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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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「イーヴァ商会を潰しなさい」

 女王陛下の言葉を理解するのに時間がかかった。
 それだけ衝撃的な内容だ。

 国が密かに商会を潰させようとするなんて、異例のことではないだろうか。
 以前、やはり同じ五会頭のひとり『豪商』のスルヌフを倒したことがある。

 ただしあれは、本人が王都転覆を狙った極悪人だった。
 俺に追われて竜もろとも海の藻屑となり、商会も悪事がバレて解散した。

 従業員の一部も捕まって、北嶺地帯で強制労働についているはずだ。

「あの……それは、『華蜜はなみつ』のハリムを処理するのとは違うのでしょうか」
 国のためにならない、もしくは国を裏切った商人を処理したことは何度かある。

 だが、悪事を働いた者を処理するのと、商会を潰すのは違う。

「商会を潰しなさい。あれは……あってはならないものです」
「理由を聞いてもよろしいでしょうか。それと、どこまですれば商会を潰した事になるでしょうか」

「そうね。商会を解散させても、根っこが残っていれば同じだし……レオン、今から話すことを聞いて、あなたが判断しなさい」

「はい」

「技国の南は、竜国とまったく違う植生なのだけど、知っているかしら」
「珍しい甘い果物や匂い立つ大輪の花があったり、背丈くらいの大きな葉の植物があると聞いています」

 技国の北は針葉樹林が多いが、南は多種多様な植物類があると聞いている。
 実際に見たことはないが、肉厚の葉っぱや珍しい果物など、ときどき竜国にも入ってくるので、なんとなくイメージできる。

「技国の南方でしか育たない植物の中で、煙を吸い込むと酩酊感めいていかんひたれるものがあるの。それは強い常習性をもたらすので、栽培は禁止されているわ」

 その発見は偶然だったらしい。
 山火事か枯れ草を焼いたときに、吸い込んだのだろう。

 そのとき感じた雲の上を歩くような、ふわふわとした感覚を求めて、人はその植物を探しだしたらしい。

 見つけたそれはロイスマイムの花。
 実を成らせる直前が最も多くの酩酊感をもたらすという。商品名は『夢の入口』。

 とある村では、ほとんどの村人がその常習性にやられ、無気力、無抵抗となった。

 他の村人が発見したときには全員が栄養失調、餓死同然の状態だったという。
 とにかくその煙を常時吸っていると、他になにもやりたくなくなってしまうのだという。

「それを密かに栽培し、売りさばいているのが分かったのよ」
 女王陛下の顔は険しい。

「それで商会を潰せというわけですか」

「ハリム本人を処理しても、ルートが確立しているいま、別の者が引き継ぐでしょう。たとえ関わったものを検挙したとして、残りの者は地下に潜って活動を続けるでしょうね。なにしろ顧客は依然、そこにいるのだから」

 だから、商会を潰すわけか。
 トップはもちろん、その幹部と販売ルート……何もかも潰す。

 だとすると、栽培場所も潰す必要があるな。

「実行するとかなり大きな事件になると思いますが」

「顧客は技国と魔国に集中しているわ。このままだと竜国も危ないわね。顧客の方は他の〈影〉を入れてなんとかさせる。レオンは、商会をお願いね」

 人は易きに流れる。
 竜国民であっても例外ではない。

 今回、被害者の多くは他国民だ。
 だから放置していいわけではない。

 他国の上層部には話を通すだろうが、どのみち竜国は表だって動けないわけだ。
 竜国が技国で辣腕を振るって商会を潰したら……うん、悪い噂が立ちまくるな。

 かといって、他国に任せて安心できるかといえば……難しいな。
 こういうものは徹底的に潰さなくっちゃならない。
 手心を加えると、しぶとく生き残るのだ。

「しかもここで、他国が混乱するのはよくないわけですね」
「その通りよ。大転移を生き残るためにも混乱の芽は完全に潰したいの」

 やはりそういうことなのだ。

「分かりました。さっそく取りかかります」
「そうそう、レオン」

「……はい」
 まだ何かあるのかな。

「ハリムには優秀な呪国人が付いているから気をつけるように」
「はい。十分、注意したいと思います」

 呪国人か。たしかに気をつけないと。



 女王陛下のもとを去り、自室に戻った。

 ベッドに腰掛けて、先ほど手渡された資料を読む。
 これは同業者である〈影〉たちが調べてくれた結果だ。

「栽培場所で判明しているのは三カ所か。いずれも南の海の近くだな」
 技国海ぞいの原生林の中で、密かに畑を作っているらしい。
 もしかすると、この三カ所だけでない可能性もある。それを心に入れておこう。

 資料を読むと、栽培しているのは付近の村人で、それを雇われたゴロツキが監視と命令をしているとある。

 畑も作業場も武装した者たちが多数いるらしいので、ここにいる者たちはみな分かってやっているのだろう。
 自分たちが使わなければいいとでも思ったのだろうか。嫌な話だ。

「なるほど、架空の商会をいくつか作ってあるみたいだな」
 移動ルートは複数存在し、請け負っている商会の名前は調べてもどこにも出てこない。

 売っているのは行商人らしい。まっとうな行商ではなく、この『夢の入口』専門のようだ。
 護衛はいるものの、商人たちは戦闘経験はないらしい。

 資料を読めば読むほど、知らずに手を貸しているという線がなくなっていく。
 みな分かって悪事に手を染めているのだ。

「問題は、目的だよな」
 その辺は資料には書いていない。

 ハリムが何を考えて、こんな非合法に手を染めたのか。
 動機や目的をしっかりと探らないと、どこかで処理漏れが出てしまうかもしれない。

「とりあえず、回天や大転移で不安に思う心につけ込んだ今回の件。十分落とし前を付けさせよう」
 僕は、資料を最後まで読んで、懐に仕舞った。


『華蜜』のハリムの人物鑑定が前話違っていたので修正してあります。
本編には変更ありません。
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