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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 シャラザードが山脈に開けた穴は、巨大なトンネルのようになっている。
 同じ場所に何度も雷玉らいぎょくを叩き込んだ末にできあがったものだ。

 直径が数百メートルもある大穴。
 属性竜ならば飛んで上がることができる高さだが、通常の飛竜では不可能だと思う。

 トンネルの場所は、王領の南。
 僕らは山脈を越えてレスター領にたどり着いた。
 このトンネルが王領にあるのは、バランスが取れていいかもしれない。

 シャラザードもさすがに疲労したようで、今は口数も少ない。

「シャラザード、戻ろう」
『……うむ』

 レスター領にある領主の館に戻り、シャラザードは森へ向かう。

 僕は出迎えた王太子たちに通行可能になったことを告げた。
 目を輝かせて質問してくるが、僕も疲れている。

「説明は明日にしてもらって」

 ロザーナさんに取りなしをお願いして、その日は眠り込んだ。

 翌朝、僕が起きるのを待ち構えていたレヴレアル王太子に捕まり、どうなったのかと顔を近づけてきた。

 この人、本当に王太子だよな。そう思うくらい、好奇心旺盛だ。

「シャラザードの技で穴を空けたと伝えてくれる? これで通行できるようになったけど、まだその先は見ていないから」

 昨日は、僕もシャラザードも疲れていたので、トンネルの先は確認しなかった。

「どうするのかと聞いているわ。王太子としては、すぐにでも外の世界を味わってみたいんですって」

「まだ、どこに出たのかも分かっていないし、安全が確認できてないって伝えてくれる?」
 ロザーナさんが通訳をしているが、ときおり困った表情をみせる。

「それでも構わないって言っているわ」
「マジで?」

 安全が確認できていないと言っているのに……。
 王太子はどうやら本気らしい。

 危険はないはず……だと思うが、万一ということもある。

 僕が渋い顔をしていると、同じ顔をしているのがもうひとりいた。
 領主のレスターさんだ。

 どうやら安全面もそうだが、王太子がひとりで僕らと出かけるのに反対らしい。

「高齢の国王がいつ身罷られるか分からないから、跡継ぎをここで失いたくないようね」

「そう言うなら、止めてくれればいいのに」
「苦い顔をしているけど、難しそうね」

「ここに本人を止められる人がいるのかな」
「いないわね。……ということで、お目付役が必要と考えたみたい」

 やってきたのはアプリさんだ。
 アプリさんは僕らと最初にコンタクトを取った人で、シャラザードのこともよく知っている。
 結婚して家を出ていったが、領主の娘という血筋は、王太子と同行するのにも問題ない。
 そしていま、重要な仕事をしていないことが決め手になったようだ。

「まあ、アプリさんもそれでいいなら僕も反対しないけど」

 次善の策ということだろうか。
 結局、レブレアル王太子夫妻とアプリさんを乗せて、山脈の外へ出ることが決まった。

 そう、王太子夫妻が同乗するのだ。
 本当にそれでいいのだろうかと思ってしまう。

 そして……。



「マジか! こんなところに出るなんて」

 山脈の外は海だった。遙か下方に海面が見えるのだ。

「やっぱり海……こうなるかとは思ったのよね」
 驚く僕とは対照的に、ロザーナさんは予想していたようだ。

 技国から西へ行くと、竜でも越えられないくらい高い山があるのは知られていたらしい。
 そして、僕らが最初にいた根拠地は、商国と技国の国境から西に行ったところ。

 そこから南に向かって進んだので、どう考えてもそのうち海に出る位置に来ていたらしいのだ。

「そういえば『楽園』は涼しかったけど、あれも高地にあったせいか」

 技国は竜国に比べてかなり南にあり、気温も高い。
『楽園』はどちらかというと、竜国と同じくらいの気温だった。
 楽園が南方の高地だったために、結果的にそうなっていたのだろう。

