

「シャラザード! どこだ?」
 右往左往する人々を押しのけて竜舎に向かったが、シャラザードの姿はない。

「もしかしてシャラザードも異常行動?」
 肝が冷えた。月魔獣だけでなく、竜までもおかしくなったのか!?

 ――しゃごぉおおおおん

 宿泊施設の外でシャラザードの叫びが聞こえた。
 続いて何かが破壊される鈍い音も。

「……うん、いつも通りだった」

 シャラザードは襲撃の声を聞いて、まっさきに飛び立ったのだろう。
 だれにも先を越されないために……。

 竜舎で待っていると、案の定、上機嫌のシャラザードが戻ってきた。
「満足したか?」
『まあ、大したことなかったな。数だけであったわ』

 月魔獣が十体やってきていたらしい。
 シャラザードにとっては、腹ごなしにもならない程度だったと。

 それでもシャラザードが出て行ったときには、意外と近くまでやってきていて、擁壁に取り付かれていたら危なかった。

「しかし、なんで月魔獣がやってきたんだろう」
 それが不思議だ。
 大転移で月魔獣が増えたからかと思ったが、そうではないという。

 この行動の変化は、本腰を入れて調査したほうがよいのではなかろうか。

『そういえば、逃げていく者が外におったな』
「……ん? ちょっと待って」

『なんだ?』
「逃げていくって……いま言った?」

『うむ。つい先ほどだな。我が月魔獣を探して下を見ておったのよ。それで見つけたぞ』
「それって本当に人だった?」

『人であったな。あれは主と同様、闇に隠れるのが上手いな』
「なんだって……?」

 整理してみよう。
 月魔獣の異常行動がつい先ほど起こった。

 シャラザードが逃げていく者を見かけた。
 その者は、僕同様に闇に隠れるのが上手い。

「それって、月魔獣を引き連れてきたんじゃ?」
 月魔獣は人を見つけると追ってくる。

 それはもうどこまでも追ってくる。
 速度は人の全速力と同じか、やや遅いくらい。ただし、スタミナは万全。

 走って逃げ切るのはかなり難しい。
 馬に乗って見えなくなるまで離れれば別だが、それ以外だと逃げ切るのはかなり厳しいといえる。

 つまり、一定の距離を保ちつつ月魔獣から逃げ切ることができれば、好きな地点に月魔獣を誘導することは可能である。

 ただし、それにはかなり厳しい条件が付く。
 そうそう思い通りの場所に月魔獣が出現しないし、誘導するといっても命がけである。逃げた先にいる場合だってあるのだ。

 ハッキリ言って、思いついても「だれがやるか!」というレベルだ。
 だけど、実際にやる者はいるかもしれない。

 とくに大転移で月魔獣の出現が増えた今ならば。

 僕はすぐに熟練の竜操者の所へ行って、話を聞いた。

「巡回中に不審な人影を見つけることはありますか?」
「不審な人影? ……いや、ないな。人がいれば分かるが、そういった報告は上がってきていない」

「だったら、陰月の路付近で巡回から隠れる方法はありますか?」
「障害物があれば可能だが、飛竜からだとどうかな。見つからないようにずっと隠れているならば可能かもしれない」

「巡回から見つからないという条件で、月魔獣を見つけるために徘徊できると思いますか?」

「可能性としてはできると言えるが、できても一度や二度だな。徘徊しているのならば、やはりどこかで巡回の目に留まるよ」

「たとえばですが、月魔獣を見つけてここまで引っ張ってくることは可能ですか?」
「馬に乗った場合ならできるかもしれん。それでも距離によるな」

「徒歩では?」
「かなり厳しいと言わざるを得ない。月魔獣の足は速い。たった数キロメートルでも、走って逃げるのがやっとではなかろうか」

「そうですか。ありがとうございます」
「どうしたのだ、突然」

「シャラザードが先ほど逃げる人影を見たと言っているので、そういう可能性がどのくらいあるのか知りたかったのです」
「逃げる人影か……それはまた判断の難しい所だな」

 月魔獣が出た時間は夕食が終わった頃。
 外はかなり暗くなっていた。

 シャラザードが野生の動物を見間違えた可能性もあるし、どこかの商人が近くにいて、慌てて去っていた可能性だってある。

 人影を見たからと言って、それが月魔獣を引っ張ってきたと談ずるには、情報が少なすぎる。

「この人影を見たという報告を操竜会の上層部にあげてもらえますか?」
「分かった。貴重な情報だ。すぐに報告しておこう」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 その後、もう一度シャラザードに確認したが、やはり人影は見たと言う。
 僕はシャラザードの目がいいのはよく分かっている。

 やはりこの宿泊施設の近くに誰かがいて、逃げていったのだと思う。
 ではシャラザードが見たのは、一体誰なのか。

 それは今の段階ではまったく分からない。
 だからこそ、僕はアンさんの所へ行くべきだと思った。

 これが人為的なものならば、月魔獣の異常行動はまだまだ続く。
 警戒を促すためにもすぐに会うべきだと思う。

 今回は、宿泊施設に被害は出なかった。
 その分、夜間の警戒は人員を倍にして行うことになった。

 僕は何も言われなかったので、あてがわれた部屋で睡眠をとった。

 翌朝早く、アンさんがいるという、第一駆動歩兵隊の集結場所に向けて、シャラザードと飛び立った。

「シャラザード、もし途中で昨日の人影を見つけたら僕に教えてくれ」
『心得た』

 僕がいまにできるのは、これしかない。


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