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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 冷たい風を浴びながら、僕は天に向かって伸びる山の頂を見つめた。
 高く上がりすぎたらしく、かなり息苦しい。

 口を大きく開いて思いっきり息を吸い込んでも、気休めにしかならない。
「ここまでか。シャラザードはどうだ?」

 頭がぼーっとしてきたら危険な兆候らしいので、シャラザードに言ってもう少し高度を下げてもらう。

『我とて主よりは耐えられるが、それだけだ。呼吸が苦しくなれば同じだぞ』
 シャラザードの力をもってしても、山の頂を越えることができないことが再確認できた。

 ゆえに、これからターヴェリの力を借りる。

「レオン先輩、どうでした?」
「思った通り、越えられないね」

 もちろん分かっていたことだが、それでも確かめておきたかったのだ。
 もし山を越えることができずに途中で放り出された場合、僕とシャラザードはどうなってしまうのか。

 ロザーナさんも同行している。彼女の安全を僕が守らねばならない。

 もし失敗したら、一度下まで下りねばならない。
 その前に気を失ってしまうかもしれないという恐怖がある。

 今回、限界まで上ったのは、失敗したときにどこまで下りればいいのか、目安が欲しかったのだ。

『準備はいいのかい?』
「ターヴェリさんが、大丈夫なようなら始めると言っています」

「ロザーナさんは大丈夫? 気分が悪いとかない?」
「私は大丈夫よ」

「シャラザードはどうだ?」
『我は問題ない。こんなもの余裕だ』

 ロザーナさんもシャラザードもやせ我慢ではなさそうだ。

「大丈夫みたい。アンネラ、始めてくれ」
「はい。ターヴェリさん、お願いします」

 ターヴェリの属性技『大嵐渦だいらんか』は、非常に強い竜巻を発生させることができる。

 あまりに強力なため、中に入れば際限なく飛ばされてしまう。
 それを利用して、山脈を越える。


 目の前に風の渦が迫ってきた。
「シャラザード、翼をたため!」
『あい分かった』

 シャラザードが翼をたたむと同時に、身体が回転をはじめる。
 傷つけないよう手加減するとアンネラは話していた。

 だが、急回転しつつ、一気に加速する様をみると、本当に手加減ているのか疑わしくなる。

「わぁあああああああ」

 視界がぐるんぐるんする。
 シャラザードは翼をたたんでいるので、風の渦からもう逃げ出せない。

 ゆえに……

「あああああ……」

 大嵐渦の威力が弱まるまで、僕らは飛ばされ続けた。

 ………………

 …………

 ……

「……ハッ!」

 少しの間、気を失っていたようだ。

「ここは!?」

 景色は変わらない。天蓋山脈の山々が連なっている。
 背後を見ると、見上げるような山の連なりがあった。

「越えたのか……って、落ちてる。シャラザード! 起きろっ!!」

 シャラザードが滑空している。
 それがだんだん急角度になりはじめている。このままでは山にぶつかってしまう。

『……ん?』

 シャラザードが慌てて翼をはためかせ、落下が緩やかになった。

「起きたか、シャラザード」
『ん? ああ……』
 シャラザードもまた、一瞬気を失っていたらしい。

 途中息が苦しかったので、そのせいかもしれない。
「これ、あまり多様できないな」

 何度もやると、危険な感じがする。

「ほんとうにあの高い山脈を越えたのね」
 ロザーナさんが感心している。正直僕も驚いた。
 やればできるのだ。

「じゃ、進みます。シャラザード、頼む」
『あい分かった』

 他に高い山脈はない。あとはシャラザードにとっては越えられる高さばかり。
 周辺に注意してもらって、ゆっくりと飛んだ。

『主よ、平地が見えたぞ』
「本当に?」

 山を三つ越えたところで平地が広がっていた。

「あれが楽園?」
 ロザーナさんが身を乗り出している。

「そうなのかな。少なくともここはまだ天蓋山脈の中だし……」
 目の前に平地がある光景が信じられない。

 だが、確実に平らな大地が広がっていた。
 これが『魔探』が見た景色だというのか。

「下りてみましょう」
「そうですね。シャラザード、近くに着陸してくれ」
『うむ』

 山の斜面にそって移動し、手近なところで下りてもらった。

 ロザーナさんと一緒に大地に降り立つ。
 気が急いて仕方がない。

「ここは楽園……でいいのかな」
「調査はあとでいくらでもできるわ」

 まずは……とロザーナさんは地面を触ってみる。
 僕も一緒に触ってみた。

「山脈にある石や岩とは違うわ。ちゃんとした土ね」

 たしかに今まで触ったどの場所とも違っていた。
 天蓋山脈は大部分が岩石や砂などでできていた。

 山脈の中にも、ときおり土が滞積している場所があって、そういう場所では少数ながら人が暮らしている。

 ここは見渡す限り、平地が広がっている。
 これがすべて土でできているならば、たしかに楽園と呼んでもいいだろう。

「草も生い茂っているけど……ここって結構高い位置にあるわよね」
「山脈の中だし、たぶんアラル山脈の頂上付近くらいはあるかも」

 竜国と商国の間にそびえ立つアラル山脈。
 一応、小型の飛竜でも越えられるくらいの高さだ。

 あそこの頂上の高さにこの大地があるのではないかと思う。

「だとすると、かなり高所。……そのわりには植生しょくせいは豊かね」
 草や木がこれでもかと生い茂っている。

 振り返れば、後ろはかなり高い山だが、それはもとから山が高すぎるからだろう。

『だれかくるぞ』
 シャラザードが気配を捉えたようだ。

「まさか!? 人なの?」

 驚愕するロザーナさんにぼくは「しっ!」と手で制し、シャラザードの陰に隠れてもらうよう促した。

 近づいてくるのは、敵意を持った者かもしれない。
 腰の小剣を確認し、木々の一角に目を凝らす。

 ――ザザッ

 足下の草をかき分けて、二十代か三十代くらいの女性が現れた。
 戦闘に適した服ではない。下町の人が着るような足首まであるやぼったいタイプのワンピースだ。

 その女性は、ぽかんとした顔でシャラザードを凝視していた。


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