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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 月魔獣の見学を終えて、王太子を連れて王都に戻った。

 帰りは夜になってしまった。もう少し早く着く予定だったが、途中、飛行型の月魔獣に遭遇したりして、逃げるのに時間がかかったのだ。

 だれも見ていないし、よほど倒してやろうかと思ったが、僕の後ろにはロザーナさんと王太子が乗っている。

 王太子に何かあったら、『楽園』との同盟に影響を受けてしまう。

 王城ではすでに準備してあったらしく、到着早々、次の予定のために王太子を連れて行った。ロザーナさんはそれに付いていく。

「楽園探訪に、王太子の通訳か。ロザーナさんも大変だな」

 古代語の研究者になりたいと言っていた学生時代からは、想像もつかない人生ではなかろうか。

 二人を見送ったあと、僕はシャラザードの足を叩いた。
「我慢させて悪かったな」

『なあに。この後、好きにしてよいのだろう?』
「……まあね」

 陰月の路までの往復くらい、シャラザードにはなんてこともない。
 疲れているのは僕の方だけど、さっきシャラザードと約束したのだからしょうがない。

 もういちど、月魔獣狩りに行く。

「お手柔らかにな」
『うむ、存分に暴れようぞ』

 ある意味これがシャラザードの平常運転なのだろう。
 僕は苦笑しつつ、シャラザードに乗り込んだ。

「……今日は徹夜だな」
 明日一日、月魔獣を狩ったら落ちついてくれるだろう。

「よし、いくぞ!」
『あい分かった!』
 僕らは夜空に向かって飛翔した。



 王太子を月魔獣の見学に連れて行ってから、五日後。
 僕はいま、技国の南部に来ている。

 月魔獣狩りを終えた日、サッパリしたシャラザードとは違って、僕は疲労困憊になってしまった。
 半日ほど寝込んだあと、ベッドの上でもう一度女王陛下からもらった資料を読んだ。

華密はなみつ』ハリムの野望を阻止するには、禁制植物を破棄し、精製工場を破壊。流通に携わった商人たちを処理する必要がある。

 実際には、品物を運ぶだけの商人と、各村や町で売り回っている商人がいるが、このさい区別はしないことにした。分かってやっているのならば、まとめて処理する。

 問題は順番だ。
 逃げられた場合、取り返しが付かない方を先に処理したい。

「栽培している連中が最初かな」
 植物さえ焼いてしまえば、流通経路を破壊するのは後でもいい。

 それと栽培が難しい場合、栽培できる連中を処理するところからはじめたい。

 そういうわけで、僕は栽培所のひとつに来ている。
 内情を調べずに、上からシャラザードの属性技で破壊したら、目立つ上に討ち漏らしが出ても分からない。

 潜入して調べて、しかるのち処理する。僕のいつものやり方だ。

〈影〉が調べた栽培地は三つ。すべて技国の南方、密林の中にある。
 ここは蒸し暑く、雨の多い地域なので、そういう環境でしか育たない植物なのだと分かる。

 西と南と東の栽培地と呼ぶことにした。
 僕がいるのは、西の栽培地だ。

 ここは比較的規模が小さく、潜入するのにちょうどいい。
 密林の中に点在しているので、広いところを見て回るのは骨が折れる。

 現地の村人を栽培要員として使い、雇ったゴロツキを邪魔者の排除にあてているとあったが、遠くから眺めている限り、それだけではなさそうな感じだ。

 閉ざされた場所なので、人の出入りはない。
 だが、栽培地周辺で多数の気配がする。働いているのだろう。

 シャラザードは遠くにおいてきたので、夜を待って忍び込むことにする。
 ただしここは技国の領内。あまり派手にできないのがツラい。
 後で問題にならないよう、動く必要がありそうだ。



 日が暮れたので、僕は闇に潜った。
 西の栽培地は小さなものだが、見て回るにはそれなりに広い。

 どれも普通の畑が一枚分程度の広さで、それが十以上、密林の中にある。
 すでに栽培地で働いている人はなく、みな小さな小屋に戻っている。

「強制的に働かされている感じでもないよな」

 人里離れた場所で重労働に従事していることから、弱みを握られた上の労働かと思ったが、小屋の中にいる者たちの雰囲気は明るい。

 夜になって栽培地を見回っているゴロツキの方が大変そうだ。

「気配が薄いのがいるな」

 ひとつだけ立派な小屋があるが、倉庫のような造りをしている。
 その中に数人の気配がする。ひとり、手練れが交じっているようだ。

 素の状態で気配を薄くできる者など、暗殺者以外にいない。
「雇われた暗殺者かな」

 正直、こんな辺鄙な場所に一級の暗殺者が配置されるはずはないと思うが、僕がここを最初に狙ったように、禁制品を栽培できる人は貴重なのかもしれない。

 闇に溶けたまま、しばらく小屋の様子を窺った。
 彼らはみな労働者だ。一人は横になり、もうひとりは酒を飲み、あとは賭け事に興じていた。

 闇の中で耳を澄ませていたが、重要な話が聞けるわけでなく、しばらくして彼らは眠りについた。
 明日も仕事があるため、あまり夜更かしできないのだろう。

「ゴロツキたちを確認してくるか」
 彼らはまだ周辺の見回りをしている。

 闇に溶けたまま近づくと、ゴロツキのひとりは真面目に見張りをしていた。
 ここに至る道は一本しかなく、そこを押さえているようだ。

「とすると、残りの者が中の巡回か」

 意外と厳重な警備に驚いた。
 これは情報を取ってくる〈影〉も大変だっただろう。

 気配をたよりに密林の中を移動する。
 彼らは二人ひと組になって巡回していた。

 歩き方から、どこかの兵士くずれのように感じた。
 ゴロツキと正規の訓練を積んだ兵では、緊急時の対応に差が出る。

 襲撃して笛でも吹かれたら大変なのだ。あまり近づかないようにした。

「……さて、これで暗殺者がいた小屋以外は見ることができたな」

 巡回しているゴロツキは全部で七組。十四名もいた。
 巡回が二交代制ならば倍の二十四人いることになる。

 このロイスマイムの栽培、よほど金になるのだろうか。
 何にせよ、今夜は進展なし。

 明日は接触して情報を得てみよう。


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