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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 商国がもし楽園を先に見つけたら、どうするのか。

「これは予測でしかありませんが」とヨーサリィさんは前置きした上で、考えを語った。

「楽園に人がいない場合、商国は間違いなく領土宣言するでしょう」
「領土宣言……」

 領土宣言と聞くと、天蓋山脈のアレを思い出させる。

「ご存じのように、商国はつい最近、同じようなことをしました。あれは布石です。自国の領土として宣言した場合、他国がどう反応するのか、事前に確認したかったのでしょう」

 なるほど。突然の領土宣言はかなり不自然だった。
 あれには、そんな意図が隠されていたのか。

「あれは唐突でしたね。しかも天蓋山脈の中という、かなり不便なところだったし。なんでわざわざと思っていましたけど」

「あそこは勝手に使っても、誰も文句を言わない場所でした。というよりも、使うに際してどこにも断りを入れる必要の無い土地でした。それを敢えて領土宣言して、各国の注目度合いをたしかめ、どういった反応をするのか情報を集めたのです」

 国だけではない。
 それぞれの国民の考えもあれである程度分かっただろうとヨーサリィさんは言った。

「でもおかしいわね」
 ところが、ロザーナさんの顔が険しい。

「どうしたんですか、ロザーナさん」
「あの領土宣言は、楽園を自分たちのものにするための布石と言ったわよね」

「おそらくですが、間違いないと思います」
「ならばなぜ、竜国はそれを認めたのかしら」

「ん? 商国に抗議したんじゃないの?」
 そう聞いている。

「形だけは抗議しておりますね。その後、商国から法的になんら問題ないという回答が届いております」

「それで竜国の反応は?」
「そのままです。再度抗議はしておりません」

「どうして?」
 ロザーナさんの言いたいことが分かった。

 あれが楽園を手に入れる布石ならば、何としても潰さなきゃならないはずだ。
 出口を魔国が塞いだけど、それは商国の領土だと追認している風にもとれる。

「理由は二つあります。ひとつはまだ商国が楽園を手に入れていないことが分かっているから。もうひとつは、商国より先に我々が楽園を見つける予定だからでしょう」

「えっと?」
 どういうこと?

「竜国が楽園を先に見つけて領土宣言するわけね。あとで商国が文句を言ってきても、天蓋山脈を勝手に領土宣言しているんだから、説得力がないもの」

「はい。商国の意図はこちらでも把握しております。それを逆手に取らせてもらうことにしました。ゆえに形だけの抗議をして、その返答を戴いております」

「そっか……」
 これが政治的決断というやつか。
 わざと既成事実化させて実利はこっちが戴くという。

「前例があれば、すんなりいくものね。……もっとも、私たちが先に楽園を見つけるのが前提だけれども」
「その節はよろしくお願い致します」

 政治家、汚い。
 つい、そんなことを思ってしまった。

「不満もおありでしょうが、もっとも現地人がいないというのは、少ない可能性だと思います。『魔探』の情報では、そこに現地人の記述が散在されていますし、数点のスケッチが残されておりますが、そこに人の営みらしきものが書かれています。領土宣言はいわば保険です」

 ヨーサリィさんとしては、現地人がいる可能性がかなり高いので、あまり気にする必要はないだろうとのこと。

「それでは現地人がいた場合、商国がどう出るのかをお教えします」

 ヨーサリィさんは指を四本突き出した。

「商国の採るべき手段は、大まかに四つ。ひとつは現地人と交渉して土地を買い受けます。土地に変わるものを提供する用意があるのでしょう。魅力的な商品だけでなく、権利や名誉復興。現地人が望むものを叶えるつもりだと思います。……もっとも、騙して奪いとる可能性もありますが」

