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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第7章 大転移-楽園編

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 アンネラの言葉は、一見すると理に適っている。
 山を越える手段と戻る手段がある――もっとも、可能性の話だが。

 ならば、多少目が回るくらいは許容でき……できると思う。そこは気合いだ。
 だがしかし、である。

「ソウラン操者じゃ駄目なのか?」
 なぜ僕なのだろうか。

 たしかに僕は大嵐渦だいらんかを何度か経験している。
 慣れているとは言わないが、どんなものか分かっている。

 それでも、僕でなくてもいいはずだ。

「それはですね。ソウラン操者の騎竜が嫌がったからなんです」
「試したの?」

「はい。実際に体験してみると言って、ソウラン操者が何度か挑戦したのですけど」
「どうなったの?」

「出す力を押さえた場合、渦の拘束力が弱くなりますので、嫌がった竜が渦から脱出してしまうんですね。これは本能みたいです」

 僕やアンネラのように竜と意思疎通できるわけではないから、竜の本能の方が勝ってしまうようだ。

「だったら、逃げられない強さならいいのかな」

「そう思ってやってみました。かなり強烈だったらしくて、途中で気絶してしまって……これは危ないということで、それ以上は実験していません」

「あー、そうなんだ」
 なんとなく分かった。これはシャラザードしか無理だわ。

 ということは、僕が行くのは確定か。そしてロザーナさんも……と思ったら、ロザーナさんが納得できないという表情をしていた。

「私もそんな命がけの一員に入っているのかしら?」
「シャラザードさんならば嫌がって逃げることもないですから、出す力はギリギリでいいと思います。それならば、命の危険はないですし」

「それでも危ないんでしょ?」
「少々……目が回るかなと思います」

「少々ね……」
 ロザーナさんが僕の方を見る。

「詳しい内容を現地で聞いてくれというのは、こういうことだったんだろうね」
 事前情報を与えなければ、諦めもつく。そんなことを思ったのだろう。

「………………はぁ~」
 ロザーナさんはじっとシャラザードを見つめたあと、諦めたようだ。
 ほんと、ここまできてしまったら、しょうがない。

「それでいつ行くの?」

 楽園探しは競争みたいなものだ。
 あまりゆっくりしていられないと思う。

「いま、ヨーサリィさんという方が中心となって準備してくれています。それでも出発まで数日はかかるかと思います」
「そうなんだ」

「すく行くわけではないのね」
 ロザーナさんも拍子抜けしたようだ。

「全体の指揮はヨーサリィさんが執っているので、その方の決断しだいだと思います」

「だったら、その人とお話してみたいわね」
「お忙しい方ですけど、すぐに会えると思いますよ」

 なんでも僕らに伝えたいことがあるらしい。

 だったらと、アンネラに言って会う段取りをしてもらった。

 ヨーサリィさんは王都の高官らしく、貴族の一人でもあるという。
 機密文書も閲覧できる権限を持っているとか。
 今は亡き王配と同じような役職の人かもしれない。



 小屋のひとつに入って待っていると、壮年の男性がやってきた。

 彼の名前は、ヨーサリィ・ダルダム。
 年齢は五十代くらい。老齢に入りかけているが、がっしりとした身体は軍人のようにも見える。
 角刈りの頭髪がそう見させているのかもしれないが。

「初めましてですな。ヨーサリィと申します。本来は裏方担当ですが、今回の任務が裏方のようなものですから」

 そう言って笑みを浮かべる姿は、一筋縄ではいかなそうな感じだ。
 この人が、事前情報を与えずに僕を呼んだのだろう。

「竜操者のレオン・フェナードです。こちらは古代語研究者のロザーナ・へディンです。今回の任務について、僕らに話があるとか」

「知っていることもあるかと思いますが、今回の目的と、現地で何をするのか、それと予想しうるトラブルと対策についてお話ししたいと思いまして」

「そういうことなら、お願いします」

「では、少々迂遠ですが、商国の目的からお話させてください。もちろん目的は楽園探しがそうなんですが、楽園を見つけて何をするつもりなのかご存じですか?」

 自信溢れる態度は相手に安心感を与える。
 だが僕からすれば、ちゃんと裏をとったのかと心配になってくる。

 そんな僕の思いに気づいてか、「竜国が総力をあげて調べたものです」と付け加えるのを忘れなかった。
 なかなかできる人だ。

「商国が楽園を見つけたら、この前と同じく領土宣言するんじゃないですか?」

「はい。商国は流通、もしくは経済活動を通じてわが国のみならず、この大陸に覇を唱えるつもりでいます。各国の流通を押さえてしまえば、民の生活を支配しているようなものですからね」

