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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 僕は魔道『闇纏やみまとい』で地上に降り立ったが、父さんは『無色の盾』で空中に停止していた。

「なるほど……工場はあれか。それなりに大きいな」
 どうやら降下中に見つけていたらしい。

「資料によると、工場と倉庫が一緒になっていて、二階建ての宿舎がその隣にあるって」
「ならば間違いないな。いくぞ」

「ちょっ!」
 もう見えなくなった。

 慌てて追いかけるが、父さんは工場敷地内に入ってしまった。

「もうちょっと一般人のことを考えて欲しいよ」
 これだから優秀過ぎる人は困るのだ。

 僕も闇に溶けたまま門を越える。
 見たところ、工場は壁で囲われている。

 大事なものが置いてある場合、人が越えられないくらいの壁を作るのは普通のことだ。
 これならば、少々音がしても中を覗かれることはない。

 壁の内側に侵入したところで、僕は感覚を広げた。案の定、何か引っかかるものがあった。

「……これ、魔道結界か」

 王都の地下水路にも設置してあったやつだ。
 細い線の関知結界が敷かれていて、それに触れると侵入がバレる。
 これは魔道使いでもかなり視認しづらいので、仕組みが分かっていないと引っかかる。

 父さんは空中を移動しているから存在に気付かなかったか、気付いても無視したようだ。

「地上スレスレ、足首の辺りに設置してあるんじゃ、普通は気付けないな」

 どこかに魔道具が埋め込まれているのだろう。
 庭の所々に魔方陣が設置してあるので、ここの警備には魔道使いが関わっている。

「宿舎の中に魔道使いがいるのかな? だとすれば、かなり贅沢な守りなんだけど」

 高いレベルの結界を張れる魔道使いを使うのは大変だ。
 どれだけの金が維持費に使われるのか。

「あっ……もう始めている。父さん、荒ぶっているな」
 宿舎の中の気配が少しずつ減っている。

 父さんに助っ人をお願いする際、ハリムの所業を話して聞かせた。
 それを聞いて、父さんは妙にやる気になってしまった。

 簡単に言うと、「そういう外道は許せんな」ということらしい。
 禁制品の植物を使って、人を廃人にすることに強い憤りを感じたようだ。

「僕は……外の見張りをやるか」

 壁際と工場の内部を巡回している見張りが全部で四組いる。
 二人ずつなので、よほどの手練れでない限り対処できる。

「まずは壁の見回りからかな」

 壁に沿って歩いている見張りの所へ向かう。
 異常がないか、痕跡がないかを確認しているようだ。

 後ろに注意を払っていないので、彼らの後方、少し離れた場所に姿を現した。
「さて、父さんばかりに任せるわけにいかない。僕も始めるか」

 魔道『闇刀』で、見張りの一人の背中を刺し貫く。

「ぐわっ!」

 男の背中から胸にかけて小剣が飛び出た。
 男は胸をかきむしって、小剣をどうにかしようとする。その間に僕は剣を引き抜く。

「おいっ、おま……ええっ?」
 同僚のただならぬ様子に驚きの声をあげる。
 攻撃されたと理解し、すぐ振り向いたが、そこには誰もいない。

 僕はもっと離れた場所にいるが、全身黒衣なので、見えていないだろう。
 男は慌ててポケットをまさぐり、細長いものを取り出した。

 その前に僕は、敵ののど笛を斬り裂いた。
「……ッ」
 声も立てずによろめき、ゆっくりと跪く。

「今の動作……笛を吹こうとしたのかな」
 僕が近づく間に、ふたりとも絶命していた。

 それを確かめたあと、また闇に潜る。
「見張りが反対側にもいたよな」

 外の見張りは二組いて、ちょうど敷地内の対角線上にくるように歩いていた。
 僕は闇に溶けたまま、もう一組がいる方へ進んでいった。



「……父さん、もしかしてもう片付けちゃった?」

 外を処理したあと、工場内部に潜入した。
 ここでも二組に分かれて巡回していた見張りを問題なく処理し終えた。

 急いで宿舎に向かったところ、父さんはひとりの男を尋問している所だった。
 早すぎるよ!

「ようやく来たか。随分と時間がかかったな」
「父さんと比べて……いや、なんでもない」

 宿舎内には、もう他の気配はない。
 隠れている者がいないのならば、ここにいる男が、最後のひとりだろう。

「これ、だれ?」
「ハリム商会の人間だな」

「商会の人間? ここに来ていたんだ」
「商品を補充しにきたところだったらしい」

 ここに泊まらなければ、捕まることもなかっただろうに。
 まあ、遅かれ早かれだから、結果は同じかもしれないけど。

「それで、他は?」
「全員始末した。奥に三人転がっているのは呪国人だぞ。それなりに使えたな」
「えっ!?」

 父さんが「それなり」と言うのならば、かなりの使い手だ。
 僕だって「まあまあだな」と稀に言われるくらいなのに。

 そんなのが三人もいたって……父さんに助っ人を頼んでおいてよかった。

 父さんいわく、潜入した瞬間、連携をとって襲いかかってきたらしい。
 魔道『無色の盾』で押しとどめようと思ったら、あろうことか避けたそうな。

 父さんの魔道って避けられるんだと、このときはじめて知った。

「ありゃ、発動するまえに回避したな」

 一瞬だけ視線が止まったので、何かあると思ったのではと。
 最近の呪国人は、視線が止まっただけで何かあると思えるのか。

 もう一度避けられると接近されるので、父さんはあえて接近戦を選択したようだ。
 僕ならば、もう一度魔道を放って偶然か、本当に分かって避けたのか確かめる。

 もし避けられたら……たしかに接近される。「うわっ!」とか言って、慌てて剣で受け止めて、距離を取るだろう。
 そういうところが、僕と父さんとの違いではなかろうか。

 結局父さんは、接近戦で一人を倒し、もう一人に向かいつつ、先ほどのミスを挽回するように、視線を向けずに『無色の盾』を発動させたらしい。
 もう何がなんだか。

 三人を倒し、周辺の気配を探っていたら、客室らしき所で寝ている男を発見。
 商会員と分かったので、尋問をはじめたところで僕が来たらしい。

 そりゃ、それだけ動いていれば、僕が来たときに「遅いな」くらい言うだろう。
 だけど、僕だって急いでやったのだ。

「外の様子はどうだ?」
「全員処理したよ。音は立てなかったから、町の人には知られてないと思う」

「よし、こいつを尋問したら、機械を破壊して町を出よう」

「分かった。なるべく早くやっちゃおうか」
 夜が明ける前にソールの町に戻りたい。ちゃっちゃっと片付けてしまおう。

 そんな思いが顔に出たのか、商人が「ひぃいい」と震える声をあげた。


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