「海に出たということは、このまま技国に入ることができそうね」
「だったら、アンネラと合流しようか。僕らが戻ってくるのを待っているだろうし」

 山脈を迂回するように進み、技国に入る。
 少しして天蓋山脈の中へ入っていく。
 こうして半日以上かけて、僕らはアンネラとターヴェリたちがいる根拠地に到着することができた。


「本当に楽園があったんですか?」
 僕の説明を受けて、驚いたのはアンネラだ。

 僕が別の出口を作って、帰ってくるとは思ってなかったらしい。

「一応ターヴェリも出入りできる高さだから、あとで場所を教えておくね」

 シャラザードと僕は、『潮の民』を捜索するときに使った方法で、かなり正確に距離を測ることができるようになっていた。
 間違いなく、トンネルを作った場所へたどり着くことができる。

「楽園! お父さんが見つけたっていう、場所ですよね。私も見てみたいです」
 楽園が見つかったことで、アンネラは感無量とばかりに、涙を流した。

 楽園をめぐる騒動で、アンネラの商会員が誘拐されたり、アンネラ自身、学院から出ずに隠れていたこともあった。

 もともとは『魔探』の残した暗号が発端だったわけで、自分の父親が何を見て、何を考えてそれを残したのか、確かめてみたいのだろう。

「あとで必ず連れて行くよ。楽園の人たちは、みんな穏やかだしね」

 閉鎖された狭い世界で相争うと、全滅の危機がある。
 それを本能的に分かっているのか、数百年の間、ほとんど争いらしい争いを経験していないようだ。

「レオン先輩、ありがとうございます。……でも最初は、この方々を王都に連れて行くんですよね」
「うん。間違いなくそうなるね」

 王太子はターヴェリに霧中になって、ロザーナさんを困らせている。
 奥さんのサーミナさんはニコニコした表情を崩そうとしない。

 王太子を通訳しているロザーナさんは、竜の説明に困っているようだ。
 どうやら竜国にいる竜はみんなこんなに大きいものだと思っているらしい。

 そこをしっかりと説明したが、実際に見たのがシャラザードとターヴェリでは、説得力がなくなってしまう。

「それで商国の状況はどう? 何か分かった?」

「移動する人影を見ることはありますが、もっとずっと下の方を移動していますので、私たちに関わることはないと思います」

 この根拠地は、山脈のかなり高い場所に作られている。
 山脈の低い場所を選んで移動しているならば、ここへはたどり着けない。

 時間と手間をかなりかければ可能かもしれないが、そうはならないだろう。
 よほどのことがない限り、見つかるとは思えない。

「そっか。よかった。僕は王太子を王都に連れて行くけど、アンネラはどうする?」
「一緒に行動します。楽園を見つけるのがここの仕事でしたので、見つかったならば、報告しなければなりませんので」

「そういえば、そうだったね」

 僕よりもずっと前からアンネラはここで楽園探しをしていたのだった。
 最初はソウラン操者と組んでいたらしいし。

「じゃ、一緒に行こう」
「はい」

 さて、問題は移動だ。
 この根拠地から王都まではかなりの距離がある。

 僕やアンネラはあまり気にしないが、客人を長時間竜に乗せるのはよくないと言われている。

 といってもこの楽園関連は、極秘の任務だ。
 共通語を話せない謎の外国人が、どこぞの領主の館に泊まったなんて話が広がっても困る。

 仕方ないので、王太子とアプリさんに事情を話して、一泊だけ野宿をお願いした。
 ちなみに王太子は喜んでいた。野宿は初めての経験らしい。それはそうか。

「竜操者用の宿泊施設が近くにあれば良かったんだけどね」
 陰月の路から遠く離れたここでは、そんなものはない。

 それでも道中、王太子もアプリさんも文句ひとつ言わずに従ってくれたのは助かった。

 結局、根拠地を出発して野宿で一泊。都合二日かけて、僕らは王都に到着した。

 僕らは竜国どころか、大陸全土を揺るがす客人を連れてきたことになる。

 今からそれを報告するのだけど、久し振りに緊張している。


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