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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 シャラザードは月魔獣狩りができると御機嫌だ。
 何も言わなくても、速度を上げている。少しでも早く着きたいのだ。

 何度か、「見学だ」と言ったが、理解したのかどうなのか。

それと少し、面白いことが分かった。
 レヴレアル王太子は高地に住んでいたため、シャラザードが空高く舞い上がっても、まったく問題ないようだ。

 慣れていない人は、多少なりとも息苦しさを覚えるものだが、そんなそぶりはない。

「あとどのくらいで着くのかと聞いているわ」
 ロザーナさんが通訳として僕らと一緒にいる。

「もう近くまで来ているけど、先にどこかでお昼を食べようと思うけど、いいかな」
 シャラザードの上で保存食を囓ってもよいのだが、相手は王太子。

 せっかく食糧を積んでいるのだから、ちゃんとした食事を地上で用意したい。

 月魔獣が出る所まで行ってからだと、呑気に食べていられない。
 そのため、早めに降下して昼食となった。

 火をおこして、肉を焼く。同時にスープを作って、パンも軽く炙る。
 野営については、学院時代にさんざん練習してきた。自分たちの分だけならば、すぐに用意できるのだ。

「月魔獣を見るのが楽しみだと言っているわ」
 最初ロザーナさんが通訳を間違えたのかと思った。

s だが王太子の表情はにこやかなままだ。
 本当に楽しみにしているのだろう。

「竜国の民からすれば、月魔獣は恐怖の象徴なんだけどね」
「それも言ったのよ。どうやら思うところがあるらしいの」
「ふうん?」

 ロザーナさんも不思議に思って聞いたようだ。

 王太子が言うには、王家に残された逸話は数多くあるものの、国を追われた原因について書かれたものは少ないという。

「自分たちの恥になると思ったのかもしれないわね」
「旧王族だし、旧王都に住んでいたんだよね」

「そう。月魔獣に町を荒らされて、その責任を追及されたのよ」
 何しろ、月魔獣の襲来は、予期しえなかった災害だ。

 また、復興しようにも蓄えはない。
 当時の生活がどうだったのか詳細には分からないが、それほど余裕もある暮らしではなかったのだろう。

 町が荒らされたというのだから、被害は深刻だ。
 そして復興もままならない。

 住民の不満は、当時の王家に向かった。
 王家は事態の収拾に失敗し、ついには人々が城に押し寄せた。そんな話だったはずだ。

 その後、近くの町――おそらくはヒューラーの町に居を移した王族は、そのままいずこと知れない場所へと旅だっていった。

 その後、王家を支えてきた人々が、王族を追って飛び出した。
 それが『霧の民』と『潮の民』と言われている。

 今ならば分かる。
 追放された王族を見つけたのは、『霧の民』だ。
 両者はどこかで出会い、そのまま安住の地を求めて行動をともにしたのだろう。

 当時、楽園に繋がる洞窟は行き来可能だったはず。
 だが、天蓋山脈の山々を越えて行かねばならないので、そうそう頻繁に大陸に戻れたとは思えない。

 楽園と天蓋山脈に住む人々に別れ、その一部が『霧の民』として残っていったのだろう。

 それが僕が知っている旧王族にまつわる歴史だ。

 一方、『楽園』の方だが。
 そこに残された数少ない当時の記録にも、月魔獣のことが載っているという。

 ただし町を襲う怪物など、おとぎ話の類いか、それに近いものと捉えていたらしい。
 自分たちの祖先は、怪物の襲撃を受けて都を追われた。

 そんな怪物はいない。
 異民族や、敵国の暗喩だと思っていたらしい。

 だが僕らがやってきたとき、乗っていたのは巨大な竜。
 竜は楽園にはいない。

 そしてロザーナさんの話に出てきた月魔獣を聞いて、もしかしたら、あのおとぎ話は現実かもしれないと思ったらしい。

「月魔獣は祖先を追い出す原因となったけど、その辺はいいのかな」
「何百年も前の話だし、祖先の恨みみたいな感覚はないみたいね」

「なるほど。それはそうか」
 そこまで執念深いわけがないようだ。

 恨みを何百年も忘れない……いや、忘れないどころか、そもそも当時を知らないだろと突っ込んでしまうかも。

「月魔獣を見てどんな反応をするか分からないけど、ここから飛べばすぐだからと伝えてくれる?」
「分かったわ」
 ロザーナさんに通訳してもらったら、王太子は大層喜んだ。

「じゃ、行こうか」
 昼も食べて、十分休憩も取ったので、僕らは陰月の路に向かった。



 大転移の最中であることから、月魔獣はすぐに見つかった。
「十体以上いるな」

「月魔獣が十体? 多いわね」
 ロザーナさんが驚いている。

「今はどこもそんな感じかも。巡回が追いついていないんだ」
「そうなの?」
「今は仕方が無いと思う」

 竜操者たちが効率的に月魔獣を狩るための巡回コースがある。

 そこで見つけた月魔獣は狩ることになっているが、出会う頻度が上がると、どうしても時間を食ってしまう。
 すると他のコースを回るのに押してしまい、一日、二日と遅れていく。

 それが解消されないと、巡回の遅れがどんどんと広がっていく。
 だったら、別の者を巡回させればいいではないかと思うかもしれないが、どこでもそんな感じなのだ。

 結局月魔獣は増え、巡回時間だけが伸びていくことになる。

 地をうろつく月魔獣の上をシャラザードが飛ぶ。
 ちなみに何度かシャラザードの首を叩いて、攻撃を思いとどまらている。

 最後は「メシ抜き」を伝えて、暴発を防いでいるのだ。

「ねえ、レオンくん。戦っているところを見たいって言っているのだけど」
「また面倒な」

 もちろん、月魔獣の十体くらい、シャラザードがいれば問題ない。
 だが、絶対に安全かと問われれば「絶対安全とはいえない」と答えるしかない。

 戦闘中は何があるか分からない。万一ということもある。

「王太子をなんとか説得してくれる?」
 はじめて見た月魔獣に興奮している王太子には悪いが、ここは譲りたくない。

「やってみるわ」
 お互いに何を言っているのか分からないが、ロザーナさんが頑張ってくれた。

 何度も意見をぶつけ合い、ようやく決着がついたようだ。

「今回は見学ということで許可をもらったから、それ以上はできないで押し通したわ」

 さすがロザーナさん。
 王族相手でもちゃんとノーと言ってくれるのがありがたい。

「じゃ、もう少し見学していこうか」

 僕は僕で、シャラザードを押さえつけなくてはいけない。
 神経を集中して暴発させないようにする。

「さあ、シャラザード。奥に行くぞ」
 陰月の路に沿って、僕らは移動した。


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