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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 王宮にある〈影〉専用の謁見の間。

 いまここは、重苦しい雰囲気に包まれていた。

 レオンの訓練に付き合った六人はずっと沈黙している。
 彼らは女王陛下の前で、頭を上げることなくただただ言葉を待っていた。

 平伏する六人を睨みつけているのは、王宮内を警備する〈左手〉たち十五人。
 〈左手〉筆頭のヒフを含めて、そうそうたる顔ぶれである。

 この部屋の主である女王陛下は一番後ろで、その様子を眺めている。

「自分らのテリトリー内ですら、満足に移動もできんのか」

 六人は反論することができない。
 当初の予定では、力の差を見せつけ、〈左手〉の面目を保つつもりだった。

 レオンの魔道『闇渡り』は、侵入に特化した能力であり、城外、城内を守る〈左手〉といえども、感知できないことが分かった。

 影を感知する魔道を捜している最中であるが、それが効果あるかも分からない。現状、打つ手はないといえる。

 屈辱的だが、相手の力が上なのだ。
 女王陛下も認めていることであり、それは飲み込もう。

 だからこそ、訓練という名目でこちらの力を知らしめる必要があった。
 今回の話は、渡りに船の状況だったのである。

「奴は初めて守る場所、その方らは熟知している場所である。それでも手も足も出ないのか?」

 冷静に問いかけられたからこそ、それが意味する内容が彼らの胸に突き刺さる。
「……出ませんでした」

「キサマら……」
「待て!」
 ヒフが止めた。

 ヒフは顎に手を当てて考え込む。彼は先代の王からずっと王家に仕えてきている〈左手〉の重鎮である。

「数を増やしたらどうだ?」
「それでも……」
「それでも?」

「無理かと思います……申し訳ございません」
「……ふむ」

 弱気と誹ることは簡単である。不甲斐ないと笑うこともできよう。
 だが、ヒフはそんな気になれなかった。

 城の外を守る〈左手〉が倍の人数を揃えても無理だと言ったのだ。
 その言葉は正しいのだろう。

「レオンがすごいのかしら。それとも……」
 はじめて女王が口を開いた。

 言いたいことはおのずと全員が分かる。
 それに続く言葉を言わせてはならないことも。

「かの『闇渡り』が特別なのでしょう。全赦を賜るだけのことはありましょう」
 ここで自分らが不甲斐ないと言えばどうなるか。

「なら、役割りを変えましょうよ。地方の〈影〉にも優秀なのがいるみたいだし」
 その一言が出てくるのが容易に想像できる。

 出し抜かれたのは悔しいが、彼は特別。
 そう言うしかない。

「そう。ならばいいわ」

 終了の合図である。
 ヒフがサッと手を振ると、シルルを含めた外回りの〈左手〉はみな立ち去った。

「今日はこのままお休みします」
「ご随意に」

 不寝番ふしんばんのみ残し、内向きの〈左手〉もまた、退出する。
 解散した中にホッと胸をなでおろしたのは、何人いたか。


「ねえ、ヒフ」
「ハッ!」

 寝室で女王陛下が虚空に呼びかけた。
 応えはすぐにある。

「彼もアレに入れてあげて」
「…………」

 しばらくして「はい」とだけ、女王陛下の耳に届いた。

「すぐに出世すると思うのよ……だからお願いね」
「かしこまりました。女王陛下の御心のままに」

 その言葉のすぐ後、女王陛下の寝息が聞こえてきた。

               ○

 竜の学院の敷地へは、事前に許可された者しか入ることができない。
 物資の搬入すら、いったん隣の王立学校へ届けられるのが現状だ。

 それほど厳重な守りであるから、竜紋を持つ者以外で許可を与えられる人はかなり少ない。

 その数少ない例外を与えられたひとり、鍛冶師のアニス・クイントは土下座をしていた。

 近々遠征があるというので、竜操者の鎧を修理するために学院を訪れたのだが、突然後ろからナイフをあてがわれたのである。

 格闘術には自信も自負もあるアニスにとって、やすやすと背後を取られたのは驚愕に値する。
 だが、次の言葉を聞いてもっと驚いた。

「僕の前に顔を見せれば次は容赦しないと言ったよね」

 後ろを取られているので、声しか分からない。
 だが、足元から震えが立ちのぼってくるのが分かる。

 声だけだからこそ、先日のやりとりがまざまざと思い浮かんだ。
 なぜ学院の中にいるのか、その疑問が頭をかすめるが、それ以上に恐怖が勝った。

 スッとナイフが退けられた瞬間、アニスは反射的に土下座を開始した。
 アニスは女王陛下の〈右手〉として活動し、『悪食あくじき』のふたつ名を得た。

 同年代の〈影〉に比べて優秀であると思っている。
 だが、それがまったく通用しない相手に出会った。

 もう二度と関わりたくないと思っていた矢先にこれである。
 アニスは自分の運命を呪いたくなった。

 一方、ナイフを背後から突きつけたレオンは、いきなりの展開にやや困惑していた。
 やってきた業者の中に『悪食』の顔を発見して、ひとりになったときを狙って、悪戯を仕掛けたに過ぎない。

 そもそも、すでにレオンは『悪食』のことは許している。
 女王陛下の前で誓ったのだから、それを反故ほごにするつもりもない。

 次に敵対してきたら殺すが、それはもうないと考えている。
 ゆえにちょっとした悪戯心だったのだが、思いの外、効いたようだった。

「さて、どうしようか」

 土下座の姿勢のままピクリとも動かない『悪食』を見て、レオンは息を吐いた。
『悪食』は背中に冷や汗を流しつつ、続く言葉を待った。

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