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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 十年以上前、『魔探またん』デュラル・ディーバがこの地にやってきた。
 彼が最初に出会ったのは、年端もいかない少女だったアプリ。

「おじょうさん、おうちの人はどこかな」
「◎■#%○?」

 その邂逅は不通に終わったという。

 デュラルはしばし考えて、紙にいくつかの文字を書いた。
 それを少女――アプリは不思議そうに眺めた。

 紙に書かれた文字らしきものが羅列されるも、少女が分かるものはほとんどなかった。

 促されて、アプリはその中で知っている文字列を指で示す。
 そこでデュラルは何かを呟いたようだが、何を言ったのかアプリには分からない。

「おそらくデュラルは、古代語かと驚いたのでしょうね」

 大陸では共通の言葉が使われているが、それでも国が違えば、微妙な違いもある。
 過去に遡れば、もはや使われていない言語もいくつか存在していた。

 デュラルとて、まさかここで古代語が使われているとは思わなかったであろう。

「ということは、『魔探』とは会話が成立しなかったわけだよね」
「そうでもないのかも。レオンくんだって、いくつか古代語を知っているでしょ」

「えっ? ロザーナさんに習った挨拶くらいならできるけど」
「故事成語とか、含蓄がんちくのある古い言葉とか、今でも使われているわよね」

「ああ……でもあれ。今の言葉に直されているよね」
「たしかに純粋な古代語ではないわね。それでも元の意味を勉強していれば、古代語で書くことくらいできると思うの」

 高度な教育を受けている人などは、対語訳を作って丸暗記している場合があるそうだ。
 ロザーナさんが言うには、デュラルは筆談である程度の意思疎通を図ったのではないかということだった。

 少女だったアプリは祖父――つまり、先代の領主にデュラルを引き合わせたらしい。

 その後も何度かアプリとデュラルは会ったようで、最後は片言くらいならばデュラルも話せるようになっていたという。

「というわけで詳しい事情を領主に聞きたいと思うのよ」
 魔探がここで暮らしていたならば、僕らが領主と会っても危険は少ないかもしれない。

 最初は敵対される場合も考えていたが、話を聞く限り、ここの人々は争いもなくおだやかに暮らしている。

「分かった。僕もそれでいいと思うけど……アプリさんに紹介を頼むんだよね」
「ええ。冗談じゃないことを知ってもらうため、いくつかの品を持たせた方がいいと思うの」

 僕らも敵対する意志はないと証明するため、こちらで珍しいそうなものを見繕って持たせることにした。

「それと……これも入れておくわね」
「あー、うん」

 領主に持たせる品のなかに、ルッケナ商会で売れ筋の商品――『手乗りシャラザード』の木彫り人形も入れた。

 説明をはぶくためにもいいかもしれない。

 そうやっていくつかの品をアプリさんに持たせた。
 人目を避ける意味もあって、僕らはここで野宿する。

 レスター領では地域ごとに村落があり、村内はもちろん全員顔見知り。
 あまり見知らぬ者がやってこないそうなので、トラブルを避ける意味もあって、僕らはここから動かないことにした。

 ちなみに夜のうちにこの楽園の大きさを知るために、シャラザードと一緒に端から端まで飛んでいる。

 灯りが少なくて、詳細な部分までは分からなかったが、楽園周辺はすべて越えられない高さの山で囲まれていた。



 そして翌朝。
 アプリさんが数人の人を連れてやってきた。

 とくに警戒もなく出迎えた。
 武器を所持していなかったし、戦闘どころか、運動も苦手そうな人たちばかりだった。

「領主とその側近らしいけど……」
「おじいさんだね」

 領主のギュレイは壮年……これはいい。
 側近の二人はかなり高齢で、僕らの前に立っただけで呼吸が荒い。
 なんで連れてきたのだろう。

「運動不足かな」
「狭い土地を領主が仲良く分け合っているみたいだし、普段は遠くまで歩くこともないのかしら」

「なるほど」
 森を歩いて抜けるなんて、普段していないのかもしれない。

 ちなみにシャラザードはここから離れた場所で隠れてもらっている。
 存在は知らせてあるが、怖がらせるといけないのだ。

 応対はロザーナさん任せ。
 僕はニコニコしながら、目を光らせているだけだ。

「魔探のデュラルのことは覚えているそうよ」
 ギュレイさんは、当時まだ領主になっていなかったので、父親が主に対話したらしい。

「どんな様子だったか、聞いてくれる?」

「昔は、洞窟を抜けてここから外へ出た人たちがいたみたいね。けれど、何もないから行く意味はないって、外への関心を失ってしまったらしいの」

 洞窟を抜けるだけで二日間、慣れていないと三日間くらいは移動するらしい。
 全長が十キロメートルくらいかと予想していたけど、二十キロメートルくらいありそうだ。

 途中、上ったり下りたりもするらしいし、洞窟を抜けるのは相当大変だろう。
 数メートルも崖があれば、それだけで越えるのは一苦労だ。

「洞窟の外に痕跡があって、それでデュラルはやってきたみたいね」

 背負ってきた荷物の中で壊れたものや、持ち帰ろうとして諦めたものを捨てる場所が洞窟を出たところに存在しているらしい。

 デュラルは山岳歩きのときにそれを見つけて、「ここにあるのはおかしい」と考えて洞窟に注目したようだ。

 洞窟自体がかなり長く、しかも途中で枝分かれしているため、かなり苦労してたどり着いたのではないかとのことだった。

「運が良かったのかな」
 正解の道は一本だけなのだから、たどり着けないか、諦めるかする可能性の方がよほど高かっただろうに。

「何かあると確信したのだから、もしかすると数ヶ月かける覚悟で臨んだのかもしれないわね。……それでこっちで言葉を覚えながら一ヶ月くらいここに滞在したみたいよ」

「手記とかスケッチが残されているんだよね。すると、このレスター領について書いたやつかな」

「そうみたい。最初は王領へ知らせて、そちらへと先代の領主も思ったそうなのだけど、デュラルがそれを頑なに拒んだみたいなの。国が開かれると、良いことも悪いことも入ってくるって」

 竜国、魔国、商国、技国。
 この四つの国以外にもうひとつ見つかった。
 そうなった場合、この国はどうなってしまうのか。

 デュラルはそれを心配したのかもしれない。

「それじゃあ、王領には話が通っていない?」

「そうみたい。デュラルも一旦戻って仲間を連れてくる。それで今後を話し合おう、そう言っていたらしいわ。けどデュラルが帰って、しばらくして地揺れがおこったのね。洞窟の中が一部崩壊したみたい。少しずつがれきを退けていたのだけど、ひび割れたところからガスが出てきたらしくて、それが洞窟の下層部に溜まって倒れる人が出たのね」

 これではだめだと、洞窟を立ち入り禁止にしたらしい。
 もちろんデュラルもこれでは来ることができない。

 いつしか時が流れて、領主もいまのギュレイに変わって……外からやってきた者を知る者も少なくなった、そんなときに僕らが現れたらしい。

「今日、領主のギュレイさんと一緒にやってきた人たちは、先代に仕えていた人たちらしいのよ。ギュレイさんよりも当時のことをよく知っているみたい」

「あー、なるほど」
 運動不足のおじいさんとか思って、ごめんなさい。

 おじいさんたち、ちゃんとここに来る理由があったわけだ。


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