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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 王太子夫妻とアプリさんを王城に連れていったところで、俺は彼らと別れた。
 ロザーナさんは通訳する必要があるので、俺とは別行動だ。

「夕方か。少し寝るかな」

 城内に留まる様に言われたので、宛がわれた部屋でゆっくりする。
 アンネラとターヴェリはそもそも王城に来ていない。
 いまは竜導教会にいる。

 おそらくそこで報告書の作成をしているのだろう。
 俺は俺で、出来事をまとめないといけないのだが、何をどう書いていいのやら。

 相変わらず、報告書作成は苦手なのだ。

 竜操者の任務で来たとはいえ、王城では客人扱いらしい。
 城の使用人が食事を運んできた。

 これが軍施設ならば、自分で食堂に出向くところだ。

「遅れまして、申し訳ありません」
 使用人が恐縮している。そういえば、少し遅いか。

「何かあったんですか?」

「城内がとても慌ただしくて。かといって人を増やすでもなく……よく分かりませんが、今日は人手不足のまま乗り切るようでして」

 重大なことがあっても情報は使用人まで下りてこない。
 意味も分からぬまま、何人かがかり出されてしまって、いくつかの区画で人が足りなくなっているらしい。

「……大変ですね」
「いえ、お客様にお話しすることではなかったですね。ではごゆっくり」

 恐らくだが、この人手不足。僕が王太子夫妻を連れてきたことに起因するんじゃなかろうか。
 だとしたら悪いことをした。

 夕食を食べ終え、部屋でゆっくりしている間に、外は暗くなった。
 疲れもあったので、部屋でダラダラとしていると、〈左手〉のヒフがそっとやってきた。
 珍しい。というか、久し振りに会った。

「陛下がお待ちです」
「こんな夜に?」
(コクリ)

 夜だからか。どうやら、〈影〉の僕と話をしたいらしい。
「いま行きます」

 このタイミングで僕が呼ばれるのは王太子の件しかないので、僕はすぐに闇に溶けた。



「レオン。……あれはワザとかしら」
「お呼びに……えっ!?」

 到着早々、最初の挨拶すらさせてもらえなかった。というか、女王陛下が怒っている? なんでだ?

「えっと、女王陛下におかれましては、御機嫌麗しく……ないようですが、いかがお過ごしでしょうか」
 どう言えばいいか分かんないよ、こんちくしょー。

「それより、なぜ『楽園』の指導者を連れてきたのかしら」
 それよりって、怒るポイントはやはりそこだったか。

「本人が望みましたので、仕方なく……」
「だったら、だれかを先に寄越しなさい。急に来られたら秘密が守られないでしょ」

 だれか……アンネラだろうか。
 でもアンネラが王城に行っても秘密裏にことを運ばせるのは難しい。

 女王陛下の耳に届く頃には、伝言ゲームになっているはずだ。

 竜導教会を使えばできるか。
 いや、その場合情報が漏れるリスクが王城だけでなく教会側にも発生する。

 また、伝令が行き来する分だけ、王太子夫妻を長期間留めておくことになって、やはりよろしくない。

 どんな解決策があっただろうか。
 おそらく王太子夫妻を楽園から連れ出したのが拙かったのだろう。

 でも「直接交渉したい」と言われて「駄目です」とは言いにくかったんだよな。

 さて、女王陛下がなぜこれほど怒っているかといえば。
 情報漏洩のリスクを心配しているようだ。

 商国が王城内に内通者を作っているのは明らか。
 領主や貴族、使用人のひとりに至るまで、王城に出入りする人物を完全に監視するのは不可能。

 とくに使用人の数は多いので、それだけ監視の目は緩む。
 数年分の収入を目の前にポンッと出されれば、「話してもいいよね」と考えてしまう者も出るだろう。

 重要な情報ならば、十数年分、もしくは数十年分のお金を出すと言われれば、ほとんどの使用人が頷くと思う。

 もっとも、一介の使用人がそれほど重大な情報に触れる機会はないのだが。

 そして今回は特別である。
 楽園からやってきた人物。しかも王太子ときた。

 女王陛下はただちに登城している領主や貴族、商人たちのリストを見て、全員を城内へ留めることにしたようだ。
 だれが情報を持ち出すか分からないからだが、そのあおりを喰って、僕も留め置かれた。

 互いに接触を避けさせ、情報が入らないようにさせるだけで、城に働いている者たちを多く使うことになったらしい。

 僕の所に食事を持ってきた使用人が愚痴っていたが、それもそのはず。
 あのとき、本当に人手が足りなかったのだ。

「王太子夫妻は、いまどうしているのでしょうか」
 てっきり、晩餐会でも開いているのかと思っていたが。

「城の一室で休んでもらっているわよ。生活様式がまるで違うから、古代語を話せる者を複数人付けたの」

 慌てていろいろ用意したらしい。
 急な来客にも十分対応できる用意はしてあるようだが、相手は一国の代表者。

 しかも大陸の言葉を話せないということで、かなり気を遣っている。

 そして女王陛下が頭を悩ませているのがもうひとつ。
 まさか、国の代表者が直接交渉にやってくるとは思わなかったので、その準備ができていないらしい。

 ロザーナさんから聞き取り調査をしつつ、楽園の情報を集めているらしい。
 つまり、そこから始めているのだ。

 これについては僕はあまり手伝えない。
 僕が知っている情報も、すべてロザーナさんが通訳してくれたものだからだ。

 楽園――本人たちいわく、カイルダ王国だが、そこと国交を結ぶのか、結ぶとしたらどのような形になるのか。

 いま裏で文官たちがもの凄い勢いで意見を出し合っているらしい。
 そもそも楽園に人がいるのは半々。
 いたとしても村レベルの集落がいくつかある感じだと思っていたようだ。

 王太子夫妻と正式の謁見は明日。
 それまでに方針だけでも固めておきたいと、今夜は徹夜になりそうな勢いらしい。
 うん、僕が怒られる理由も分かってきた。

「それで、僕が呼ばれた理由は何でしょうか」
 まさか怒られるためだけに呼ばれたわけじゃないと思う。そうだといいな。

「そうね、それを忘れていたわ。聞きたいことがひとつと、やってもらいたいことがひとつ……聞いた内容によっては、ふたつになるかしら」

 ここでようやく女王陛下はいつもの調子を取り戻したようだ。

「聞きたいことですか?」
「ええ、そうよ。レオンしか知らないことを直接聞きたかったの」

 僕しか知らないこと? 僕が知っているのは、ほとんどロザーナさんから通訳されたことばかりなんだけど。

「なんでしょうか。僕に答えられることでしたら」
「レオン。あなたが山脈に開けた大穴についてよ」

 あー、あれか。

 そりゃ、僕しか答えられないか。


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