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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 闇に溶けたまま、労働者たちがいる小屋に向かった。

 辺りはすでに暗くなり、密林の中ということも相まって、周囲の影がかなり濃くなっている。
 夕暮れに作業を終えているので、労働者たちは小屋の中にいる。

「なあ、奥の連中がまだ来てねえな」
「ほんとだ。顔が見えねえな」
「そんなに頑張らなくてもいいのによ」

「遅くまでやると、追加報酬って出たっけ?」
「いや、聞かねえな」

「どうせメシまでには、帰ってくるだろ」
 小屋の中ではそんな話が交わされている。

 小屋とはいうものの、大きさはそれなりにある。
 数十人が雑魚寝できるくらいには広い。

 中は申し訳程度にろうそくの火が灯され、僅かに揺れている。

「ここにいるのはみな進んで悪事に手を染めた連中ばかりか」
 栽培技術を持っているので、逃がすわけにはいかない。

 僕は扉の近く、積んだ荷物の陰に姿を現し、彼らから見えないところで魔道『闇刀』を発動させた。

「まずは、気付かれにくいところから……」
 小屋の奥で横になっている男の背中に小刀を突き刺す。

 ――ウッ!

 小さく呻く声が僕の所まで届いたが、周囲は雑談に夢中で、気づいた様子はない。

「だれか『四子棒ししぼう』やらねえか?」
 四子棒とは技国に伝わる賭け事のひとつで、四本の短い棒を使って行われる。

 数人がそれぞれ棒を持ち、箱の中に投げ入れる。
 棒の積み重なり方で点数を競い、それを予想した者が掛け金を得る。

「いいね。やろう」
「よっし、昨日の負けを取り返すときがきたか」

 何人かが直方体の棒を持って端に集まっていった。
 その間に僕はひとり、またひとりと『闇刀』で労働者を刺し貫いていく。

 声が漏れないよう、一撃で心臓を刺していく。
 部屋全体が暗く、彼らがみな汗臭いからか、いまだ事切れた同胞に気づく者はいない。

「おい、こっちは『茶碗返し』やるぞ。だれかいねえか?」
「いいぜ」
「おれは遠慮しとく。配給の酒がまだ残ってるしな。今日はゆっくりやりてえんだ」

「それじゃ、メンバーが足んねえな。他にやるやつは?」
「おい、サウやん。おまえどうだ?」

 だれかが、壁に背中を預けている男の肩を揺すった。
 すると男の身体がずれ、そのまま横倒しになる。

 壁には男の血の跡がついた。

「ヒィッ!」

 小さくあがった悲鳴に、何人かが目をむける。
 はじめは興味なさそうに。そして大きく目を開くことになる。

「どうした? お、おい、その血はなんだ?」
「分からねえんだ。サウやん、どうし……ッ!?」

「なんだ?」
「何かあったのか?」

「サウやんが……死んでる。血を流して死んでいるんだよ」
 男が後ずさったとき、横になった男に蹴躓けつまづいて、後ろにひっくりかえった。

 足下にいた男もまた、死んでいた。

「なんだ? なにがどうなって……」

 状況がよく飲み込めず、互いに顔を見合わせている男たちを尻目に、僕は次々と『闇刀』で頸動脈を掻き切っていく。

 血飛沫があがり、だれかの顔にかかった。
「ひっ……人殺しだぁ-!」

 外へ逃げようと駆けだした男の前に僕は姿を現す。

 ――ズン

 やってきた男の腹に、小刀をねじ込む。

「がっ……」

 口から血の泡を吐き出しながら男はくずおれた。

「ど、どこから?」

 全身黒ずくめの僕を見て、小屋の中にいる全員が固まった。
 それまで自分たちしかいないと思っていた所に闖入者がいたのだ。しかも扉が開いた気配はない。

 最初からいたのか。そう思っただろうが、部屋の中に隠れる場所はない。
 僕の存在が理解の外だったことで、彼らの行動が遅れた。

 その間にふたり、僕は小刀で急所を穿った。

「に、にげっ……」

 逃げようとしたのだろう。
 だが僕が扉を背にしている限り、逃げられるわけがない。
 出入り口は一カ所しかないのだ。

 窓もあるが、横開きの窓ではなく、下から持ち上げるタイプのもので、そこから人が出るには小さすぎる。

「な、なんなんだよー!」

 すでに残りは五人。
 ここまでくれば、パニックになった一般人など、簡単に処理できる。

 僕は無言で間合いを詰めた。

 数回の接触で、労働者を全員処理し終えた。
 敵は武器を持っているわけでもないし、戦闘訓練を積んでいるわけでもない。

 声を上げて人を呼ぶという発想すら持ち合わせていなかった。
 棒立ちか、僕から逃げるだけの連中など、小刀一本で簡単に処理できる。

「これで目的の半分が達せられたか。あとは栽培地だけど、いま燃やすのは拙いよな」

 夜とは言え、他の栽培地には見張りもいる。

 吹き上がる煙を目撃されると、逃げられる可能性がある。
 栽培地を破壊するのは最後でいい。

「とすると、次は見張りか」
 いま見張りのほとんどは巡回に出ている。

 見張りが使っている小屋に残っているのは、交代要員の数人程度。

「僕が処理した見張りが戻ってこないのを不審に思っているかもしれないな」

 先に見回りをしている連中を処理しよう。
 僕は闇に溶けた。



 栽培地はすべて把握してある。
 巡回している見張りも、魔道『闇刀』で、次々処理していった。
 ここまで問題はない。順調過ぎるくらいだ。

 問題があったとすればひとつ。
 労働者たちに食事を運んだ者が、小屋の中の死体を見つけてしまったことだ。

 僕が戻ってきたときには、すでに騒ぎになっていた。
「しまったな。見張りは先に食べていたし、もう少し時間があるかと思ったんだけど」

 見張りの仕事は、労働者たちが戻ってきてからが本番となる。
 夕食は先に食べていて、それが終わってから労働者たちの番になっていた。

 労働者たちが食べに来ないので不審に思って呼びにいったのだろう。
 騒いでいるの見張りは五人。その中に呪国人らしい人影はない。

「まずは、『闇刀』かな」
 姿を現さずに一方的に攻撃できるこの魔道はいつも大変重宝している。

 二人目を貫いたときに、残りの敵は散開した。この辺は手慣れている。
 密林の中に逃げ込む前に一人を穿ち、残りは二人。

 視界から隠れてしまったので、闇に潜って追いかける。

「……見つけた」

 ひとりは密林に隠れたようだが、もうひとりは一目散に逃げている。
 下藪の密集した中を走れば、自分はここにいますと宣伝しているのに等しい。

 先回りしてから姿を現すと、敵は向きを変えて逃げようとした。
「突っ込んでくるかと思ったけど」

 追いすがってもいいが、『闇刀』で敵が逃げる前に小刀を首元へ出現させる。

 ――ぐあっ!

 避けられるタイミングではないので、僕の小刀は逃げる男の首を斬り裂いていた。

「ふう……あとひとり」

 そのとき背後から、刺すような殺気が一瞬だけ放たれた。


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