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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 浮遊感が僕を包む。
 シャラザードから飛び下りた僕の身体が、ゆっくりと地上に向かって落下する。

 僕は魔道『闇纏やみまとい』で周囲の闇に包まれ、そのまま地上へ到着。
 そのまま『闇渡り』で、右往左往する労働者たちの方へ進む。

「ちょうどよかった。彼らを先に処理しよう」

 労働者を逃がすと、またどこで栽培されるか分かったものではない。
 これ以上不幸な人々を出さないためにも、禁制品を作れる者たちだけは逃がしてはならない。

「んを!?」
「な、なんだ?」

 突然現れた僕に、何人かが驚きの声をあげた。
 戦闘経験がないため、何の危機感も持たずに、棒立ちになっている。

 そんな彼らを僕は小剣で次々と処理していく。

「ぎゃぁあああ……」
「逃げろ!」

 ようやく自分たちが狙われていることに気付いたが、もう遅い。
『闇刀』で逃げる者から順に刺し殺していく。ほとぼりがさめた頃に栽培されても困るのだ。

 異変に気付いた見張りたちがやってくる。
 彼らがどこから来たのか……どうやら倉庫らしい。

 収穫したものを運びだそうとしていたようだ。

「あとで相手をするから、ちょっと待ってろ!」
 彼らの優先順位は低い。

 先に残りの労働者を追いかけて斬る。もしくは『闇刀』で刺す。

「敵は魔道を使うぞ! 全員来い!」
 見張りが叫ぶ。どうやらやるつもりだ。

 とそこへ、新たな殺気が僕に向かって放たれた。
 最初の栽培地から逃げ出した暗殺者か?

 視線の先に、目つきの鋭い呪国人がいた。おそらくそう……だよな?


 ――バシィ!


 横っ飛びに転がった僕の足下。
 地面が爆ぜ、鋭い音が僕の耳を打った。使われたのは……。

「鞭か」
 また変わった武器を使う。

 密林で手を出さなかったのは、木々が邪魔をしたことも関係しているかもしれない。

 夜間で視認性の悪い鞭を相手にするのは、かなり厳しい。
「……僕以外ならばだけど」

 特殊な武器との戦い方は、父さんからさんざん手ほどきを受けている。
 鞭は非力さをカバーするために女性が使う事が多い。

 鉄で出来た剣を振り回すのは、男性でも厳しいのだ。
 ゆえに女性の場合、弓か投擲、または鞭など軽い武器を選ぶことが多い。

「ただし、鞭はデメリットも多いけどね」

 習熟に時間がかかり、敵味方入り乱れると使いづらい。
 間合いは槍と変わらないので、近づかれると、優位性がほとんどなくなってしまう。

 目の前の呪国人は男性だが、ガリガリのやせ細っている。
 鞭を使うのはそのせいだろうか。

 僕は小剣を腰に戻し、懐に手を入れた。
 あとは相手の利き腕に注目して……。

 呪国人が鞭を振るうために、腕を引いた。
 その瞬間、僕は転がりつつ、つぶてを投げた。

 鞭の先は視認できないほど早いが、それを振るうのは人の腕である。
 腕を動かしたときに逃げれば、間に合ってしまう。

「父さんならば、腕ごと固めるんだろうけど、僕はこっちかな」
 手の中で礫を弄ぶ。

 先ほど放った礫は、肘に当たったようだ。
 これでさらに鞭を振るうのが難しくなった。

 顔をしかめつつ、呪国人がさらに腕を振るう。
 さすがに今度は投げた礫を避けられた。

 だがそれも想定のうち。反対の手に持っていたナイフが、呪国人の肩と鎖骨に一本ずつ突き刺さった。
 もうこれで鞭は振るえない。

 僕はここで小剣を抜いて、間合いを詰めた。

 結果から言えば、呪国人は手強かった。
 利き腕を先に潰していたが、いつの間にか残りの手にカマが握られていた。

 すれ違いざま、僕の剣は呪国人の喉を掻き斬り、呪国人の鎌は僕の胸の辺りを薄く薙いだ。

 鎖帷子を着込んでいるので肌には触れなかったが、なかなかどうして体術も相当やりこんでいたようだ。

「なっ!? アイツがやられただと?」
 見張りが驚愕の声をあげる。

「それが僕の仕事だからね。……数人は生かしておくけど、あとはいらない」
「……ッ!」

 剣を構える見張りたち。だが、あとはもうただの作業だ。
 僕は視線で彼らの数をかぞえ、一応三人残そうと、心の中で選別を開始した。



「なるほどね。〈影〉が見つかっていたわけか」

 三人残して見張りを全員処理し終えた僕は、足を押さえて蹲る男たちを並べて、質問を開始した。

 まず呪国人。彼がなぜここにいたのか。
 以前、女王陛下の指令でこの地を調べていた〈影〉のひとりが、姿を見られていたらしい。

 ここを探っている者がいると上にかけあったところ、派遣されてきたのがあの男だったようだ。

「じゃあ、次の質問だ」

 僕がなぜ三人も残したのか。
〈影〉が発見した栽培地は三つ。もしかしたら、もっとあるかもしれない。

 それを知るのは商人の他に、ここで働いている者たち。
 といっても労働者は詳しいことを知らないようだったので、見張りに聞きたかった。

「他にはない。本当だ」

 三人は両膝を壊して転がしてある。
 念のため別々に質問したが、答えは同じだった。

「あとは本職に任せるか」
 三人の意識を刈り取って、シャラザードに乗せた。お土産だ。

 栽培地は秘密裏に処理したいので、他の〈影〉に頼んで焼いてもらうことにする。

 とにかく収穫されたブツがなくなれば、供給できない。
 今から栽培を始めたとしても成果が出るまでかなりかかるはず。

「……だけどまあ、商国も侮れないな」

 禁制品の花が栽培されていたのは、もう百年以上も前。
 今では栽培法方を知る者はいないはずだった。

 もちろん密林の中にはごく稀に咲いているが、それを集めたところで中毒になることはない。
 そもそも実物を見たことがある者がいないはずなのだ。

 栽培方法を含めて、いまに蘇らせたのだ。

 彼らを尋問した結果、『華蜜』のハリムがこの計画を主導して、費用や知識を提供したことが分かった。
 ハリムはどこかでそれを知ったのか。

 そしてこの計画にかける意気込み。
 根気よく何度も実験を繰り返し、栽培方法を確立させ、販売を成功させたのだろう。

 たしかにハリムの噂はずっと聞かなかった。
 何をしているのかと思ったら、こんなことをしていたとは。

「本当に五会頭は、一筋縄ではいかない連中ばかりだ」
 僕は嘆息した。


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