「それが可能かどうかは抜きにして、流通が滞れば食糧供給すらできなくなってしまいます。国は大混乱ですよね」

「まさにその通りです。ですがそれは、次なる目的の手段でしかありません。我々が調べた商国――いや、その前身というのでしょうか。原始の商会、それこそ五会頭がなぜそのような考えに至ったのかという、もっと古い、大元の考えがあるのです」

「はあ……」
 何か話が大きくなってきている? というか、話をはぐらかされた?

「彼らの最終目標は、この大陸すべてに通用する『法』を作ることです。我々は仮に『基本法』と呼んでいますが、各国の法の上に存在する『法』。それを施行させることを目指しています」

「それが最終目標ですか?」

 なんとなく、商国のイメージとは違う。
 どちらかといえば、商国商人たちって、各国の法をかいくぐるとか、ないがしろにしている気がするのだけど。

「竜国には竜国の法があります。技国も魔国もです」
「はい。知っています」
 各国によって法は微妙に違う。

「商国にも法がありますが、とても緩やかです。どちらかといえば、各国の法に従いなさいという色が強いですね」
「商人たちが各国に散るのですから、当然ですよね」

「はい。ですが各国の法は完成されていません。自己矛盾を抱えていたり、想定していないものについて、なんの記載もなかったり……」

 ヨーサリィさんはいくつか例をあげて説明してくれた。
 竜国の場合、貴族が守るべき法と民が守るべき法があるが、同じ商売をしたとき、身分によって出来ることが違ったりする。

 他にも、商取り引きに関する契約は双方が同等の立場であると法でうたってあるにもかかわらず、処罰について竜国民側が有利となっている。

「でもそれは、他国民の場合、不都合があったら自国に逃げ帰るからではないでしょうか」
 その場合、一方的に損を被るのは、竜国の商人である。

 たとえばリンダが技国から商品を仕入れたとする。
 技国の商人は、輸送を商国商人に依頼した。
 商国商人は、それをちゃんとリンダに届けなければならない。そういう契約だ。

 だが、なんらかの理由でそれが不可能となったとき、もしくは途中で着服、破損、商品瑕疵ができた場合もそう。届けられなかったときの責は、商国商人が追う。

 だが、商国商人だって損は被りたくない。
 そこで自国に逃げる。逃亡商人だ。
 すると、リンダは面倒な手続きをして商国に捕縛依頼をかける。
 だが、商国の法がそれを邪魔する。

 一度商国に逃げられてしまった場合、捕まえるのは不可能となってしまう。
 よって竜国は、他国民に限り、商取り引きで不都合が生じた場合、一般の犯罪者と同じように、身柄を拘束できることになっている。

 竜国から出た瞬間にご破算となるのだから、国外へ出さなければいい。
 身柄を拘束してからゆっくりと取り調べればいいのである。

 だが、商国商人からすればたまったものではない。
 捕縛というのは現行犯か、罪が確定した場合に限るのが普通である。

「あいつが怪しい」というだけで捕まえられてはたまったものではない。

 契約した荷が届かなければ、技国に確認し、双方の主張をまとめた上で輸送をした商人にヒアリングする。役人がすべての話を聞いた上で判断するのが普通である。

 一方的な証言のみで捕縛は穏やかではない。

「自国民とそれ以外の民に対する不平等があるのは事実です」

「そういうのを無くすのが商国の狙いですか」
「まあ、そうでしょうね。他国の商人を狙い撃ちした法もあります」

「そうなんですか? たとえばどのようなものでしょう」


先月から同時連載している「前略母さん、魔界は今日も世紀末ヒャッハー」ですが、とうとう100話を達成しました。
両作品とも、引き続きよろしくお願いします。
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