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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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「他国の商人を狙い撃ちした法もあります」
「たとえばどのようなものでしょう」

「従業員の解雇に関する規定ですね。解雇は三十日の猶予をもって行われます」
「民が次の生活ができるように猶予を持たせるわけですか?」

「そうです。ですがやむを得ない場合は即日解雇できるとあります」
 あまり法に詳しくないからよく分からないけど、だったら普通に解雇できるのでは?

「通常解雇する場合は、ほとんどがやむを得ない場合ではないでしょうか」
 少なくとも理由なく解雇する雇用主はいないと思うのだけど。

「長年働いていた人を辞めさせる場合など、よほどの理由があるでしょう」
「そうでしょうね」

「さて、急な予定が入って自国に帰る商人がいたとしましょう。他国の商人です。すぐに帰らないと破産するかもしれません。かといって、竜国で雇った人を連れて行くことはできません」

 それは僕も知っている。

「勝手に従業員の所属する国を変えることは不可能ですね」
 一時的な場合は本人の同意だけでなんとかなるが、長期にわたって他国で働く場合、税金とかいろいろと面倒な手続きが必要だ。

「その通りです。というわけで、これはやむを得ない事情と雇用主が判断して、従業員を解雇します。ちゃんと法でうたっているから大丈夫だと」
「はい」

「ですが解雇された従業員が訴え出れば、その理由は通りません」
「えっ、そうなんですか?」

「はい。やむを得ない理由というのは、雇用される側に問題があり、なおかつ猶予を設けていられないときに使われます。雇用者側の理由はそれにあたりません。というわけで、商人は捕まります」

「捕まるんですか?」
「捕まります。そのような法がさきほどありましたでしょう」

「あっ、そういえば」
 他国に逃げられないように犯罪者と同じように捕縛できるんだった。

「捕まってから審議が始まります。商人が何を主張しても通りません。まず捕縛されます。そして商人を処罰する法には、従業員に一方的に被害を与えた場合は、損害分の三倍額の補償をするとあります」

「三ヶ月分の給与を支払うわけですね」
「いえ、違います」

「どうしてですか? 三十日の猶予をもって与えるのが法にありますから、その分の給与の三ヶ月分では?」

「従業員に猶予を与えず、また同意なく一方的に解雇した場合は、その時点で一ヶ月分の賠償をすることになっていますので、合わせて二ヶ月分。その三倍ですから……」

「六ヶ月分ですか……ずいぶんと高い授業料になりますね」

「はい。それはあくまで従業員との関係です。竜国の法を破ったのですから、商人は拘束されます。五十日くらいは労働義務が課せられるのではないでしょうか」

「それはまた……五十日も身柄を拘束されたら、その商人は倒産してしまいますね」
「ですが、そうやって竜国民の権利を守っていくわけです」

「ちなみにですけど、雇用主が竜国民だった場合はどうなります?」

「従業員が訴え出た時点で、雇用者へ聞き取りがなされますので、だいたい先ほどの賠償金を含めた二ヶ月分で和解することになるでしょう。もちろん拘束されません」

「なるほど……」
 自国民との差が浮き彫りになるな。

「竜国民の場合は、法を知っているので、そのようなことは中々おきませんよ。代々の商売を引き継いだり、独立したりする間にそういう知識は入ってきますからね」

「他国人の場合は入ってこないと?」

「自国で成功して竜国に新規出店したなんて場合、法として理解していても実際の運用までは分かってないこともあります。周囲が教えてくれるならばまだしも、他国の法の運用にまで詳しい方はそう多くないと思いませんか?」

「思います」

「法の字面だけでなく、中身まで理解できている者は他国民には少ないでしょう……それで商国商人たちは思うわけです。国ごとに法が違うのは我慢がならないと」

「言いたいことは分かりますが、それは仕方ないんじゃないでしょうか」

「はい。ゆえに商国商人たちはこうしたいのです。各国の法の上に、この大陸全体の法を作ろうと。それは緩やかな枠組みで構わない。ただし、だれもがそれに従うこと。そのような法を基本として、各国の法が下に作られる。それは素晴らしい考えだと」

「商国はそんなことを考えていたんですか」

「最終目標でしょうね。それを実現するためには、流通を牛耳らないと無理ですし、政治的な影響力を増さなければなりませんので」

「商国の最終目標は分かりました。それを調べるのに大変苦労したのだと思います。……それを実現させるために楽園を捜すわけですよね。それはなぜなんですか?」

「楽園をこの大陸の食料庫とするためでしょう。大転移が引き金になったのか、それともたまたま『魔探またん』の暗号を見つけたのか分かりませんが、国をひとつまるごと抱え込めるだけの食糧が生産できる肥沃な大地です。それを押さえれば、流通を牛耳る一助となるでしょう」

「言っている意味は分かりますが、武力を持たない商国に、楽園を守り切れるのでしょうか」
 竜国や魔国が侵攻すれば、商国は白旗を揚げざるを得ないのではなかろうか。

「呪国人がいますからね。彼らが切り札となるでしょう。武力で楽園を強奪した場合、その国の評判は地に落ちます。民の反乱がおきるかもしれませんし、指導者が暗殺されるかもしれません。失うものがなくなった商国は裏でどのようにでも動けます」

「呪国人が協力しますか?」

「します。先ほどの『法』の話。あれは呪国人の間で話題になっていたものです。商国の提唱する『基本法』は、どこへ行っても他国人として不平等な扱いを受ける呪国人の希望となるものですので」

「そういうことですか。互いの利害関係のために手を組んだ感じですか」

「呪国人は頼る者が他にいなかったという感じですね。食糧難がおきれば、自国民を優先する国ばかりです。彼らが一番割を食うのは明らかですし」

「商国と組むのは必然ですか」
「その通りです」

 このヨーサリィさん、なかなか博識だ。
 他国の事情にも通じている。外交官をしたら出世しそうだけど、本人は裏方の方が好きそうだ。

「そういうわけで、我々としては、商国よりも先に楽園に到達したいのです。商国はまだ楽園を発見したという話は出ておりませんので」

「ですがもう、僕らと同じように場所の目星はついているのではないですか?」

「なにかトラブルがあるのだと推測しております。そこら辺は調べようがないですが、それほど的外れではないと思います。商国はまだ楽園を見つけていません」

「分かりました。信じます」

「それでですね、楽園に関してですが、我々の予想をお伝えします」
 ヨーサリィさんの話は続く。


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