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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 僕とソウラン操者はソールの町を出発し、途中、技国南端の岬で野営した。
 洞窟を塞ぐとき、『楽園』の住人に見られるのは好ましくない。

 ということで、楽園上空を飛行するのは夜と決め、その時間調整のため、岬で一泊することにしたのだ。

 焚き火の前で保存肉を炙り、携帯食を囓る。

「楽園についての簡単な知識は教えてもらったけど、言葉が通じないというのは困った話だね」

 焚き火を前にして、ソウラン操者と雑談をする。
「そうですね。『潮の民』も同じだったので予想通りなんですけど、楽園の方はちゃんとした王制を敷いている分、やっかいですね」

「カイルダ王国だっけ? 旧王族の末裔だと聞いたけど、本当なのかな」
「そうみたいですよ。史料が残っていても僕らじゃ読めないので、真実はしりようがないですけど」

 今後楽園は竜国と交渉を続けて、ある程度話がまとまれば存在が公表される。

 だが、まったく言葉が通じない人たちであるため、簡単に交流を許したら、騙し、騙される人も出てくるかも知れない。

 竜国が後ろ盾になれば武力でどうこうされることもないだろうが、竜国側から勝手に交流を閉ざすわけにはいかない。

 国家レベルではなく、民間レベルでの交流が始まったとき、どんな混乱が起こるか、僕にはまったく想像できない。

「それでも国を開いていくのだろうね」
 ソウラン操者が夜空を見上げながら呟いた。

「食糧の問題もありますからね。楽園は竜国とくらべるとかなり南にありますけど、土地が高所にあるため、あまり竜国と風土が変わらない感じです。空気は薄いし、一部植生は違っていますけど、極端に暑かったり寒かったりはありませんから」

「理想的な環境だね」
「ええ。それで余っている土地を開拓して『島芋しまいも』を植えれば、恒久的な食糧不足が解決できるんじゃないかと思うんです」

「なんだい、その島芋ってのは」
「『潮の民』がいる島で栽培されいた芋ですね。痩せた土地でもスクスクと育つので、開拓したての土地でも大丈夫かなと思って」

 何しろ、噴火したときに降り積もった火山灰が混ざってもしっかりと育つのだ。
 多少気温が下がっていても、日照と栄養が揃っていれば、何とかなるんじゃないかと思っている。

 その辺は研究しだいだが、まず人海戦術で余っている土地を開拓し、島芋栽培を始めてみるのはどうだろうか。

「なるほど。夢のある話だね。……だとすると尚更、商国の介入を防がないといけないね」
 ソウラン操者の目は真剣な色を帯びていた。

「はい。そのためにも明日、頑張りましょう」
 僕らは明日に備えて、寝ることにした。

 目を閉じ、先ほどソウラン操者が言った言葉を噛みしめる。

(……商国の介入か)

 竜国を混乱させようと商国がアクリの町に介入した。
 そのとき領主の娘であるサフラン・エイドルは、父親が起こした反乱の余波で亡くなっている。

 その反乱も商国が裏で糸を引き、竜国の王配アルヴァータ・ルクストラをそそのかしたのが始まりだった。

 あれで多くの者たちの運命がねじ曲げられ、消えていった。

 そして今、商国は『楽園』に狙いを定めて全力を注いできている。
 僕らはその介入をすべて撥ねのけ、商国の野望を阻止しなければならない。

 ゆっくりとまぶたを閉じ、そのまま睡魔に身を委ねた。



 翌日、南の海を渡る。
 右手には見上げるほど高い山がある。

 この山の連なりは、昔から人の侵入を防いできたという。

 半日ほど進み、昼過ぎになってようやく目的の場所についた。
 ここにシャラザードのような属性竜が休憩できそうな出っ張りがあるのだ。

 そこにソウラン操者と降り立ち、遅い昼食を摂る。

「もう少し進むと目的の場所です。そこから上に向かいます。限界高度より少し低い位置にトンネルがあります」

「このあたりは始めて来たけど、険しい山が多いね」
「山の頂上が見えないくらいですよね」

 雲の上に出れば別だが、上空を流れる雲のせいで、山の上半分は隠れてしまっている。

「よし、休憩も終わりにして、そろそろ出発しよう」
「はい」

 その後も順調に進み、目的のトンネルをくぐった頃には、夕闇が迫ってきていた。

 時間調整したおかげで、くだんの洞窟に着く頃には夜になっているはずだ。

「ここが楽園か」
 ソウラン操者は感慨深いようだ。

「じゃ、行きましょう」
 ここからは国を縦断しなければならない。

 なるべく高度を維持しつつ、人に見つからないよう注意しながら飛んだ。
 洞窟の場所は、以前僕とロザーナさんが野営したときに見つけておいたので、場所は分かっている。

「……ここか」
 夜のまだ早い内に洞窟の前まで来た。
 一応ここまで来るのに、人に見られていないと思う。

「レオン操者は、この洞窟の中に入ったかい?」
「ええ、一応軽く確認するだけですけど」

「中はどんな感じだった?」

「百メートルほどは平坦で、簡単に歩ける感じです。そこからしばらく下りが続きますね。最下層までは下りませんでしたけど、数百メートルは下ったと思います」

「そうか。……だったら、そこを潰そうか」

 ソウラン操者は、青竜にボソボソ話しかけた。
 僕やアンネラと違って、ソウラン操者は竜と会話できない。

 ただし、話した内容はある程度伝わるらしく、かなり細かい指示まで出せる。

「周辺の壁を溶かしつつ、それを中に流し込んでしまおう」
 ソウラン操者は青竜に命じて、細く長い炎を吐き出させた。

「そういう繊細な作業ができないんだよなぁ」
 僕がシャラザードを見ると、『なんだ?』と不審そうな顔を向けてきた。

「いや、何でもない」
 シャラザードには、細かい作業をやらせるだけ無駄だろう。

 しばらくして、青竜が炎を吐き出すのを止めた。
「どうですか?」

「うん。成功だ。下り坂になっている通路は全部溶岩で埋まったと思うよ」
「はぁーっ、やりましたね」

 すごいな。本当にできたみたいだ。
 試しに覗こうと思ったら、熱気で入れなかった。

 ソウラン操者の話によると、まず洞窟の周囲の壁を溶かしたらしい。
 するとドロドロになった溶岩が下に流れ、どんどんと溜まっていく。

 下から溜まった溶岩が上まできて溢れそうになったので、その前で炎を出すのを止めたようだ。
 つまり、延々と長い下りトンネルがあったが、それをすべて塗りつぶしたことになる。

「これで商国は『楽園』に来ることができませんね」
「ああ。連中の顔が見物だ。ざまあみろという気持ちだね」

 意外と悪い顔ができるソウラン操者だった。

 何にせよ、僕らは任務をひとつやり遂げたのである。


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