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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 王領からやってきたのは、国王の息子で王太子のレヴレアル・カイルダとその妻のサーミナ・カイルダの二人。

 初っぱなから大物が出てきた感じだ。

 ロザーナさんが額に汗をかきながら、応対している。

 横で聞いている僕には、彼らが話す内容は分からない。
 だが、口調や雰囲気から、とても興奮しているのが見て取れる。

「レオンくん。ちょっといいかしら。休憩を取ったので、少し話したいわ」
 一通りの説明が終わったところらしい。ロザーナさんがやたらと疲れている。

「どんな感じ? 向こうは乗り気のような雰囲気を感じたけど」

 外の空気を吸いたいと言って、僕とロザーナさんは館の外をブラブラと歩いた。
 僕らが話す言語は、楽園の人たちに理解できないので、ここで大っぴらに話してもまったく問題ない。

「王太子は国王から全権の委任をもらっているみたいね。というよりも、彼が国政を仕切っている感じかしら」

「全権の委任……王は高齢だと言っていたし、それもありなのかな」

「そうね。それで王太子の人柄は……なんていうのかしら、好奇心旺盛な猫みたい?」
「というと」

「何にでも食いついて、首を突っ込みたがる感じね。領主のギュレイさんがときどき修正をかけていたけど、あれは王太子の性格を知っていたわね」

 休憩する直前の話だと、レヴレアル王太子の興味は外の世界やシャラザード――つまり竜に向いているらしい。

 しかも、相当せっかちらしい。
 人づてでは我慢ならないとばかりに、自らやってくるくらいの腰の軽さ。

 気になったものは自分で調べないと、気が済まないらしい。

「好意的な雰囲気は伝わったし、王太子が来てくれて結果的によかったと思うんだけど」

「ところがね……向こうが言い出したことがいくつかあって、どう答えていいか悩んでいるのよ」
 対応マニュアルにはなかったことらしく、その辺を僕と相談したいとのこと。

「ロザーナさんが決断できないことなら、僕も同じだけど」

「だからふたりで考えましょう。……ということで、一つ目は国交に関することね。カイルダ王国としては、竜国と国交を結ぶことは賛成。というか、大賛成みたい」

「いいことだね。そこまですんなりいくとは思わなかったし」
「それで、早速竜国に連れて行ってくれと言っているのよ」

「だれが?」
「王太子夫妻ね。シャラザードに乗って山脈を越えたいらしいわ」

「安全性を考えたら、どうだろう……」
 それは考えてなかった。

 現地人――ここでいう楽園の人を連れて戻る可能性は考えていた。

 けれど、国の王太子。しかも国王から全権を委任された人を乗せるのか。
 できれば遠慮させてもらいたい要望だ。

「二つ目は、新しい物の流入……これは住民も含めてだと思うけど、文化や生活様式など、ここにはないものを積極的に取り込みたいらしいのよ。それも今すぐ」
「今すぐ?」

「父親……国王のことね。それが存命の内に新しいものが導入された社会を作りあげてみたいのですって」

「なんでまた……国民の理解を得ずに、どんどん改革を推し進めるつもりなのかな」

「すでに長い停滞の中にあって、何百年も前から全然進歩していないらしいわ。そのせいで人の数も緩やかにしか増えていないし、新しい何かをやろうとする人がほとんど出てこないみたいなのね」

 各領の人口は数万人と、僕が思ったよりも多い。
 それでも生活するのに十分とは言えず、様々な職業の人が最低限の人員しか揃っていないと思われている。

 ここにいない職人など、物と人の流入で活気づかせようと考えているらしい。

「それで今すぐか。さすがに返答に苦慮するね」
 行き来が可能かどうかすら未知数なのだ。
 多くの物や人を導入して、新しい便利な社会を作りたいと言われても、何がどのくらい必要なのかも分からない。

 つまり、これもまた安請け合いできない問題だ。

 というか、レスター領にやって来た『魔探』は、徒に新しい文化を流入させず、ゆるやかな発展を考えていたのではなかろうか。

 ああ、だから王領にも知らせなかったとか?
 十数年前のことだから、当時王太子は二十代後半。

 性格が十代の頃から変わっていなければ、先代のレスター領主は、指針が立つまで王領に知らせない方がいいと考えたのかもしれない。

「そして三つ目ね。空いている土地はいっぱいあるので、食糧生産のための開墾は問題ないって。自由に使っていいそうよ」

「それは朗報だね。数年後に作物が収穫できれば、飢える人は減るし」

「代わりに竜国内に租界そかいを欲しいそうなの」
「あー」

 租界とは自治区のようなものだ。
 竜国の中に『楽園』の法によって維持できるような区画。ようは飛び地が欲しいと言っていることになる。

 これらすべて、僕らでは答えようがない。
 というか、竜国に持ち帰っても、早晩答えが出ないものも含まれている。

「どうしたらいいと思う?」
「……本人を連れて行った方がいいかな」

「やっぱりそうよね」
「微妙な問題だし、メッセンジャーが行き来するよりマシだと思う」

 要望を受け取って僕らが持ち帰る。
 竜国内で話し合ったものをまたここへ持ち込む……それならば、王太子に来てもらった方が早く済む。

 山脈を渡るのに、安全上の問題が克服されていないが。

「それとね。シャラザードを見たい……いえ、乗ってみたいらしいのよ」
「それはまた……」

 勇気ある……もしくは無謀な。

 シャラザードに乗せるのは問題ない。
 興味を持ってくれて、それで怖がらないならば。
 今まで竜を見たことがないこの国の人が、どう反応するのかも気になるし。

 休憩を終えて館に戻った僕らは、やたらとテンションの高い王太子に出迎えられ、話し合いが再会された。

 難しい問題には何一つ回答できなかったが、王太子も無理強いすることはなかった。

 ホッと胸をなで下ろしていたら、シャラザードに乗って問題ないようならば、王太子も山脈越えに挑戦してみることが決まってしまった。

 王太子はどうしても、自分が最初に山脈越えを果たしたいらしい。


 そのため明日の朝、シャラザードを呼び寄せることになった。

 王太子を乗せて、国内を何周かすれば満足するのではないか。僕はそう考えている。

 それで済む……はず。


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