挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

561/655

560

 さて捕まえたこの商人。名前はどうでもいい。
 何の情報を持っているかだけど。

「父さん、どのくらい聞き出したの?」
「まだ大したことは聞けてないな」

 ハリム商会の人員なのだから、いろいろ知っていることは多いと思う。
 王都に持ち帰れば専門の人がいるのだけど、なあるべくここで知っておきたい。

「商人は他にいなかったの?」
「こいつだけだな。護衛に呪国人が一人ついていた」

 呪国人は三人いたようだから、そのうちの一人がそうなのだろう。

「時間もないことだし、僕がいくつか質問していい?」
「いいぞ」

「じゃ、聞くけど。ハリムの目的はなに?」

 僕はこれが知りたかった。
 いろいろ考えたけど、分からなかったのだ。

「そんなこと、わたしには皆目……」
 まあ、そう言うだろうと思った。
 さてどうしようか。

「父さん、何か聞きたいことある?」

「そうだな……ここにあった資料にざっと目を通したが、流通の量が合ってない。それはどうしてだ?」
 父さんは長いこと〈影〉をやっていて、屋敷に忍び込む経験は僕よりずっとある。

 大事な資料は目を通した後、元に戻すことになっている。
 ゆえに短い時間で中身を読み込む能力が必要になってくる。

 気付かれないように戻しておかないと、あとで踏み込んだときに証拠とならないからだ。
 そういう経験があるため、こんな短時間でも父さんは、資料の中の違和感を見つけ出してしまった。

「わたしには何がなんだか……」
 空とぼけようとする商人だけど、果たして父さんにそれが通用するのか。

「ここで受け取った商品のうち、だいたい三割は別の所に持って行っているな。これはなんのためだ?」
「さあ……」

「七割は販売に使う予定だな。末端の商人に受け渡して、各地でバラまくつもりだろう。ということは残りの三割の行き場所が気になる」
「…………」

 商人は完全に黙ってしまった。
 どうやらその三割の持って行き場は触れられたくない部分のようだ。
 つまり、この商人は何か知っている。

「戻り先の品物からすると場所は魔国か。それも天蓋山脈に近い辺りの……いや、天蓋山脈の中か」

 商人は帳簿を持っていた。
 儲けを出すためにも、品物を置いたあと、空荷で帰るわけにはいかない。
 もしくは、空荷で移動する商人は不審と思われるからだろうか。

 禁制品の三割を降ろして、その代わりに買い付けたものは、魔国にある天蓋山脈の麓で採れるものがほとんどだった。
 つまり、商人が何も喋らなくても、天蓋山脈方面に出向いているのが丸わかりとなったのだ。

「天蓋山脈といえば、いま商国は『楽園』探しの真っ最中だよね。領土宣言をしたのもそうだけど、必死に隠しながら奥へと進んでいるし」

 商人の顔色が悪い。
 脂汗がダラダラと流れ出している。

「あそこにこんなものを流したら、一発で足が着く」
 それはそうだ。

 天蓋山脈は出入りする者が極端に少ないわけで、たとえ敵方に流したとしてもすぐにバレる。
 見知らぬ商人なんかは絶対にやってこない場所だ。

「ということは、商国の人たちが使うの?」
 ちょっとそれは考えつかない。
 これは中毒性があり、使えば使うほど廃人になっていく。

 数回や十数回で廃人になるわけではないが、一年間使い続ければ、立派な中毒患者の出来上がりだ。
 もうそれを断てることはできない。

 全財産をなげうってでも、手に入れようとするだろう。
 親や子を質に入れても……を地で行く光景が見えると思う。
 それを自分たちの仲間に使うだろうか。

「ひょっとして、その『楽園』にバラまくつもりじゃないか?」
「……………………あっ」

 商国はまだ楽園にたどり着けていない。
 ただし、もと五会頭のひとり『魔探またん』のデュラル・ディーバがたどり着いている。

 ディーバが残した資料とスケッチ。それには美しい風景と人の営みが描かれていた。
 それは魔国を通して、竜国にも情報がもたらされている。

「もし、楽園に人がいると考えて、その人たちを邪魔に思うならば?」
「早々に廃人にした方が好き勝手できると考えただろうな」

「ということは、この三割の行き先は?」
「いまも楽園に向かっている連中がいるんだろ? そいつらに渡す荷物じゃないか?」

 商国がなぜ楽園探しで魔国を切ったのか。
 武力が必要になる場合を想定していないから?

 そんなことはない。敵対される場合を考えないはずがない。
 それなのになぜ、商国は魔国を切り捨てたのか。

 友好的に近づき、人を廃人にする禁制品をプレゼントすればどうだろうか。
「気持ちよくなれる」「楽しい気分になれる」「高貴な者のみが使用を許される」言い方は様々だ。

 最初は軽い気持ちで手を出すだろう。
 やがて、自制が利かなくなる。
 最後は廃人になる。

「……でも、楽園を竜国や技国に公開したとき、住民がみんな廃人じゃ問題になるんじゃない?」
 何をやったんだと問い詰められかねない。

「適度なところで留めて、自分たちのいうことを聞かせられるギリギリで止めておくつもりだったのかもな」

「そんなことできるの?」
 難しすぎる。そもそも分量だって分からないだろうに……ん?

「だから実験か」
「そうだね」

 いま技国と魔国の一部で広めている禁制品。
 楽園に使うのだったら、一切表に出さない方がよい。
 それでも技国や魔国の村に使ったのには、理由があった。それは……。

 ――人体実験

 人はどのくらいで理性を失い、どこまでが制御できる限界なのか。
 それを見極めるためだけに、村々は狙われたのだ。

 そこまで言ったとき、商人は口をぱくぱく開けて、喘いでいた。
 どうやら、予想が当たったらしい。


本日 (8月15日)でちょうど、連載開始1周年になります。
1周年……もぎ的には1執念です。

一年前に連載を開始しただけでなく、「毎日投稿」を維持しての一年間でした。
365日、1日も休まず投稿し続けました。

一年間を振り返ると、忙しい時もありました。
それでも投稿を途切れさせなかったのは、皆さんの支援があってこそです。
ありがとうございます。楽しく連載させていただきました。

「適当に書いて場をごまかそう」とやってしまえば意味はありません。
「やっつけの連載でいいや」では人は離れていきます。

投稿するときに気をつけていたのは2つ。

1.その1話の中でちゃんと話が進み、続きが読みたくなるような終わり方をすること
2.物語の流れにちゃんと沿っていき、話が思い浮かばないからといって、逃げない

上のふたつは毎日守って連載してきたと思います。
もちろん受け取る側の判断もあるかと思いますが、私自身はしっかりとプロットを組んで、それをなぞりながら、少しでも面白くなるよう、がんばってきました。

それに加えるとすれば

3.一定以上のクオリティを維持する

でしょうか。
本作品のスタンスは「毎日楽しみにしてくれる人に贈る物語」です。
それが一年間達成できたのを純粋に喜んでいます。

書籍版も発売中です。こちらも全力を投入してあります。

「ヒャッハー」の方もぜひご一読くださいませ。こちらも毎日連載です。

ひきつづき、応援よろしくお願いします。


ではまた明日!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