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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 王城で訓練をするとは思わなかった。

「私が花屋をやっているって知っているわよね」
 僕は頷いた。

「私の実家は植木関連の仕事をしているの。祖父は王城の庭師……で、そこにいるわ」
 ひときわ大きさ殺気を撒き散らしている老人風の男。

 どうやら、ここの庭師らしい。

「なんか、めちゃくちゃ睨まれているんですけど?」

「今日ここに集まってもらったのは、〈左手〉の中でも城の外郭を守る人たちなの。レオンくんはいつも素通りしちゃっているから、会ったことないと思うけど」

 それなら会ったことないな。

 あー、これなんて挨拶すればいいんだ?
 いつもお世話になっています……じゃないよな。

 この人たちも真面目に警備の仕事をしているのだろうけど、ちゃんと挨拶して通るの面倒なんだよな。
 神経を逆なでしないように、ここはひとつ友好的な挨拶がいいだろう。

 いや、それだけじゃ足らないな。
 加えて、みなさんの負担にならないように頑張りますってのはどうだろう。
 そんな感じの挨拶でいいよな。

「あー、いつも気づかなくてすみません。今後とも気にしなくていいので、よろしくお願いします」

 なぜか、これ以上ないくらい殺気が膨れあがった。

「……この状況下でそれだけ言えるとはさすがね」
 相手への気遣いのことだろうか。

「いえ、当然のことを言ったまでですから」
 なんだろ、さらに殺気が増えた?

 お姉さんは、お姉さんで頭を抱えているし。
 頭痛持ちだろうか。

「このままだと殺し合いがはじまりそうだから、早速訓練をしましょう」
「何をするんです?」

「協力してくれる〈左手〉のみなさんが城の外から侵入してきます。レオンくんがそれを感知したら、拘束するか無力化する訓練よ。場所はこの王城の庭すべて。いいかしら?」

「いいですけど、いつまでやればいいんですか?」
「全員が捕まるか、だれか一人が内郭のどこかに入るまでね」

 勝利条件が明確になった。
 全員というと……ここに集まったのは五人だ。
 彼らを捕まえればいいわけだ。

「五人ですか。大丈夫だと思います」
「そう。自信ありそうね。じゃ、〈左手〉のみなさんは一度、城の外へでてもらって、私の合図でスタートね」

 五人が軽い身のこなしでこの場から消えた。
 さすが王城を守る〈左手〉である。動きに無駄がない。

『よーい、はじめ!』

 物見の塔に登ったお姉さんが、始まりの合図を告げた。

 さて、敵は五人、こっちはひとり。地の利も向こうにある。
 どんな方法でくるかな。

 五人がバラバラに一斉にやってきたら、ひとりくらいは抜けられるかもしれない。
 けれど、彼らにもプライドがある。そういう勝ち方は嫌うはずだ。

 たぶん最初は様子見でひとりを先行させ……ってほら来た。

 木や岩やオブジェなど、死角になりそうな場所を把握しているらしく、うまくこちら側から見えない位置を通ってやってくる気配があった。

 闇に隠れて移動すると、どうしても闇が動く。
 僕はそれを感知するだけでいい。簡単なお仕事だ。

「まずはひとりっと」

 そっと木の陰に身を寄せた相手に抜き身の剣を突き付け、手足を拘束する。
 動けなくしたところで闇に沈め、お姉さんがいる塔の下に転がした。

「あと四人」

 一人目は簡単に確保できたが、さて次はどんな手で来るのだろうか。

 待っていると、性懲りもなく暗闇づたいに動く気配があった。
 同じ手で来るのかとそちらへ向かおうとすると、遠く離れた場所から奇妙な気配を感じた。

「……陽動か」

 一人目と同じ潜入方法で来たと見せかけて、本命は別の場所から最短距離で移動したらしい。
 速度重視だ。ある程度気づかれてもいいと判断したのだろう。

 いまから走って向かっても間に合わない。
 僕は闇に溶けた。

「……ほい、追いついた」

 なぜか分からないが、僕は闇を渡った方が全力で走るよりも早い。

 相手の足首を掴むと、ギョッとした顔をこちらにむける。
 足首をもったまま闇に沈めて、暴れるところを押さえつける。

 首筋に手刀を当てて、グッタリしたところで一人目の隣に転がしておく。

「さて、もう一人いたよな」

 僕が二人目を無力化したところを見たのだろう。
 慌てて内郭に入ろうと、全速力で移動するのが見えた。

 王城の〈左手〉は経験不足なのだろうか。
 見つかった時点で離脱しないのが信じられない。

 僕ならば、一度外へ出てリセットするのだが。

 もう一度闇に溶けて、なんなく追いつく。
 結局三人目もすぐに無力化できた。

「あとふたりか」

 順調である。
 順調すぎると言っていい。
 大した苦労もなく、三人も無力化できてしまった。

「……ふむ」

 しばらく待ったが、やってくる気配はない。
 探しに行こうかと思ったが、それでは訓練の意味はない。
 今回は、待ちの姿勢で襲撃してくる相手を見つけて無力化する訓練なのだ。

「どうしたものかな」

 退屈だ。
 そんなことを思っていると、またもや違和感を抱く。
 どこかで闇が動いた。

 どこだ?
 視線を巡らすが、それらしきものはない。

 今度は本格的に隠れているのか?
「いや……上だ」

 いつ準備したのか、木と布を張り合わせて、空を滑空する影があった。
「また面白いものを……でも、届かないな」

 このままでは、城の上部にたどり着かれてしまう。
 内郭に入られたら負けなので、それはまずい。

「仕方ない。……アレを使うか」
 僕の魔道のひとつ。

 闇の中から刃を出す『闇刀やみがたな』を滑空する相手に振るった。
 周囲が真っ暗闇でよかった。この暗さならだれにも見られないだろう。

 黒い布を切り裂いたら、きりもみ状態で落下していった。
「あれは拘束する必要もなさそうだな」

 身体を強く打ち付けたらしく、しばらく起き上がれないようだ。

 そして最後のひとりは、塀を越えたところを拘束した。
 万策尽きたらしい。

 最後はお粗末な侵入劇だった。


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