 他にも、土地の専属や占有契約を結んだり、優先的な売買によって流通を掌握するための足がかりにする可能性があるらしい。
 これが一つ目だという。

「あと三つもあるんですか?」

「ええ、そうです。次は、武力による占領ですね。呪国人を使い、五会頭が使う竜があれば可能でしょう。長い間戦乱を経験していないのならば、戦争という概念すらないかもしれません。厳密な階級社会のなかでまどろんでいるかもしれませんし、宗教的な信仰を柱に暮らしていることも考えられます。現地人の人数にもよりますが、占領は可能だと思います」

「かなり攻撃的な感じですね」

「それだけの富があると考えれば、決断することも視野に入れているでしょう」
 攻めて自領とするのは普通に考えられることだ。

「分かりました。いまのが二つ目ですか。あと二つもあるんですね。お願いします」

「三つ目は逆です。現地人の中に溶け込み、吸収合併される可能性も考えています。敢えて、向こう側に取り込まれることで中枢を掌握する感じでしょうか。商国は領土というものに重きをおいていませんので身軽です。十人いる五会頭の半数が向こうに加わり、第二の商国として機能させることも考えています」

「それはまた……僕なんか考えもつかない方法です」

 自分から取り込まれるのか。
 自国に愛着があればそういう手段は採らないはずだけど、商国だと、あり得るのか? 言われてみれば、あり得そうだな。

「理解していただけたようで、何よりです。さて、次です」
「四つ目……最後ですね」

「四つ目はなかったことにする可能性があります」
「えっ?」

「楽園を公表しません。見つけた後は箝口令を敷き、一切口外させないのです。かつて『魔探』がしたように」

「……でもそれって、『魔探』と同じ理由じゃないですよね」

「はい。公表せずに独占します。食糧がどこから沸いてきたのか不明のまま、経済に組み込もうとする可能性があります。その場合、現地人が反対すれば、全員を殺して埋めてしまう。そのうえで何もなかったとする可能性すらあります。公表しないのですから我々は抗議すらできません。すべて秘密裏に行われ、だれも関知できない状態で、国がひとつ誕生したと考えてください」

「そんなこと、できるんですか?」

「商国が本気でやると考えたらできると考えています。現地人は使い捨ての奴隷になるか、皆殺しになるか……いずれにせよ、いい未来はないでしょうね」

 以上四つの方針が考えられるとヨーサリィさんは言ったが、後になるほど重くなっていった。

 さすがに皆殺しはありえないと思うが……いや、どうだろう。何百年間も知られずにいた楽園だ。

 そこを手に入れるために、五会頭はかなりの資産を投入している。
 人的な被害も大きいと思う。

「分かりました。商国がそういう動きをすることがあると考えて行動します」
 そんなのを目の当たりにしたら、女王陛下の指令がなくても全員処理してしまうかもしれない。

「以上を踏まえて竜国の行動をお話します。現地人がいない場合、商国と同じです。わが国で領土宣言します。その後の流れは王都の指示に従うことになりますが、宣言した時点で竜国領となっていますので、他者の排斥、国境の制定などが最初の動きになると思います。この辺は我々の仕事です。レオン様には、何度が人を乗せて移動してもらうことになるでしょう」

「分かりました、それは協力できると思います」

「問題は現地人がいた場合ですね。その場合は政治的な判断になりまして、現地人がどう思って、何を求めているのかが重要になります。商国のような乱暴な手段は絶対に採りませんので、そこは安心してください。おそらくわが国を後援として、独立させることになるでしょう」

「竜国の支配下に置かないのですか?」

「国の決定しだいですが、面倒事を抱え込みたくないのではないかと愚考します」

 竜国は竜紋限界の中さえ無事ならば、あまり気にしないところもある。
 まあ、僕らが考えることではないので、その辺は後でもいいだろう。

「説明は以上のような感じでしょうか。やっていただく具体的な内容は紙に書いてありますので、熟読した上で質問があればお答えします。二日後までにこちらの準備も終えます。そうしたら山越えをしますので、心の準備をお願いします」

「分かりました。頑張ります」
「私も使命を果たしてまいります」

 こうしてヨーサリィさんとの会談は終わった。


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