挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

541/655

540

 僕らがいる場所は『楽園』でほぼ間違いない……と思う。

「それで、アプリさんは?」
 ロザーナさんが森から一人で戻ってきたのだけど。

「お昼を食べに戻ったわ」
「あ……」

 そういえば、忘れていた。

「僕らもお昼にしましょう」
 腹ごしらえは大事だ。
 何があるか分からなかったので、携帯食を多めに盛ってきている。今回はそれを食べよう。
 さすがに火をおこして料理をする気になれない。

 シャラザードの背中から携帯食を持ってきた。
 今日のお昼は、乾燥させて日持ちをよくした果物と、生で食べられる野菜。塩漬けの肉と、煎った豆だ。

 竜操者用の堅いパンもあるが、あまりおいしくないので今日は止めることにする。

「アプリさんは私たちのことは他の人に知らせないでいてくれると約束してくれたわ」
 豆をポリポリと口の中で咀嚼しながらロザーナさんは言った。
 できれば、食べるか話すかに集中してもらいたいものだ。

「たぶんその方がいいと思うけど、これから先、どうしよう」
 せっかく友好的な人に出会えたのだから、できればいろいろと協力してもらいたい。

「どうしても一度戻らないといけなかったみたいね。午後に来てくれるそうよ」
「それなら安心かな」

 あとで軍を率いてやってこなければだけど。
 シャラザードの巨体を見て、「戦えば勝てる」と判断するとは思えないが。

 念のため、周辺を捜索しておくか。
 とするとロザーナさんはシャラザードの背に乗っていてもらった方がいいかな。

「シャラザードが飛ぶと目立ちそうなんで、僕だけ少し周囲を見回っておきたいんだけど、いいかな」
「そうね。私はどうしたらいいかしら」

「肉食の獣がいるかもしれないし、攻撃的な人がやってくるかもしれないから、ロザーナさんはシャラザードの上で待機してもらいたいんですけど」

「初めての地だし、気を抜くものではないわね。分かったわ。私は背中で待ってる」
「ありがとうございます」
 これで安心だ。

 少しの間だけど別行動するので、事前にいくつか取り決めをしておいた。
 ここへ人がやってきても、ロザーナさんはシャラザードから絶対に降りない。
 会話はしてもいいけど、姿を見せない。

 シャラザードは敵意に敏感なので、何かあったらシャラザードに任せると伝えた。

「レオンくんの方は大丈夫なの?」
「僕は見つかる前に逃げるので大丈夫です。それと、アプリさんが来る前には戻ってこようと思いますので、心配しないでください」

「気をつけてね」
「はい。じゃ、行ってきます」

 僕はそのまま森に入った。
 森の中はやや薄暗い感じだが、木と木が密集しているのではなく、適度に伐採されているのが見て取れた。

「ここまで人の手が入っているわけか」

 影に潜ってもいいのだが、思ったよりも光が差し込む場所が多い。
 かえって身動きが取れなくなりそうだ。

 いくつか分かったことがある。
 人の手が入っていることから、集落もしくは家などが近くにありそうだということ。

 こんな山のぎわまで木を伐りに来ていることから、楽園には木材の需要は多くても、供給できる木はそれほど豊富ではないということ。

「そういえば、シャラザードに乗っているときに見たけど、平地の中に森のような場所は少なかったな」

 木よりも草地や土がむき出しになっている場所の方が多かった。
 高い位置にあるせいか、雑草も立派なものではなく、細くて頼りなさそうな植生だった。

「……森が切れた」
 そっと木の陰から森の外を覗く。

 道と川、それに畑のようなものが遠くに見えた。
 石造りの家がいくつかと、材木置き場が複数確認できた。

「アプリさんが森から来たけど、なるほどこういうことか」

 僕がゆっくり歩いて三十分程度で森を抜けた。その程度の大きさしかない。
 ただ、山脈に沿って森ができていたため、横の広さはそれなりだろう。

 森から出ないようにして、森の中を少し調べてから僕は戻った。

 しばらく待っていると、アプリさんがバスケットを持ってやってきた。
「余った軽食を持ってきたと言っているわ」

 アプリさんの旦那は、カムロ・ロイルスと言って、竜国風に言えば材木商にあたるそうだ。

 ここの領主の森もそうだが、基本的に森と名の付くものはすべて、誰かしらの持ち物になっていて、そこに入って木を伐り、木材を提供するのがこの国の材木商の仕事らしい。

 アプリさんとは、領主の森の使用許可を得たときに知り合ったという、どうでもいい知識まで教えてくれた。
 これらはみなロザーナさんが通訳をしてくれたものだ。

「それでレオンくん。現地人がいた場合のマニュアルがあるのだけど、その中でも少し変わった選択ができそうなのよ」

 楽園対応マニュアルは僕も読んでいる。

 マニュアルは中身がいくつにも分かれているが、書かれている内容の大半は、出会った人からできるだけ情報を集めて持ち帰るというものだ。

 ただし、社会的な生活――これは村レベルから国家レベルまでさまざまだが、そのトップと交渉できる場合、採るべき手段がいくつか書かれている。

「えっと、竜国との友好を結べるように行動するだっけ?」
「そう。一応贈り物も積んであるのよね」

 まさかそれを使うことになるとは思わなかったけどと、ロザーナさんは苦笑いした。
 なにしろアプリさんは、結婚したもののこの地方の領主に連なる人間だ。

 狭い場所の社会なので、アプリさんは国王とも面識がある。
 話の持って行き方を誤らなければ、短期間で王との謁見までこぎ着けられそうなのだ。

「僕ら、運がいいってことかな」
「そうね。ここまで想定していなかったもの」

 ここはレスター領。
 その隣に国王の住む王領があり、領主のレスターから話を持っていってもらえば、間違いなく王と会えると思う。

「アプリさんを拉致って、直接王領へ乗り込みましょう」
「それはやめて!」

 もっと穏便な方法でいこう。

 というか、ロザーナさんって最近丸くなっているけど、僕が出会ったとき、やらかして謹慎中だったんだよな。

 久々にその頃の肉食獣ロザーナさんを思い出してしまった。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